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CDれびゅ A〜D

数字・記号 A〜D E〜H I〜L M〜P Q〜T U〜Z あ〜た な〜わ VA その他(自主制作盤など)


A.C.T/プログレハード

 幻想的で繊細な音楽を基調とする、スウェーデンのメロディアスなプログレバンド。際だって超絶技巧を見せつけるわけではないが、さりげないセンスの良さは一級品。
 わかる人にはわかるが、一般リスナーにはプログレ臭を感じさせない程度のさりげない技巧、メタルとしては珍しく、低音、高音の強調されないあっさりとした音楽のため、ポップスリスナーから重度のプログレファンまで、幅広いリスナーを受け入れることのできる音楽だと思われる。

 安定した質でアルバムを作ってきているバンドだが、現時点で特にオススメなのは5thアルバム"Circus Pandemonium"。

Circus Pandemonium
[2014年発表 型番 MICP-11137(国内盤・2014年)]

[2014.2.22 初稿]
 8年振りにリリースされた5thアルバム。この間に何があったか知らないが、ブランクなんか無かったかのように曲調もバンドメンバーもそのまま。イントロを聴いたときは結構方向転換したのか? と思ったが、本編が始まると全然そんなことなかった。
 ただ、そのままと言っても進歩していないわけではなく、全体に曲の構成にメリハリが付いて、より聴きやすく、聴かせてくれる曲になっている。これは"Circus Pandemonium"というアルバムタイトルから想像されるアルバムコンセプトととも関連しているかもしれない。もともとA.C.Tはところどころに面白い展開を仕込んだ曲を作っていたが、それがサーカスというコンセプトによって強調され、より思い切り良く見栄を切った曲になっている。その分わかりやすく、面白くなっているというわけである。

 トラックリストを見ると1分程度の短い曲が多く(ほとんどは曲と曲の繋ぎのインストパート)、長編曲はないが、アルバム全体で1つの組曲を構成するコンセプトアルバムとなっており、物足りなく感じることはないはずである。
 国内盤ではボーナストラック"Scared"が12曲目に収録されているが、通して聴いても特に違和感は無い。むしろ、この曲の終わりと次の"A Failed Escsape Attempt"のイントロの音が重なるように編集されていて、もともとこの形でアルバムが構成されていたかのようになっている。

 ブランクがあることについて心配していたわけではなく、どんな形にしろ期待に添うものは作ってくるだろうと思っていたが、このアルバムの出来は期待を裏切らない内容であったし、期待以上のものでもあった。

SILENCE
[2006年発表 型番 MICP 10531(国内盤・2006年)]

[2006.6.21 初稿]
 4thアルバム。例によって後半に組曲が入る構成。
 巧みに変拍子を混ぜた軽快なリズムと流れるようなキーボードプレイ、明るくもどこかメランコリックなメロディは相変わらず健在。明るいメロディに似合わずエグい歌詞だったりするのも健在(笑)
 今作の前半部(Tr1〜Tr11)は、さらにプログレくささが隠蔽され、うっかりすると本当に普通のポップミュージックに聞こえそうなほどキャッチーで甘ったるい曲になっている。が、もちろん構成はさりげなくテクニカル。おそらく楽譜読むとびっくりするのだろう。

 そんな前半部とは打って変わり、組曲"Consequences"の方はブレイクの多用や刺激的なドラムプレイ、様々なギミックを盛り込んだ、技巧を前面に出した曲になっている。
 もちろん表向きには同じA.C.Tの楽曲なのだが、前半の、ともすればちょっと退屈とも感じてしまうポップさとは打って変わり、緊張が走りっぱなし。めまぐるしく起伏する展開に様々な趣向をちりばめ、これぞプログレといった風情。おそらく、今までのA.C.Tの曲の中で最もプログレらしいのではないだろうか。個人的にこの"Consequences"はA.C.Tのベスト曲として推したい。


 A.C.Tの表と裏の顔を両極端に出したような構成になっているこのアルバム。どちらの顔が好きなリスナーにも対応しており、なかなかユーザーフレンドリーなつくりになっているのではないだろうか。
 くれぐれも片方だけ聴いて評価しないように気を付けられたし。 

LAST EPIC
[2003年発表 型番 MICP 10349(国内盤・2003年)]

(2003.9.12 改稿)
 3rdアルバム。ドラマーにメンバーチェンジがあったが、質としては以前からのものを継承している。
 幻想的で繊細な音楽性、高い技術をさりげなく展開するセンスの良さは相変わらず。
 今作は1stの頃の曲調に戻り、際だった印象を与えるわけではないのに、一回聴けばさりげなく耳に残っているという感じの音楽である。最初に聴いた時の衝撃は少ないかもしれないが、なんとなくまた聴きたくなるような曲、と言えばいいのか。
 そんな淡い印象の曲でありながら、聞き込むとやはり意外とハイテクのドラムやセンスのいいシンセワークが光っている。
 ギターリフの入れどころ、シンセの音の選択、入れどころなどの気持ちよさは絶品。

 Tr3〜Tr9は毎度おなじみの組曲になっており、英検4級の腕前で脳内翻訳したところ、今回も生活感を漂わせつつも意味深な歌詞の乗った曲となっている模様。

 私としては、2ndの頃のように、もう少しキャッチーなメロディを追求して欲しいところだが、こういうさりげなさを装うのもなかなかいい。質の高さは相変わらずなので、前作が気に入った方や、プログレファンは押さえて損なし。

imaginary friends
[2001年発表 型番 MICP 10234(国内盤・2001年)]

 A.C.Tの2ndアルバム。
 変拍子などのギミックをさりげなく用いて緊張感を漂わせつつも、技術臭さを感じさせず、あくまでストレートでキャッチーな音楽に聴かせるセンスの良さなどは一級品。
 展開の仕方がかなり巧く、注意して聴いていないと、いつの間にこんな展開になっていたのかよくわからないこともある。そのくせメロディラインのひとつひとつが強烈な印象を与えるため、一回聴いたら耳に焼き付いて残るほどのキャッチーさも兼備する。こういうセンスの良さはプログレファンに受けるだろうが、ストレスにならない分、洋楽ポップスなどのリスナーにも充分聴くに耐える音楽だろう。
 ヘヴィメタルからすると多少軽い音のため、重低音大好きなメタルファンには物足りないかもしれないが、幅広いリスナーを獲得しうるアルバムである。

 基本的に明るめの曲調にわずかな哀愁を含んだ音楽が多数を占めるのだが、唯一Tr1"Take it Easy"だけが哀愁深い曲感を貫き、意味深な歌詞と相まってアルバムの引き締め役となっている。こういう曲の配置もセンスの良さを感じるところである。
 Tr7〜Tr14は組曲となっているが、これもストレートで聴きやすいので、プログレの組曲で痛い目を見た人でも大丈夫だろうと思われる。

today's report
[1999年発表 型番 0681-02(UK・1999年) 国内盤あり]

(2003.9.12 改稿)
 A.C.Tの1stアルバム。
 基本的にはちょっとレトロな雰囲気と、フュージョンっぽくてスローテンポな、ゆったりと流れるような曲調でありながら、キレのリズムと複雑な展開を見せる。

 私は先に2ndを聴いていて、あまりにもツボにはまってしまったため、後で聴いたこのアルバムはそんなにすごくないかな……と思っていたのだが、じっくり聴いてみると実はそうでもなかった。
 2ndの方は、一曲一曲のキャラクターがしっかりしていて、印象に強く残る音楽であるのに対し、1stは聴き流せるような心地よいサウンドでありながら、聞き込めばドプログレという、羊の皮をかぶった狼のような感じである。これはこれでいい。

 Tr1"Abandoned World"などはその典型で、聞き流すと普通に耳に心地よい音楽に聞こえてながら、実際はかなり凝った作りで、かなり思い切った展開を多用している。
 普通、ここまで急激な展開をやると、ドリームシアターの1stのような、かなり混沌とした印象を受けるのだが、アクトはその辺をうまく隠して曲を完成させているわけである。

 聞き込みがいのあるテクニカルな曲でありながら、聴き流すといい感じのBGMにもなってくれる。やはりアクトは巧い。

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ADAGIO/ネオ・クラシカル

DOMINATE
 2006年発表  型番 MICP-10561(国内盤・2006年)

[2006.1.25 初稿]
 本当にあのアダージョ? と疑うほどの変貌を遂げた3rdアルバム。
 今作では、ネオ・クラシカルと言うより、ちょっとブラックメタルの入ったジャーマンメタルと言った方が良さそうな感じに。スピードチューンが増え、ギターやドラムのエッジ感が強調されたパワフルな曲調に変化。
 ストリングスやピアノは従来通りふんだんに使われているものの、それらの意味合いもどちらかというとブラックメタル調の暗黒性を帯びた感じになっている。
 端々に以前の面影を残してはいるものの、もうほとんど別のバンド。


 特にTr1"Fire Forever"、Tr2"Dominate"は、ANGRAあたりを彷彿とさせるような完全なメロスピ。特に"Fire Forever"はアダージョとは思えないくらい直球勝負の疾走哀愁メタル。いきなりこんな曲なので買うCDを間違ったかと思った(笑)

 逆にTr5"R'Lyeh The Dead"は、ゆっくりとしたテンポ、ダークなストリングス、ピアノサウンドの高音とデス声とギターリフの低音を対比させる、典型的なブラックメタルの手法で作られている。

 そして、この両方の特色を混ぜたような曲がTr4"Children Of The Lake"。不気味なピアノソロや暗黒オーケストラと重低音ギターカッティングパートと哀愁メロスピパートが入れ替わりに訪れる節操のない忙しい曲。全体の曲の調和としてはどうかと思うが、聴いていて面白い曲ではある。


 まだ方向を模索している感じの、まとまりには欠けたアルバムだが、実力派バンドだけあって、まとまらないなりにうまく仕上げているのは面白い。決してできの悪いアルバムではないのだが、どういう嗜好の人に勧められるかは判断の難しいところ。
 とりあえずメロスピが好きな人なら、他の曲に過剰な期待をせず、最初の2曲目当てになら買ってもいいように思う。

Underworld
 2003年発表  型番 MICP-10373(国内盤・2003年)

 アダージョの2ndアルバム。
 バンド名を見た時「これはいい」と思い、根拠なく名前買いしたアルバムで、どういうバンドかは全く知らない。

 私が何をどう嗅ぎつけたかは不明だが、Tr1"Next Profundis"がいきなりピアノソロを効果的に用いたネオ・クラシカル。ヴォーカルよりもギターよりもピアノの音の方が目立つ目立つ。イントロのテンション入りまくりのピアノソロに客席総立ち(客ってお前だけだろ)。
 そうだよ、こういう曲が欲しかったんだぜ(笑)

 ……それはともかく、曲としては、ゲームや映画のBGMで使われそうな、オーケストラ(このアルバムでは本物のオケではないが)とメタルを融合させた音楽を、メタルバンドという枠組みの中で作ったような曲となっている。
 ゲーム音楽に代表されるサウンドトラックは、あまり既成の音楽に縛られないで曲を作ることが出来る反面、映像に合わせることが前提となるため、インスト中心になり、一曲の中での展開もあまり起伏に富ませることはできない。
 メタルバンドの場合、音楽を中心としてイメージを構築できる分、BGMではやりづらい面で融通が利く。メタルバンドとサウンドトラック、両者の利点を存分に活かした楽曲になっているといえばいいだろうか。
#ただ、ライヴではやりづらそうな音楽ではある。

 ともかく、クラシカルなピアノを中心に添えた楽曲は個人的に大ヒット。特に、使い古された表現や単なる速弾きなどではなくて、現代音楽に通じる不協和音を巧みに使用した表現を基盤とした仕事はピアノまにあ必聴。
 この辺が単なる懐古主義的なその辺の「ネオ・クラシカル」とは一線を画すところだろう。

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AFI/ハードロック

 アメリカのバンド。インディーズの頃はメロコア(パンク)バンドだったが、メジャーデビュー前後からゴシック風やハードコア風、エレクトロ風など、様々な曲をやるようになった。アルバムの中に全く異なるカラーの曲が混在していることも多い。
 ヴォーカリストの表現力の幅広さがバンドのカラーを支えており、甘いゴス声からシャウト、果てはそのままデスメタルでもやっていけそうなデス声までも披露している。
 やっていることは雑多だが、メロディやリフは比較的シンプルかつキャッチーで、聴かせどころのツボを押さえた曲を作ってくる。

 8thアルバム"CRASH LOVE"は、雑多な音楽性や、彼らの原点であるメロコアっぽさも薄れて、正統派なハードロックアルバムとなっている。

CRASH LOVE
 2009年発表  型番 UICS1188(国内盤・2009年)

[2010.3.2 初稿]
 8thアルバム。国内盤は2曲のボーナストラックと、氷室京介とのデュエット風の"Miss Murder"付き。
 前作はインダストリアルだったりデスパンク(?)っぽかったり甘ったるかったりと変化球的な曲が多かったが、本作はシンプルに正統派ハードロックしている曲が多くなっている。若干ゴシックの影響を感じさせる甘めの展開はあるものの、極端に毒々しいゴス声やデス声はほとんどなし(全くなし? 何度か聴いたが記憶に残ってない)。

 前半はAFIらしい甘めのヴォーカルでバラード的なメロディをハードロックサウンドで仕上げる曲が占め、Tr7"Medicate"を境目に、後半戦はより硬派な曲が並ぶ。
 中心に据えられた"Medicate"は紛れもなくキラー曲。こんなにシンプルで格好いい直球ロックが21世紀に登場すると、ひとまわりしてかえって新鮮に感じる。

 中途半端にデスってたりゴスってたりするAFIも面白いが、彼らの一番の魅力であるリフとメロディを素直に出してロックしている本作は、地味だが珠玉の一枚。
"Medicate"一曲のために買っても惜しくないが、それ以外の曲の出来も軒並み上質。


 なお、"Miss Murder"の氷室京介とのデュエット版だが、オリジナルの音源をベースに、氷室京介のアルバム"IN THE MOOD"に収録されたカヴァー版のヴォーカルパートを重ねて作ったバージョンの様子。本作のために特別に作ったバージョンなのだろうか。
 しかし、氷室ヴォーカルはDavey Havokのオリジナルヴォーカルにほとんど消されて聞こえず、アレンジものとしてはあまり意味のない曲となっている。販促もののオマケ程度に考えておいた方がいいだろう。

Decemberunderground
 2006年発表  型番 UICS-1124(国内盤・2006年)

[2010.3.10 初稿]
 7thアルバム。国内盤にはボーナストラックの他、PVの収録されたDVDが付属している。"Miss Murder"のPVがえらく格好いいので、もし購入するならば、中古で探してでもDVD付き国内盤をおすすめする(笑) 歌詞の意味を理解していると、さらに楽しめるので、自分で辞書を引いて頑張ってみよう。付属の和訳は若干ニュアンスを取り違えている部分がある。

 ドラマチックな"Prelude 12/21"から始まったと思えば、デス声を使いまくったハードな"Kill Caustic"(Bullet For My Valentineにちょっと似てる。アレのアメリカ版といった感じ)へと続くという無茶苦茶な曲順が示す通り、エレクトロニカ、デスエモパンク(?)、ゴシックと、様々な曲調を詰め込んだ、バラエティに富んだ一枚。かつてのAFIらしい元気なパンクもあり。
 アルバムとしての整合性は無きに等しいが、曲の出来は粒ぞろいで、苦手なジャンルが無ければどの曲も楽しめる。前作で見せた北欧メタルっぽい曲調も、今作では結構うまくはまっており、聞き苦しいところはなくなっている。

 しかしこのアルバムの目玉は、なんといってもTr3"Miss Murder"だろう。ドラマチックな展開の割にはものすごくシンプルで力強いリフ、ゴシック風の甘いささやきからデスメタルバンドかと思うほどの迫力あるシャウトまで使ったヴォーカルと、AFIの雑多さとシンプルさが見事に融合した奇跡の曲である。

"Miss Murder"一曲のために、そしてなにより"Miss Murder"のPVのためだけに買っても全然惜しくないアルバム。"Miss Murder"と同じタイプの曲はないので、それを期待してしまうとちょっと辛いかもしれないが、どの曲も彼ららしいカラーで高水準にまとめており、アルバムとしては良質。

Sing the Sorrow
 2003年発表  型番 0044-50380-2(USA・2003年) 国内盤あり

[2010.3.6 初稿]
 6thアルバム。メジャーデビュー1作目。
 クラシカルなイントロからパンクっぽいシャウトへと続くTr1"Miseria Cantare - The Beggining"が象徴するように、エレクトロニカ、エモパンク、ゴシックメタル、果ては北欧メタルのバラードっぽいものなど、あらゆるカラーが雑多に詰まったアルバム。ただし、ミクスチャバンドにありがちなプログレの影響はなく、正統派ロックがベースになった、リフとメロディで勝負するタイプのそれである。

 Tr1〜4は、クラシカルな雰囲気を色濃く漂わせ、どことなく北欧メタルっぽさを漂わせつつ、そこにエレクトロニカやエモサウンドを混ぜた、なかなか珍しい取り合わせの曲が並んでいる。決して素晴らしい曲とは言えず、ヴォーカルの声質がやや不安定なのが気になるが、聞き込んでみると意外にそこそこの水準で仕上がっているのが面白いところ(他の曲ではヴォーカルの声が気になることはあまりないので、この手の曲を歌うのが苦手なのかもしれない)。
 Tr5"Dancing Thorough Sunday"は一転して、本来のAFIらしいメロコアパンク。
 Tr6"Girl's Not Gray"は正統派ハードロックナンバー。このアルバムで最も良くできた曲が、最もシンプルなハードロックだというのが、皮肉というか面白いところである。逆に言えば、素性がいいからこそ、これだけいろいろな曲を作っても、一定の水準を保てるとも言える。
 Tr7"Death Of Seasons"は、パンク系のリフでデスメタルのような急激なリズムチェンジや変態的な展開をやっている変な曲。
 Tr8以降は、ハードロックサウンドをベースにした、比較的素直なナンバーが並ぶ。中盤の3曲を挟んで、前半と後半では全くカラーが異なるのがこのバンドらしいと言うか、面白いところである。

 クラシカルな要素を混ぜた前半の曲のデキはそんなに良くないが、Tr5以降の曲の水準は高い。正統派なハードロックを中心としながら、いろいろなタイプの曲が楽しめるアルバムである。少なくとも"Girl's Not Gray"一曲のために買っても惜しくはないだろう。 

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ANDY TIMMONS/フュージョンロック

The Spoken and the Unspoken
 1999年発表  型番 VICP 60951(国内盤・1999年)

 3rdアルバム。ギターメインのインスト曲が中心だが、Andy Timmons本人がヴォーカルを担当した曲が3曲収録されている。
 曲はどれも構成を最優先したつくりで、速弾きなどの楽器単体の見せ場はほとんどなく、完全に楽曲を構成する一要素として、自分のヴォーカルやギターを置いている。技術的には高度でも聴いた感じではちっとも嫌みのないギターサウンドが心地いい。

 インスト曲の方は、下手な歌ものでは及びも付かないキャッチーで浮遊感のあるさわやかなメロディをギターが奏でるフュージョン系の曲になっているが、ロックとしての気持ちいい切れ味のリズム感や音質のハードさもきちんと残されていて、聴き方によっては古き良きハードロックといった味わいも漂っている。
 ヴォーカル曲の方はジャズ/フュージョン寄りのアーティストらしく、ヴォーカルをあくまで曲の一部として使用し、中心に据えないようにする作り方がなされている。もちろんヴォーカルがメロディ部分を担当してはいるのだが、白玉(延ばし)の多いメロディラインを歌うことで、他のパートを引き立てるコーラス的なヴォーカルパートに仕立てている。

 BGMにしても邪魔にならないような音でありながら、一回聴くとはっきりと耳に残るだけの強烈なインパクトを持った曲ばかりである。

That Was Then, This Is Now
 2002年発表  型番 VICP 61856(国内盤・2002年)

 1stアルバム"ear X-tacy"と2ndアルバム"ear X-tacy 2"より選りすぐった11曲をリマスタリング、それに新曲5曲を加えたもの。全曲インストだが、最後のボーナストラックはヴォーカル曲となっている。
 ベースとなるものは3rdアルバムと同じくフュージョン系のサウンドだが、現在の洗練された編曲という感じではなく、もっとギタープレイを前面に出したアグレッシヴな曲になっており、どちらかというとロック寄りの音楽。上品ではありながらもテクニカルなギターサウンドをバリバリとやっている感じで、ジャズで言えば延々とギターがアドリヴをやっている感じと言ったところ。
 ちなみに新曲の方も過去の作品に合わせてか、ひたすらギタープレイを聴かせる曲になっている。

 素直に格好いい曲が目白押しで、爽快感のある曲は爽快に、ねっとりとした曲はねちねちとめちゃ弾きを見せつけてくれ、特にギター好き、ロック好きでなくても楽しめるであろうインストアルバムである。

 特に面白いのは、一聴しただけでわかる人にはわかるイングヴェイ風インストのTr12"Groove Or Die"。本家が弾いていてもおかしくないような速弾きスピードチューンでありながら、同時に「インギーの曲じゃないな」と思える上品さというか、そういうものが漂っている一曲。イングヴェイはヒステリックに金切り声を上げるヴァイオリンといった感じの音だったが、こちらはまさにジャズプレーヤーが冷静かつ熱いプレイを見せてくれているという感じ。

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Anglagard(プログレ)

 スウェーデンのプログレバンド。King Crimsonの影響を色濃く漂わせながらも、クラシカルなアプローチで曲を構成している(King Crimsonはフリージャズの影響が強い)。
 2枚のアルバムとライヴ盤を発売後、解散。アルバムは何度も再販されているにも関わらず、入手困難となっている。
 公式サイトで収録曲を視聴することが可能。

Hybris
 1992年発表  型番 ANG 01(2009年 US) 2009年現在、国内盤無し

[2009.9.17 初稿]
 1stアルバム。1992年のオリジナル盤は全4曲だが、私が入手した物はデジパックの再発盤で、ボーナストラック1曲収録の全5曲。
 明らかにKing Crimsonの影響を感じさせるような音楽性でありながら、曲の構成はクラシカルなアプローチから作られている。ただしシンフォニックという感じではなく、サウンドは妙に乾いていてタイト。クラシカルというよりはトラッドといった方がいいのかもしれない。
 時折、EL&P(というか、それに影響を受けた桜庭統や植松信夫というか)っぽいパートも散見する。

 フルートやピアノを主体に、北欧独特の寒々しいサウンドが不安感を煽り、全く先の読めない展開がそれに輪をかける。この手の猫の目展開の曲にありがちなユーモア的な部分は全くなく、どこまでもシリアスに難解な曲が淡々と流れていくのは不気味である。

 遊びが全くないシリアスサウンドの上に何度聴いても覚えられない複雑な構成なため、聴き手を選ぶ音楽であることは間違いない。しかし、案外ゲーム音楽のプログレサウンドを聞き慣れている人にとってはすんなり受け入れられる音楽なのかもしれない。

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ANGRA/メロディック・パワーメタル

 ブラジルのバンド。HELLOWEENの影響下にあるバンドだが、単にそれだけではなく、クラシックに裏打ちされた大仰かつ繊細な曲構成と、ブラジル音楽独特の陽気さを融合した、独特の音楽性をもつバンド。曲の展開の仕方が巧みで、哀愁メロディを突如として陽気なメジャー調の音楽に変貌させるなど、飽きさせない工夫が随所に施されている。

 3thアルバムリリース後、バンドの創始者であり中心人物だったAndre Matos(Vo)がドラマーとベーシストを連れて脱退、SHAMANというバンドを結成。
 残されたKiko LoureiroとRafael Bittencourt(G)は新メンバーを募ってANGRA復活を成し遂げた。

 このバンドのアルバムは毎回傾向が異なり、1stアルバム"ANGELS CRY"はクラシック寄りで、2ndアルバム"HOLY LAND"は民族音楽色・ラテンロック色が強く、3rdアルバム"FIREWORKS"はメタル色が強い。
 アンドレ・マトス脱退直後の4thアルバム"Rebirth"は1st〜3rdアルバムの集大成的な内容になっていたが、5thアルバム"Temple of Shadows"はHELLOWEEN型のメロパワサウンド、6thアルバム"Aurora Consurgens"はダークなメロパワに"Rebirth"の民族音楽調曲を足したような曲調。

 おすすめは、バランスが取れて聴きやすいのは4thアルバム"Rebirth"、1stアルバム"ANGELS CRY"(ミックスの状態がいいので、ミニ・アルバムの"Evil Warning"の方がよりおすすめではある)。ラテンロックやフュージョンが好きでメタルも聴くなら2ndアルバム"HOLY LAND"。

 なお、私は巷では名盤と呼ばれる"Temple of Shadows"を含む、最近のANGRAの曲がどうしてもイマイチにしか聞こえないのだが、もしかすると、十字軍やシェークスピアなど、ヨーロッパの事物を題材にしたコンセプトだと、彼らの持ち味であるブラジルサウンドが活かせないからなのかもしれない。

AQUA
 2010年発表  型番 VICP 64859(国内盤・2010年)

[2012.2.13 初稿]
 7thアルバム。シェークスピアの「テンペスト」をモチーフにしたコンセプトアルバム。全体的に5thと6thアルバムの曲調を混ぜて明るくしたような感じになっている。

 アルバムタイトルが示すように全体通して「水」がテーマになっていることもあり、スピードチューンはほとんどなく、ゆったりとした曲が多数を占めている。得意の民族音楽調サウンドも盛り込まれており、どことなく初期Angraの曲調も漂わせている。

 となると、本来なら私にとっては大好物のアルバムであっていいはずなのだが、どの曲もなぜか琴線に触れない。どの曲もぱっと聴いた感じだとすごく良さそうなのに、聴き込むとどうも、ひと味足りない感が漂ってくる。過去のAngraやkikoのソロアルバムの曲で充分に感じてしまうのである。
 また、アルバムの音質もあまり良くなくて、やや籠もった音になっている。せっかく明るく開放的な曲調なのに、この音質では台無し。

 私の趣味とも合致して、曲のデキも悪くなく、私がAngraに求めていた曲調そのもののはずなのに、なぜかちっとも良いように思えないという、かなり不思議なアルバム。何がダメなのか私にもわからない(シェークスピアというブリティッシュな題材だと彼らの持ち味を活かせないのかもしれない)。
 発売当時に予約して入手し、1年以上聴き込んでも評価が変わらなかったので、理由はわからないが、私には合わないアルバムなのだろう。音質こそ残念だが、全体に曲の水準は高めで、決して悪いわけではないはずなので、Tr3〜Tr5あたりを試聴して、買うかどうかを決めるといいかと思う。
 私の気持ちとしては、同タイプの曲を求めるならKikoのソロアルバムや"Hunters And Prey"をおすすめする。

Aurora Consurgens
 2006年発表  型番 VICP 63615(国内盤・2006年)

[2012.2.13 改稿]
 6thアルバム。
 なんとなくHelloweenの"Time of the Oath"の頃を思わせるような、ややダークな曲調と、前作に比べるとブラジル音楽らしいリズムや曲調が復活していることが特徴。
 世間の評価は高くないアルバムだが、私が"Time of the Oath"あたりの暗いHelloweenが大好きなこともあってか、"Temple of Shadows"に比べるとずっと好みのサウンドだったりする(私の感覚では"Temple of Shadows"のサウンドの方が暗くて複雑で、本作の方がまだ明るくてシンプルなように聞こえる)。
 Tr1"The Course of Nature"のザク切りギターリフのリズムや、Tr7"So Near So Far"で使われているような民族音楽調と大胆な転調こそがAngraの魅力だと私は思っているので、それが見られなかった前作に比べると、彼ららしいサウンドに戻ってきた気がする。

 スピードチューンは少なめで、やや複雑な曲が多く、"Nova Era"や"Spread Your Fire"のような派手な曲がないため地味ではあるが、私の耳にはどう聴いても前作よりずっと良いようにしか聞こえない。私と同じように、Angraの魅力は民族音楽調と転調だと思っている人にはおすすめ。"Temple of Shadows"が好きな人はパスした方がいいのかもしれない。

Temple of Shadows
 2001年発表  型番 VICP 61568(国内盤・2001年)

[2011.9.28 改稿]
 5thアルバム。十字軍に参加した戦士の物語を描いたコンセプトアルバムの形式になっている。また、カイ・ハンセンやハンズィ・キアシュなどのゲストが多数参加していることも特徴。

 コンセプトの関係もあってか、前作以上にHELLOWEEN色が強くなり、ラテンジャズ色が薄れている。メロスピ、メロパワが好きな人にとっては素晴らしいアルバムのはずだが、私個人としては"HOLY LAND"タイプのブラジル民族音楽調の曲こそがANGRAの最大の強みであり個性だと思っていたので、なんとなくただのメロパワバンドになってしまった感じがして、どうにもいただけない印象ではある。"Carry On"タイプの、多くの人がANGRAに求めているであろう曲が目白押しで、それらは確かに良い曲なのだが。

 ラテンジャズ色やフュージョン色の強い曲は、Kiko Loureiroのソロアルバムで思う存分聴けるので、私と同じような感想を抱くような人はそちらをチェックするといいだろう。
 HELLOWEEN、Gamma Ray、Blind Guardianなど、要するにゲストの名前でピンと来る人には素晴らしいアルバムであることは間違いないだろう。世間での評価では、これをANGRAの最高傑作とすることが多い。
 私がこのアルバムをイマイチと思うのは、Gamma Ray、Blind Guardianが好きでないあたりにも要因があるのかもしれない。

HUNTERS AND PREY [企画アルバム]
 2002年発表  型番 VICP 61825(国内盤・2002年)

 新曲5曲(1曲は"Rebirth"のボーナストラック曲)、カヴァー曲1曲、そして、前作"Rebirth"収録曲のアコーステック・バージョン2曲で構成される企画アルバム。ついでに、パソコンで再生した場合、収録されているプロモーションビデオ、スクリーンセーバーや壁紙なども閲覧できる。

 主にスローテンポ、ミドルテンポの曲で構成されている本アルバムだが、新曲5曲の方は、Tr1"Live And Learn"はちょっとストレートすぎてイマイチかなと思う以外は、どれもRebirth楽曲群と比べても遜色ないデキとなっている。
 特にタイトル曲Tr3"Hunters And Prey"は、土臭さと、現ANGRAのヘヴィかつ洗練された曲調がうまく融合されている感じの、いいデキの曲である。ちなみに、Tr8はTr3のポルトガル語バージョン。

 Tr7"MAMA"は、GENESIS/"GENESIS"収録の"MAMA"のカヴァー曲。まさかANGRAがジェネシスのカヴァーをやるとは思わなかったが、これは多少無理があったような感じがする。

 あくまで企画モノなので、ライトなファンは無理して買う必要はないかもしれないが、前作"Rebirth"が好きなら、買っても損はしない。
 あと、ANGRAの民族音楽調曲が好きなら"Hunters And Prey"目当てで買ってもいいはず。

REBIRTH
 2001年発表  型番 VICP 61568(国内盤・2001年)

[2011.9.28 改稿]
 4thアルバムにして、復活ANGRA1stアルバム。ヴォーカル、ベース、ドラムと、メンバーが3人も脱退し、空中分解しかけたANGRAが、新メンバーを迎えて製作した。

 1stアルバム〜3rdアルバムまでのANGRAの曲調を集めて、リニューアルしたようなアルバムになっており、"Carolia IV"っぽい民族音楽調のTr6"Unholy Wars"もあれば"Carry On"のようなスピードチューンであるTr2"Nova Era"もあり、贅沢な内容になっている。
 ややリバーブが効き過ぎてはっきりしなかった音像もシャープになり、よりメタルらしくなったと言える。今まではクラシック寄りの繊細なサウンドだったのが、若干メロパワ路線が強くなった印象。

 悪く言えば焼き直しの曲ばかりとも言えるが、それにしてもどの曲も高いレベルで仕上がっており、内容としては文句のないところだろう。

HOLY LAND
 1996年発表 型番 VICP-5633(1996年・国内盤)

[2011.9.28 初稿]
 2ndアルバム。
 Tr2"Nothing to Say"やTr9"Z.I.T.O."こそ、このバンドに期待されていたであろうHELLOWEEN系メタル曲だが、むしろこのアルバムの真骨頂はTr4"Carolina IV"やTr5"Holy Land"などの、民族音楽調の曲だったりする。
 全編通して、本当にメタルバンドのアルバムなのかと疑うくらいギターのゴリゴリも重低音も控えめの優しいサウンドになっているが、とにかくメロディラインが素晴らしく、それにプラスしてラテンリズムがいいアクセントになっていて、聴いているとかなり心地よくなるアルバムではある。特にTr3"Silence and Distance"〜Tr7"Make Believe"の、メタル野郎にとっては退屈で仕方ないだろうくだりは、ラテンロックかなにかだと思って聴くととても良い。

 メロパワ、メロスピと思って聴くと退屈でしょうがないはずなので、パスするか、"Nothing to Say"と"Z.I.T.O."だけ聴くといいかも。これはむしろフュージョンやラテンロック好きが聴くべきアルバムだろう。SHAMANの1stアルバム"Ritual"やKiko Loureiroのソロアルバムが好きな人も。

EVIL WARNING [ミニ・アルバム]
 1994年発表  型番 VICP-15043(国内盤・1994年)

[2011.9.28 改稿]
 1stアルバム"ANGELS CRY"から"Evil Warning"、"Angels Cry"、"Carry On"、"Wuthering Heights"の4曲を演奏し直して収録したミニ・アルバム。アレンジバージョンなどではなく、各パートを演奏し直し、音量バランスなどを調整し直したバージョンとなっている。
 素人臭かった変なミックスが大幅に改善されているので、このミニ・アルバムは絶対に買って損はないと思う。
"ANGELS CRY"の主要曲はみんな入っているので、むしろこのミニ・アルバムだけ買えば"ANGELS CRY"はいらないんじゃないかと思えるほどである。

ANGELS CRY
 1993年発表  型番 VIC5314(国内盤・1993年)

[2007.6.23 改稿]
 1stアルバム。
 シンセオケによる「どクラシック」なイントロ曲や、Tr9"Evil Warning"に一瞬ヴィヴァルディ『四季』の「冬」が引用されていることなどに象徴されるように、クラシックからの影響を隠そうともしない本作。
 しかし、キーボーディストがメンバーにいないこともあり、オケの使用はそれほど目立っているわけではない。音よりも編曲部分にクラシックな技術が用いられており、それにブラジル音楽の独特なリズム感と陽気さが加わり、メジャー調とマイナー調を縫うような、独特の音楽を作り出している。

 代表曲であるTr2"Carry On"がスピードチューンのために一般にメロスピとして分類される彼らだが、実は純粋な疾走曲はこれ以外に収録されていない。
 実際はTr6"Never Understand"やTr9"Evil Warning"のような、緩急の激しい複雑な展開をした曲の方が多く、作曲・編曲面で相当に技巧寄りのバンドだと言える。
 上に挙げた二曲はその中でも完成度の高い曲だと言えるが、Tr4"Angel Cry"のように、若気の至りでほとんど脈絡のない急激な展開に終始する曲も、それはそれで面白い。

 楽曲としては完成されていない曲も多く、結構勢いでごまかしている部分もあったりするのだが、どの曲もキャッチーなメロディは忘れておらず、単純に聴くだけでも充分楽しめる。

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Animals as leaders/プログレメタル(インスト)

The Joy Of Motion
 2014発表 型番 SUM473(US・2014年)

[2014.9.2 初稿]
 3rdアルバム。基本的には前作を正常進化させたアルバムだが、1stアルバムにはあって2ndアルバムでは忘れてきたものもちゃんと回収しており、一気にクオリティが向上している。本作を聴いてから前作を聴くと、前作はいろいろやりたいことを詰め込みすぎて冗漫になっているのがわかる。それくらい本作のデキはいい。

 いろんなジャンルをミクスチャして、冷たさと暖かみの同居するサウンドでまとめる手法は今までと変わらないが、混ぜ過ぎていたのを整理して、やりたいことをはっきりさせた感じの構成になっており、一曲ごとのクオリティはかなり向上している。一曲にいろいろ混ぜ過ぎるのではなく、いろんなアプローチの曲を作るようになっている。おかげでアルバム内の曲のバラエティは豊富に。
 Tr1"Ka$cade"はこのバンドに最も期待される通りの曲調でトップにふさわしい内容だが、前作で多用していた、なんとなくMeshuggahっぽいリズムのTr6"Tooth And Claw"などの他、1stの"On Impulse"系統のアコースティックギターを前面に使った曲でも、Tr4"Another Year"、Tr8"The Future That Awaited Me"、Tr9"Para Mexer"で、それぞれ異なったアプローチから曲が作られている。

 また、前作はギターもドラムも遠慮しがちな感じだったのが、今作では生き生きとしている。もともとこのバンドは、冷たく無機質なテクノフレーズをやりながらも、どこか感情的な演奏が特徴だったのだが、前作では、加入したてのドラムは仕方ないにしろ、なぜかギターまで遠慮した結果、一番のウリを殺してしまった印象があった。本作ではそれが解消されたことで、ドラムが生になったことがようやく意味を持つようになったと言える。

 1stアルバムは衝撃的ではあったが、今から聞くと、ドラムはシンセだし、フェードアウトで曲が終わったりするしで、荒い点もあったわけである。本作はその辺の欠点も改善され、2ndから導入されたリズムの面白味も加わり、曲のバラエティも増えている(フェードアウトで終わる曲がなくなったわけではないが)。今までのアルバムは試運転で、ようやくこれから本始動という感じなのかもしれない。

 2ndアルバムがイマイチだった人も、本作は満足できるのではないだろうか。少なくともTr1"Ka$cade"やTr8"The Future That Awaited Me"あたりは1stアルバムの曲に近い。

WEIGHTLESS
 2011年発表  型番 Prosthetic records 65619101062-7(US・2011年)

[2011.11.27 初稿]
 2ndアルバム。正式メンバーなのかどうかは不明だが、ギタリストとドラマーが加わったことで、やや音に厚みが出ている。
 それに伴いバンドらしい曲になるのかと思いきや、確かにリズムギターが加わったことでロックらしくなってはいるのだが、同時にシンセフレーズも増えてテクノっぽさも増していたりする。ますますジャンル不明な楽曲に。なんとなく、本当にゲームのサントラっぽくなったような気もする。

 基本路線は前作とほぼ同じだが、メンバーが加わった影響か、より楽曲としてのバランスを重視したような作りになっており、ギターの個人技はやや控えめ。曲としてはより聴きやすくなり、インストアルバムとして考えると完成度が高くなったと言えるが、ギターインストアルバムとして捉えるなら若干物足りなくなったとも言える。

 このバンドの曲はありそうでないタイプなので、前作の曲調が好きなら押さえて損はないはず。ただ、前作の方が好きという人も結構いそうな気もする。

Animals as leaders
 2009年発表  型番 Prosthetic records 6561910043-2(US・2009年)

[2012.1.12 改稿]
 アメリカの8弦ギター使い、Tosin Abasiのソロプロジェクト。情報が少ないので詳細は不明だが、聴いた感じだとドラムは打ち込みのよう。

 Tr1"Tempting Time"の最初だけ聞くとアメリカンプログレメタルによくあるタイプの曲にしか聞こえないが、そこからフュージョンロックへと移行してからのめまぐるしい展開で、このプロジェクトが非凡であることはよくわかるだろう。

 メタルとジャズとテクノをバランス良く混ぜたような曲調が特徴で、機械的なフレーズからエモーショナルなソロへの移行が鮮やか。それに冷たく奥行きのある現代的な音響がよく合っている。それを支えているのがTosin Abasiのギターによる表現力なのだが、これだけ一曲の中で表現を切り替えられるギタリストはそうはいないだろう。荒々しいメタルフレーズも、シンセのような無機質な高速フレーズも、情感あふれるねっとりとしたソロも完全にやってのけている。
 これだけいろいろジャンルを混ぜると雑多な印象の曲になりがちなはずなのに、あまりにもクールかつきれいにやりきっているので全く違和感を感じない。変態臭さを隠そうともしないマティアスとは真逆のすさまじさを誇るギタリストである。
 手数の多いフレーズを多用し、複雑な構成の曲も多いが、そのわりにはしつこさがなく、耳に心地よいサウンドとなっている。

 インストが好きな人なら要チェックの一枚。また、この手のジャンルの混在した曲はゲームのBGMに多いタイプなので、そっち方面にもおすすめ。

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BAL-SAGOTH/キング・オブ・バーバリアンメタル

 一言で言うと、デスっててしょぼい音のRhapsody。ただし、曲に織り込んだ物語のスケール感だけは誰の追随も許さない(笑)
 ブラストビートにツインギター、厚みのあるシンセと、ひたすら音を重ねて豪勢な感じにしていながら、妙に安っぽいシンセサウンドと録音状態の悪さで台無しにしているのだが、そのチープさすら受け狙いなのかと勘ぐらせるような怪しいパワーに満ちあふれている、変なバンドである。

 2nd以前は抑揚の少ない、正統派なデスメタルに近いサウンドだったのだが、3rd以降は何かを吹っ切ったらしく、やたらとメロディアスな剛直球サウンドのメロスピ寄りのメロデスへと変化した。題材も西洋ファンタジー風世界から宇宙空間、異次元にまで波及し、あまりに壮大すぎて全てを表現することができず、アルバムでは抜粋して演奏しているらしい。
 あまりにもベタベタかつチープで恥ずかしいサウンドを、恥ずかし気もなく堂々と演奏する様はまさに漢である。

 ちなみに、ジャンルの「キング・オブ・バーバリアンメタル」とは彼らが自称するジャンル名。実際、ここまでブッちぎったサウンドは他を圧倒しており、従来のジャンル名で彼らを表現することは不可能なので採用した。

BATTLE MAGIC
 1998年発表  型番 NIHIL 29CD(UK・1998年) 2004年現在、国内盤なし

[2008.10.28 改稿]
 3rdアルバム。2ndまでのデスメタル要素はかなり薄れ、シンフォニックなメロスピ寄りのサウンドになっている。ゲーム音楽の戦闘シーンのような音楽に野太いおっちゃんのナレーションとデス声ヴォーカルを載せた、疾走系シンフォニックメタル。タイトルも"BATTLE MAGIC"と、わかり易すぎて潔い。

 なぜか音に迫力が無く、せっかくデス声や厚みのあるサウンドが活かされていないのが残念なところ。マスタリング次第でもっと説得力のある曲になっただろう。また、明らかにシンセオケと分かる味も素っ気もない音を使っているのだが、これは機材がなかったのか、わざとなのか、判断の難しいところである。彼らなら、わざと安い音にして恥ずかしさをアップさせようとしているのではないかと勘ぐってしまう(笑)

 とにかくベタベタな展開で疾走しまくり、非常に頭が悪くて素敵な音楽ばかり。恥や外聞を吹っ切ってしまったような潔さ。細かいことを考えたら負けである。
 ただ、あまりにもブっちぎってストレートな曲調にしすぎたせいか、曲そのものの印象は軽薄で、ちっとも耳に残らなかったりする。もう少し印象的なメロディを配して音圧をなんとかすれば、大化けする可能性もある。

 期待しすぎると大損することになるが、恥をかなぐり捨てた馬鹿馬鹿しくも漢らしい直球サウンドには聴く価値がある、ともいえる。色物好きなら押さえておきたい一枚(笑)

A Black Moon Broods Over Lemuria
 1995年発表  型番 NIHIL 4CD(UK・1995年) 2004年現在、国内盤なし

[2007.6.24 改稿]
 2ndアルバム。
 メロデスではなく抑揚の少ない純然たるデスメタルなのだが、なぜかストリングスを多用して無駄に豪勢な印象を与える変な曲。
 ところどころ変に大仰な雰囲気があり、特にTr4"A Black Moon Broods Over Lemuria"では途中でナレーションが入ったりして、RhapsodyやRick Wakemanを彷彿させるような大風呂敷感を漂わせる。そのくせストリングスの音が妙にチープで、プラスチック製の宝石のようないかがわしさを放っている。

 安っぽい大仰さをバックに背負いながらデスメタルをやるという、冗談としか思えないような組み合わせを大まじめにやってのける、非常に色物なアルバムである。 

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BLUE MURDER/ヘヴィメタル

 唄って躍れる万能ギタリスト、JOHN SYKESが、WHITESNAKE脱退後に結成。
 ヘヴィメタルというゴツゴツした語感が似つかわしくないぐらい、洗練された感じのする曲が多数占める。

 オススメは"Screaming BLUE MURDER"。ライヴ盤だが、THIN LIZZYやWHITESNAKEなど、彼の渡り歩いてきたバンドの曲のサイクスバージョンが聴ける。プレイとしても良質で、スタジオ版より数段いい。

BLUE MURDER
 1989年発表  型番 MVCG-18505(国内盤・1989年)

 ホワイトスネイク脱退直後のジョン・サイクスが中心のバンド、ブルーマーダーの1stアルバム。
 その曲調は一口に言うとスタイリッシュであっさり風味。サイクスのヴォーカルの声質も素直で、ギタープレイもトゲトゲしさがなく、他のパートときれいにとけ込んでいる。この感触は他のバンドでは味わえないものである。
 どの曲も水準以上のデキであろう。どの曲も曲調としては似ているのだが、意外に飽きさせない。好きな人はとことんはまりまくる。
 特にオススメはノリが良く、素直にかっこいいTr1"Riot"と、サイクスのヴォーカルテクとギターテクを同時に堪能できるTr2"Sex Child"。

Screaming BLUE MURDER (ライヴ音源)
 1994年発表  型番 MVCG-149(国内盤・1994年)

 ライヴアルバム。サブタイトルに「フィル・ライノットに捧ぐ」とあるが、フィルとは、サイクスが以前加入していたTHIN LIZZYというバンドのベース兼ヴォーカリストのことである。その辺のことを予備知識として調べておけば、このアルバムをより味わうことができるだろう。

 曲の方は、ブルーマーダーオリジナルの曲に加え、サイクスがこれまで参加した、THIN LIZZYやWHITE SNAKEといったバンドのサイクスバージョンが聴ける。
 ブルーマーダーの音楽の特色である、洗練された感じはもちろん健在であり、かつこのライヴ盤はスタジオ盤よりもはるかにいい演奏をしている。
 オススメの一枚である。

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BULLET FOR MY VALENTINE/ヘヴィメタル

BULLET FOR MY VALENTINE
 2005年発表  型番 BVCQ-28026(国内版・2005年)

[2006.1.25 初稿]
 BULLET FOR MY VALENTINEのデビューEP盤CDに、最新シングルの2曲や映像などを追加した企画盤。6曲+ビデオ2曲収録。

 Hoobastankと近い感じの、哀愁メロディに激しいビートを乗せた感じの曲なのだが、こちらの方がより音がヘヴィかつコアな感じ。デス声を多用しておりメロデスのようにも聞こえるのだが、といってはっきりメロデスとカテゴライズできるような感じでもない。
 ツインギターとリズム隊、ヴォーカルという単純な構成で曲は短く、かつその短い時間の中で充分に起伏に富んだ展開を見せる。
 何が正統派なのだか自分でもよくわからないが、これぞ今の時代の正統派メタルなんだ、という言葉しか、これをうまく表現するものが見つからない。様々なメタルに似ているようで、似ていないのである。

 いきなり登場した新人であるにも関わらず、1stアルバムを出す前から絶賛を浴びたという実力は紛れもなく本物。一度は聴いてみてほしいバンドである。

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BLOOD STAIN CHILD/メロデス

Mystic your Heart
 2003年発表  型番MYCP-30198(国内盤・2003年)

 2ndアルバム。
 前作のRHAPSODY系のシンフォニックさは全く影を潜め、正統派メロデスへと変貌を遂げている。ミックスも良好になり、もう聞き苦しいと言うことは全くない。
 CHILDREN OF BODOMIN FLAMESの影響を色濃く表したメロデスで、タイトな演奏とデス声に、きれいなシンセサウンドをかぶせるタイプの曲。基本がCOBで端々の曲のアプローチがIN FLAMESな感じ。
 そういう意味での目新しさはないものの、単純に一発聴いたときの印象の強さと、作曲部分のうまさの光るアルバムになっている。これだけシンセできらきらやっていながら曲のタイトさを失っていないのは見事。

 特徴的なのはキーボードパートで、普通によく使われているストリングス系や太いリード系以外にも、曲によって多様な音を効果的に使用している。この辺の音選びのセンスの良さがひとつの売りになっているのは間違いないだろう。

 私は前作の方が好きだが、今作もこれはこれでCOB系メロデスとして充分な仕上がりになっている。
 フォロワーとしての技術に加え、作曲能力の高さの光るバンドなので、独自の何かを見つけたとき、すごいバンドに化けるかもしれない。

Silence Of Northern Hell
 2002年発表  型番MYCP-30146(国内盤・2002年)

 1stアルバム。
 CHILDREN OF BODOMにRHAPSODYを混ぜたような感じの曲。伝説のバカシンフォデスバンド、BAL-SAGOTHを思い出す曲だが、たぶん明らかにBAL-SAGOTHよりは数段作曲がうまい(笑)

 ミックスがややチープなためか、一部で多少聞き苦しい点もあるが、単純にこのシンフォニックシンセパートの大仰さとデスメタルのタイトさの奇妙な融合は聴いていて面白い。
 もちろんオーケストラはシンセサウンドではあるが、シンフォニックメタル好きの感性をくすぐるコツを心得ていて、バカが付くほど無駄に壮大なスケールで描いている。
 たいがいのRHAPSODYフォロワーは、恥ずかしくてここまで吹っ切れた曲にはできないものである。そういう意味でも、ここまでやりきったのは偉い。

 メロデスが好きでシンフォニックメタルの大仰さも好きな人なら、間違いなく聴く価値のあるアルバムである。

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Bump Of Chicken/ロック

 屈指の歌詞センスを誇るバンド。それは歌詞の内容が感動的という意味ではなく、言葉の音韻を巧みに使っていると言う点で、である。単に英語の真似をして語尾を合わせているだけではなく、掛詞などの日本古来の技術を使いこなしているあたりが特徴。
 メロディラインも独特のセンスで作り上げられており、たいがい一発聴けばバンプとわかる。

  また、全てのシングル、アルバムに隠し曲が入っており、こちらは同じバンドメンバーとは思えない出来になっていて、(わざと)下手なヴォーカル、馬鹿な歌詞、時代錯誤のベタベタな演奏と、半分ふざけたような曲や実験的な曲が多い。

THE LIVING DEAD
 2000年発表  型番 HLR-011(国内盤・2000年)

[2005.5.9 初稿]
 2ndアルバム。
 オープニング、エンディング曲に挟まれた物語の短編集という形態を取ったアルバム。ただ、コンセプトアルバムというにはアルバム全体の統一感はない。

 インディーズ時代の曲ということもあって、今のバンプを聴いたあとに聞いてしまうと、全体に未熟さが目立つのは否めない。同じような曲ばかり作り続けてきているように見えて、実は最近の曲は聞かせ方がかなり巧くなっていたりするのである。

 しかし、そんな中突出して良作なのがTr2「グングニル」とTr6"K"。
 この二曲は明確な物語があるところから作曲しているからか、曲の起伏やツボを押さえた転調の仕方が巧い。
「グングニル」は、「そいつはひどい〜」という衝撃的な歌詞から入るカマシ方や私の琴線に触れる転調の仕方などで"Sailing Day"よりも好きなのだが、一点、「死に際の騎士〜」のあたりがちょっと緊張感のない展開なのが残念なところだと思っている。余談だが、たぶん"Sailing Day"はその辺を反省して作っている(笑)
"K"は歌詞が反則なので、絶対これをバンプのベスト曲とは言わないことにしている(笑)

 総合的には絶対「ユグドラシル」の方がいい出来なので、ファンでない人には勧める気のないアルバム……だったのだが、最近存在を知った隠し曲を聴いて評価が変わった。
 ロックバンドのバッキングの上でヴォーカルの代わりにセリフが展開される『超兄貴』のような曲で、その内容はバンドメンバーの増川弘明(G)をみんなでいじめるという変なものだが、優しげなギターリフの上で繰り広げられるいじめというギャップや、ふざけているようにしか聞こえないセリフの中に、ふと「寒い……」などのぞっとさせるようなセリフが入ったりするそのタイミングの絶妙さなど、妙に完成度が高い。単に曲としてもテクノ寄りの技法とロックの技法がほどよく混ざっていて、かなり良くできている。
 バンプの中でも異質な曲だが、このバンドのセンスの良さはある意味これに凝縮されているような気がする。

ユグドラシル
 2004年発表  型番 TFCC86171(国内盤・2004年)

 4thアルバム。
 ヴォーカル中心のロック。歌詞やメロディのセンスは抜群で、そういう意味ではいつも通りのバンプのアルバムといった感じ。安心して聴ける一枚となっている。

 が、そんな中、3トラック目というかなり序盤の方で、「乗車権」という異色の曲が存在している。
 たった3分の曲だが、変則リズムを用いたダークでスピード感のある曲で、やんわりと不気味な曲名といい、いい雰囲気を出している。邦楽のヴォーカル重視のロックバンドでここまで技巧的な鋭いリズムを聴けるとは思ってもみなかった。
 キラー曲でもあり、希望に満ちた歌詞に仕上がっているTr2「オンリー ロンリー グローリー」の次にこの曲が入っているのがなんとも意味深長である。たぶんそういうことはないだろうとは思うが、この手の曲をいっぱい作ってくれるようになったら、間違いなく私は万難を排してライヴに行くだろう(笑)

 ちなみにTr4「ギルド」はMr.Childrenを思わせるような曲で、これも従来のバンプにはなかったタイプと言える。……あと、隠し曲(笑) 不覚にもあのベタベタな曲も結構好きだったり。

 従来のタイプの曲と、新しい方向の曲を混ぜているやり方はなかなかうまく、安定した出来でありながらも、バラエティに富んだ曲が聴ける一枚になっている。

[2004.10.4補足]
「いつも通りのバンプ」とは、1st〜2ndアルバムの流れを組む、ということ。「天体観測」を含む3rdアルバムは、バンプとしては多少毛色の異なる曲が多かったので、3rdアルバムのような曲を期待した場合、多少思ったものと異なる場合がある。

天体観測 [マキシシングル]
 2001年発表  型番 TFCC87080(国内盤・2001年)

(2004.9.21 改稿)
 3rdマキシシングル。2曲+隠し曲1曲収録。本当なら「天体観測」収録の3rdアルバム"jupiter"の方を紹介すべきなのだろうが、これでしか聴けない「バイバイ、サンキュー」が個人的に好きなのでこちらを取り上げている。

 BUMP OF CHICKENの特徴は歌詞の巧みさに尽きるのだが、Tr1「天体観測」はそれ以上に、Aメロから印象的で覚えやすい旋律で始まり、サビへ進行する過程のメロディラインの盛り上がりの巧みさ、そしてそのメロディーを浮かび上がらせるように、低音に厚いギターサウンドを配置しており、全面的に隙のない作りになっている。
 天体観測という巧みな題材を用いているのもさることながら、一番盛り上がる部分に「静寂を切り裂いて」という、突然鋭い言葉を用いたり、「見えないモノを見ようとして」を「見えてるモノを見落として」と変化させるセンスは相当なものである。久々に歌詞が素晴らしいと思った曲である。

「バイバイ、サンキュー」は3拍子のスローテンポな曲。スローテンポなくせに3拍子の軽快なリズムであることと、曲のメリハリの付け方が巧みなため、ダレることなく聴かせてくれる曲になっている。BUMP OF CHICKENはこの手の曲も得意としていて、毎回見事な曲を入れてくれているが、個人的にはこれが一番好きである。

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CATHEDRAL/ドゥームメタル

the ethereal mirror(デカダンス)
 1993年発表  型番 MOSH-77CD(USA・1996年) 国内盤あり

 CATHEDRALの2ndアルバム。1stアルバムは超低速ドゥームメタルだったが、このアルバムでは多少スピードアップして、一般受けしやすくなっている。
 全編スローテンポかつ重低音の重たい音楽で、かったるく退廃した雰囲気のあふれる音楽である。ヴォーカルにほとんど音程はなく、曲のリズムに合わせて叫んでいるといった感じ。この辺はインダストリアルやデスメタルと同系統。
 最初聴いた時は別に何とも感じなかったのだが、何度も繰り返し聴いている内に、だんだんこのかったるさが気持ちよくなってきた。
 よくよく聴くと、ただダルダルなだけではなく、しっかりとした技術に支えられて構成された音楽であることもわかるし、遅いなりのノリの良さというのもある。スローテンポ未体験の人は、お試しで聴いてみるのもいいかもしれない。
 PINK FLOYDなどのサイケデリック音楽大好き人間にもおすすめかも。

Forest Of Equilibrium
 1992年発表  型番 TFCK-88570(USA・1992年) 国内盤あり

 CATHEDRALの1stアルバム。とんでもない低速曲目白押し。ちょっと私の想像を超える低速だった(笑) 高速曲こそテクニカルでかっこいいというのが常識のこのメタル業界で、真逆の迫力を醸し出す一枚である。
 じわじわと迫り来る重厚な低速ギターリフは、嫌な圧迫感を覚える。
 ここまで低速だと、かえってテクニカルである。ものすごくリズムが取りにくい。そしてノりにくい。ライヴでこんな曲やってたら、客はどうやってノっていいか困惑するところだろう。
 しかし私は、一般受けを考慮した2ndの"the ethereal mirror"よりも、徹底して低速を追求したこちらの方を支持する。吐き気がするほど徹底して遅くて重いこの音楽世界は、圧殺されそうなほどの迫力と存在感を持っている。

 お気に入りはTr9"Reaching Happiness, Touching Pain"。収録曲の中でも屈指の低速重低音のギターリフに、フルートの音が怪しく響き渡る。生理的に気持ち悪いが、楽曲としての完成度は高く、素晴らしい重苦しさを誇っている。 

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CHILDREN OF BODOM/メロデス

 フィンランドのメロディック・デスメタルバンド。デス声を使ってはいるが、どちらかというとネオ・クラシカルやメロスピに近い音楽性(ただし、管弦楽器を使ったクラシカルな表現はなく、音はソリッドな感じ)。コアな雰囲気はないので、デスメタルが苦手でも問題なく聴けるだろう。
 曲構成の巧いバンドで、メロディアスでありながら複雑な曲が多い。ギターとキーボードの速弾き合戦も、技術を見せるためだけのパートとしてではなく、曲として必要な部分に、必要なだけ入れている。技術の高さと、それを制御するバランス感覚を持ち合わせたバンドである。

 1st〜3rdまでは、メロディ重視の北欧系ネオ・クラシカルな雰囲気の強いアルバムだったが、4thあたりからソリッドなメタル要素が増し、リフやキメ、アンサンブルを重視したテクニカルな方向に変化しつつある。

 おすすめは、メロディアスなのが好みの方なら3rdアルバム"Follow The Reaper"。テクニカルなメタルが聴きたい方は6thアルバム"Blooddrunk"。各パートの連携がすごすぎる。

Blooddrunk
 2008年発表  型番 UICO-9033(国内盤・2008年)

[2008.5.29 初稿]
 6thアルバム。初回限定版と通常版があり、初回限定版は高音質のSHM-CD仕様&DVD付き。
 SHM-CDはCDの材質をより透明度の高いものにすることでクリアな音質を実現したもので、実際聴いてみると明らかに音の輪郭がはっきりしている。ワンランク上のモニターヘッドホンで聴いているような感じ。採譜をしたいなどの理由で各パートの演奏を聞き分けたい場合には有り難い仕様だが、普通のリスナーにとってはそれほどこだわる部分ではないかもしれない。
 DVDの方は、プロモーションビデオの他、ボーナストラック除く9曲の5.1ch仕様音源が収録されている。

 楽曲の方は、4th、5thと強めてきたソリッド感はそのままに、若干以前のCOBっぽい、インストパートを重視したタイプの曲になっている。ちょうど今までのアルバムのテイストを混ぜてバランスを取った感じ。最近の曲はデスメタルというジャンルに囚われすぎてインスト控えめのものが多かったが、ここに来てついに開き直ったのか、3rd以前の弾きまくりパートが復活。それでいて以前のようなネオ・クラシカル風のキラキラ感はなく、かなりソリッドな方向に振ってある。
 ひたすらテクニカルなプレイを披露しつつも、キメの部分ではしっかりとユニゾンさせるメリハリの効いたプレイは、この面子だからこそできる専売特許だろう。

 メロディ面ではそれほどキャッチーな曲はないが、演奏の凄まじさは一段と磨きがかかっている。流し聴きするとあまり良さがわからないかもしれないが、演奏を集中して聴くとなんだか凄いことになっている。メロディやヘヴィネスといったわかりやすい部分よりも、アンサンブルをウリにしたアルバムだと言える。

 多少なりとも楽器演奏に興味がある人なら、このアルバムをCOBの最高傑作とするのではないだろうか。多少聞き手を選ぶところはあるが、文句のないデキ。特にテクニカルな演奏が好きな人にはたまらないだろう。

CHAOS RIDDEN YEARS STOCKHOLM KNOCKOUT LIVE [ライブDVD]
 2006年発表  型番 UIBO-1101(国内盤・2006年)

[2007.4.4 初稿]
 2006年、ストックホルムで行われたライブを収録したDVD。その他、インタビューやツアー中のプライベート映像、PVなども豊富に収録されている。

 セットリストが秀逸なライブで、1stから5thまでの曲がバラけて配置されている。そのため、3rd以前のインストパート多めのメロディアスなのが好きだった人も4th以降のストレートなのが好きな人も、広く楽しめるようになっている。
 ライブ自体も良いデキで、演奏、MC(日本語字幕入り)共に魅せてくれる。特に4th以降の曲はライブ映えするようにできているので、CDで聴くよりもずいぶん格好いい。
 また、実際ライブに行ってもほとんど見えない彼らのステージの立ち回りが詳細に見られるのもDVDならでは。なんかいろいろやってます。

 特典映像もかなり長めに収録されていて、バンドのこれまでの経緯をインタビュー形式で振り返ったり、ツアー中のバカ騒ぎが見られたりする。本当にどうしようもなくバカな連中で、なるほど、これなら車の上から滑り落ちて右腕痛めるのも無理はない(笑)
 個人的に面白かったのはインタビューのラストに挿入されている、"Hate Me!"をフォークギター使ってフィンランド語で弾き語りしてるもの。フォークギターでデスメタルって、なんか滑稽でいい(笑)

 COBが好きなら、まず買って損のないDVD。ライブで直接見るのとはまた違った良さがある。

ARE YOU DEAD YET?
 2005年発表  型番 UICO-1086(国内盤・2005年)

 5thアルバム。
 これまでのようなシンセの白玉弾きが少なくなり、音がより硬質に変化。何度聞いてもなかなか曲の全貌を覚えきれない複雑さと耳残りの悪さを持ちながら、瞬間的なインパクトは強いという、変な感じのデスメタルへと変貌した。ネオ・クラシカルなキラキラ感、ベタベタ感が減って、硬質感と変態っぽさが増した、と言えばいいのだろうか。もう、昔のようなストレートにメロディアスな楽曲は存在しない。今までのファンの反応は二極化されるだろうと思う。

 ただ、今作は曲の独自性という点では、今までで一番評価できるようにはなっているように思う。
 ちょっとインダストリアル色が強すぎてダルくつまらなくなっている曲も存在するものの、上手い具合に今と昔のCOBがミックスされて、過剰なメロディのベタベタ感、スピード感を取り除いた感じの、今までと違ったタイプの作風に進化している曲も存在し、これらはちょっと他のバンドでは聴けないものに仕上がっている。

 個人的には、この方向で進化して欲しい気もしつつ、その上で以前の「メロディアス・スピーディー・キャッチー、だけど複雑」という曲も残して欲しいとも思う。商業的にも、従来のファンの期待に応えつつ、新しい試みをするのが一番効率がいいことでもあるし。

 ちなみにTr8"TRASHED, LOST & STRUNGOUT"は間違いなく名曲。4thアルバムと5thアルバムの間に発売された同名のミニ・アルバムに収録されていた曲だけあって、4th以前と5thのテイストがバランス良くミックスされている。ミニ・アルバムを買わなかった人は、この曲目当てに本作を買ってしまっても悪くないはず。

Hate Crew Deathroll
 2003年発表  型番 UICO-1048(国内盤・2003年)

 4thアルバム。今回は3rdで見せたキャッチーさは少し減退したが、演奏力やミックス状態は良くなっており、曲の緊迫感はかなりのもの。

 アルバムの中ではTr1"Needled 24/7"が、3rdの雰囲気を引き継いだ感じの曲になっており、ヴォーカルにディストーションをかけたりなどのエフェクト面でも凝った作りとなっている。これはCOBの曲の中でも1、2を争うデキと思う。
 他の曲は、聞き込めばけっこう良かったりするのだが、アルバムとしての曲の配列がイマイチなのと、大半が一発で耳に残るようなキャッチーな曲ではないため、通して聴くとほとんどの曲が印象に残らず、少しダレる感じがする。
 アルバムとしてのデキ(曲の配列など)はイマイチと思うが、曲単体としては、いままでの曲に決して劣らないだろう。

 このアルバムを聴く場合、全体を一気に聴こうとせず、一曲一曲丁寧に聞き込んでいくのがおすすめ。でないと「駄作揃い?」と思えてしまうかもしれない。

東京戦心 [ライヴ盤]
 1999年発表  型番 TFCK-87200(国内盤・1999年)

 今年(2003年)のハルフォードとの共演ライヴに行けなかったくやしさついでにれびゅ(爆)
 99年の日本でのライヴ音源。当時は3rdが出ていなかったので、自然と1st、2ndからの選曲となっている。ライヴハウスの音源らしく、多少歓声なんかが邪魔だったりする(たまに入る観客の手拍子リズムがずれてる)のだが、それを差し引いても、それぞれの曲が緊張感と迫力あるものとなっており、素晴らしい音源となっている。

 音や演奏のバランスも非常に良好で、ひとつのパートが目立ちすぎたりヘコみすぎたりしておらず、スタジオ盤よりもドラマーやベーシストのプレイもはっきり聞き取れる。
 スタジオ盤で印象の薄い曲も、こうしてライヴで演奏されたものを聴くと全然印象が変わるのだから面白いものである。

 COBの曲が好きなら、聴いて絶対損のないアルバム。……ああ。聴いてたらまた今年のライヴ行けなかったのが悔しくなってきた(笑)
 今度はサポートとしてじゃなく、フィンランド勢のお友達を連れてきて来日して欲しい。

FOLLOW THE REAPER
 2000年発表  型番 TFCK-87236(国内盤・2000年)

 3rdアルバム。
 1st、2ndに比べてぐっとキャッチーなメロディを前面に出し、印象の強い音楽になっているが、相変わらず音楽の構成は手が込んでいて、曲の展開で飽きさせることはない。
 演奏面でも相変わらず高度な技術を駆使し、かつ音楽としてのバランスを崩すようなスタンドプレーには走らない点は見事で、メロディラインを維持するヴォーカルとキーボードとギターの絡み合いは圧倒的。
 キーボードの活躍出番が増えているので、キーボードまにあやヤンネファンは必聴モノとなっている。

 聴者をパワーで圧倒する攻撃的かつ技巧的な曲群は一聴の価値あり。
 デスメタルを毛嫌いしている人には特におすすめ。

Hatebreeder
 1999年発表  型番 TFCK-87180(国内盤・1999年)

 2ndアルバム。
 ヘヴィなギターリフにデス声ヴォーカルと、しっかりとアグレッシヴなデスメタルの要素を踏襲しつつ、同時にキーボードを用いた艶やかな旋律、泣きの入った哀愁メロディも両立させている、不思議風味のアルバムである。
 音楽面ではもうほとんどネオ・クラシカルなのだが、絶妙のバランスでデスメタルとしての要素を持ち合わせるバランス感覚は見事なもの。
 また、クラシカルなパートをちりばめたり、少しずつ曲調を変化させるドラマティックな手法、ブレイクを多用したりと、作曲、演奏共にかなりのハイテクを見せ付けている。その上メロディラインはキャッチーなのだから、もはや無敵であろう。
 一般のネオ・クラシカルに比べて、COBはしっかり重低音もバリバリなので、ネオ・クラシカルの低音部に物足りなさを感じている人には特に好まれるアルバムだろうと思われる。

 デス声はそのうち慣れるので、メロディアスなのがお好みのメタルファンは是非ともご賞味を。

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CLOSURE IN MOSCOW/エモ(プログレメタル)

PINK LEMONADE
 2014年発表  型番 SABRE001(AUS・2014年)

[2014.6.13 初稿]
 2ndアルバム。このアルバムがリリースされるという情報はだいぶ前からあったのだが、それから何年も音沙汰無しだった。前作から5年経過してようやく発売。
 デビューアルバムはスピード感のあるエモが中心だったが、本作ではそういう曲はなくなり、変なSEや気持ち悪い展開の多用、ダルで重いロック調でねっとりと作り上げる曲が占めている。最近のプログレメタル界の流行に漏れず、古くさいロック調の曲が特に後半に多い。デビューアルバムの印象で、このバンドはTHE MARS VOLTAの影響を受けたエモバンドなんだろうと思っていたが、実はどちらかというと、もっとプログレ寄りの志向だったらしい。
 先入観無く聴けばこれはこれで結構いいのだが、前作で惹かれて長年待ち続けたリスナーからすれば、聴きたかったのはこんなのじゃなかったと思ってしまうのは仕方ない気がする。前作のような曲を期待するのであれば、本作は聴く必要はない。

 最初の3曲、Tr1"The Fool"、Tr2"Pink Lemonade"、Tr3"Neoprene Byzantine"は、特にTHE MARS VOLTAの影響を強く漂わせており(変な展開やリバーブ、コーラスの使い方はもちろん、ギターリフがところどころアレ)、ダルめの曲が多数を占める本作の中では、まあまあ疾走感のある曲となっている。前作でもTHE MARS VOLTAの影響は漂わせていたが、今作のTr2、Tr3は特にそれらしい曲に仕上がっている。
 このままいくのかと思いきや、Tr4"Seed of Gold"は本作の中では比較的素直でシングルカットされそうな曲で、以降はミドル〜スローテンポの、古い音楽のスタイルをミクスチャしていくような曲が続く。Tr5"That Brahmatron Song"、Tr6"Dinosaur Boss Battle"などは、OPETHの"Heritage"やPain of Salvationの"Road Salt"を思い出すようなアレである。Tr10"Happy Days"などは出だしがいきなりベタなロックンロールだったりして第一印象は良くないが、展開がなかなか良くて、最後まで聴くと印象の変わる曲だったりする。
 わかりやすくメロディアスな曲ではないので、特に前作を期待してがっかりして聴くと素通りしてしまいがちだが、ちゃんと聴くと全然悪くない。

 しかし、何よりこのアルバムを手にとって真っ先に目を惹かれるのはTr11「ピンクレモネード」だろう。なぜかカタカナタイトルで日本語歌詞(歌詞は直訳風で若干変だが、日本人が歌っているので聞き取りはしやすい)。バックサウンドは8ビットサウンドで、懐古主義シリーズのひとつといえばそうだが、かなり異色のトラックとなっている。
 なお、ジャケットの中にも、おっさんが笑顔でピンクレモネードを持っているイラストに「ピンクレモネード それはおいしいです!!」という怪しい文句が付いているものがある。この5年の間に彼らに何があったのだろうか(笑) もっとも、Pain of Salvationも怪しい日本語をジャケットや曲に混ぜ込んでいたし、ネイティブ日本人に日本語歌詞を歌わせるのも「プリンセス・ジブリ」の例があるにはある。なお、ジャケットの歌詞を掲載している部分でも「ピンクレモネード」は日本語タイトル、歌詞しか書かれておらず、英訳はなし。何書いているかわからない人が多いのではなかろうか。

 とりあえず前作とは全然違うアルバムなので、エモ、スクリーモ好みのリスナーは避けた方が無難。THE MARS VOLTA(スピードチューンだけでなく、ねっとり泥臭いやつも好きな人)やTOOLあたりが好きな人、OPETH"Heritage"やPain of Salvationの"Road Salt"がいける人向け。

FIRST TEMPLE
 2009年発表  型番 EVR168(US・2009年)

[2011.3.7 初稿]
 オーストラリアのバンド、CLOSURE IN MOSCOWの1stアルバム。
 私が買ったのは輸入盤だが、国内盤ではボーナストラックとしてアコースティックバージョンなどの曲が追加されている。

 ぱっと聴いた感じだとThe Mars Voltaからエモ/スクリーモ成分だけ抽出したような感じ。基本的にはオーソドックスなエモ/スクリーモだが、コーラスの使い方やオリエンタル風味で土臭いフレーズなどが瞬間的にThe Mars Voltaっぽかったりする。ただし、ラテンっぽい情熱はなくて、あくまでクールなのが特徴。それがいいのか悪いのかはわからないが。
 演奏はタイトで構成は単調にならないように工夫されている(エモは曲が単調になりがちなので、多少の複雑さがあるほうがいい)が、テクニカル路線に走っているわけでもなく、ほどよくバランスの整った曲に仕上がっている。

 エモはどうしても曲が似たり寄ったりに聞こえがちだが、オリエンタルな音階を使ったフレーズ、The Mars Volta風の土臭いフレーズなどを駆使して、バラエティを持たせようと頑張っている。
 ただ、やはりこのバンドの最大の武器は、強烈に印象的なメロディラインと色気のあるヴォーカル、それを最大限効果的に使うために練り込んだ構成で、このアルバムでは特にTr1"Kissing Cousins"、Tr3"Sweet#hart"のデキが突出しているように思う。逆に、演奏や構成を中心に据えようとしている曲は中途半端なデキになっている。この辺がうまくなれば化ける可能性もある。

 表面的な聴いた感じがThe Mars Voltaっぽいので、それ系を期待してしまいそうになるが、変態でもプログレでもラテンでもないので、その点だけは注意。哀愁ハイトーンヴォーカルのエモ/スクリーモ好きなら、少なくとも最初の4曲は当たりだと思う。

The Penance and the Patience
 2008年発表 型番 GR-05(国内盤・2008年)

[2012.4.16 初稿]
 企画盤。1stアルバムよりも前にリリースされたもので、CLOSURE IN MOSCOWのデビュー盤にして出世作でもある。収録曲数は6曲+国内盤にはアコースティック版、デモ版など3曲追加。また、EXTRA CDにPVとドキュメンタリーが収録されている。
 一見入手困難で、プレミアが付いていたりするが、実は国内盤は今でも普通に販売されている。少なくともレーベルの直販サイトで通販可能。

 1stアルバムに比べると、本作の曲の方がややプログレ寄りになっており、かなり大胆に曲調を変え、激しいエモサウンドに突然静かなスローテンポパートを突っ込んだりしている。それが効果的に機能しているかというとちょっと微妙なところではあるが、こういったところに、ただのエモバンドでは収まらないというこのバンドの野心が見え隠れして、デビュー盤としては頼もしいデキになっていると言える。

 この企画盤で一番面白いのは、国内盤のボーナストラックである"We Want Guarantees, Not Hunger Pains"や"Breathing Under Water"のアコースティック版かもしれない。ただアコギを使って演奏しているだけではなく、ちゃんと編曲から変えており、全く別物の曲に仕上げている。

 曲は全体的に1stアルバムの方が良くできていると思うので、無理に聴かなければならないCDではない。ただ、そうは言っても曲の質は高めで、特にTr1"We Want Guarantees, Not Hunger Pains"は良くできていると思うので、1stアルバムを聴いて興味が沸いた人なら、国内盤を通常価格で購入する分にはおすすめ。

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COVENANT(KOVENANT)/ブラックメタル

 DIMMU BORGIR、MAYHEM、MORTEM、CRADLE OF FILTHといったバンドから集結したメンバーで構成されたスペシャルバンド。
 同名の他バンドからクレームが付いたらしく、3rdアルバム以降はKOVENANTと名義を改めている。

NEXUS POLARIS
 1998年発表  型番 MICY-1050(国内盤・1998年)

(2004.8.25改稿)
 2ndアルバム。デス声で綴られるダークな歌詞と歪んだ重低音ツインギターバッキングに、女声コーラスと透き通ったピアノサウンドが重ねられる。低音と高音、ディストーションサウンドとクリアーサウンドの対比が鮮やかな楽曲。
 中音域がごちゃごちゃしていないためか、ひとつひとつの音がクリアーで、寒気のするようなある美しい音を聞かせてくれる。

 曲はミドルテンポ基本でねちねちとしており、そのくせ意外と軽快なリズムを刻んで、おどけているようにも取れる大げさな展開をみせる。ピアノやコーラスの入れ方などは心得たもので、入れて欲しいところに気持ちよく入ってくる。ジャケ絵のイメージ通りの、寒々しくて大仰で毒のあるサウンドである。

 暗黒シンフォニック系のメタルが聴きたい方はツボだろうと思われるので、是非とも聴いてみて欲しい。

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CYRIL ACHARD/プログレ

CONFUSION
 1997年発表 型番 BR 8023.AR(フランス盤・1997年)

 何作目のアルバムなのかもよくわからないのだが、たまたま聴く機会のあった曲が気に入ったので購入したもの。

 ギタリストのソロ作品という性格のアルバムのようだが、シンセ等の他のパートとの力関係のバランスが取れていて、音楽性としてはプログレとフュージョンの狭間を漂うアルバムといった感じ。曲の展開のスリリングさ、テクニカルな演奏はまさしくプログレ。
 プログレの中でも展開のころころ変わるタイプのもので、実際かなり無茶な繋ぎ方をしている部分もあるのだが、不思議と変態的だったり攻撃的だったりといった印象はなく、あくまでマイルドに聴かせてくれる。マイルドでありながら退屈もさせない、なかなか良質なインストアルバムだろう。

 インストのプログレというのも数が少ないので、そういった意味でも貴重な一枚。ギターの演奏に興味がある、インスト好き、DREAM THEATERの1stアルバムのような曲展開のころころ変わるプログレが好き、のどれかに当てはまるなら要チェック。

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DEATH/デスメタル

 プログレ風デスバンド。初期のころは単なるデスメタルだったが、5thアルバム"INDIVIDUAL THOUGHT PATTERN"から、BPMの激しい変化や変拍子を多用する、変なデスメタルへと変貌した。
 暴力的な曲の変化は、ある意味デス・メタルの本質である暴虐性を、歌詞やパフォーマンスではなく、音楽そのもので表現することに成功しており、デスメタル界から見ても異端児である彼らは、真の意味でのデスメタルであるともいえる。

 オススメは4thアルバム"INDIVIDUAL THOUGHT PATTERN"と7thアルバム"THE SOUND OF PERSEVERANCE"。個人的には後者の方が好き。いずれにせよ、デスメタル版EL&PかKING CRIMSONな感じのムチャクチャなデスメタルが楽しめる。 

THE SOUND OF PERSEVERANCE
 1998年発表 型番 VICP-60493

 低速と高速に変拍子と、がんがん変化していくリズムの中で、怪しげなギターリフとデス声が乱舞する、変なデスメタル。
 唐突な速度変化や拍子の変化はかなり乱暴で、その辺がデスメタルからのプログレアプローチとしては面白い趣向になっている。

 全編通して、どの曲も雰囲気は似たようなものだが、楽曲そのものがかなり複雑かつスリリングなので、意外と飽きずに聞くことができる。
 そもそも曲中にブレイクが入ったり唐突なリズムチェンジなどがあるため、聴き流していると、一体いつ次のトラックに行ったかわからない。よって、ある意味アルバム全体がひとつの曲となっている、コンセプトアルバムのような聴き方も可能である。
 EL&PやKING CRIMSONといった、混沌音楽プログレファンにオススメ。

 ちなみにアルバムの一番最後に収録されているのは、Judas Priestの"Painkiller"のカヴァーである。原曲よりスピードが上がっており、絞り出されるようなデス声高音が危機感を煽るアレンジとなっている。このアルバムの中で唯一直線的でメロディアスな曲となっており、浮いていて面白い。

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DEEP PURPLE/ハードロック

1974 カリフォルニア・ジャム[ライヴDVD]
 1989年(?)発表  型番 VPBR11035(国内盤・2000年)

 1974年にカリフォルニアで行われた、大がかりなロックイベントにおけるディープ・パープルのライヴ映像を収録した作品。
 ギターでカメラを破壊する、ステージに火を付けるといった、伝説となったフォーマンスが見られるのはもちろん、第三期ディープ・パープルの演奏風景がはっきりと収録されており、良質のライヴ映像となっている。

 今の音楽に慣れた人にとって、ディープ・パープルのスタジオ盤は、いかにも古くさい音で退屈に感じるかもしれない。実際私もそうだったのだが、そういう人は、一度ライヴ映像を見ることをおすすめする。
 現代の音楽は、スタジオ盤ならスタジオならではの繊細な編曲・編集を行うことで、生の演奏とは別の形で良さを演出している。しかし、この頃のロックバンドはそういった工夫があまり成されていない(そもそもデジタルレコーディングなどできないから、録音するだけでも大変だったと思われる)ため、それを聴くだけでは魅力を理解できないことがままある。こういった曲は、できるだけ生に近い形で視聴する方が、本来の魅力を味わうには最適なのである。
 本DVDに収録されている"BURN"など、演奏そのものはスタジオ盤に比較的忠実な演奏となっているが、それでいて「全く別物」な迫力にきっと驚くことだろう。

DEEPEST PURPLE[ベスト盤]
 1980年発表  型番 3686-2(USA・1980年) 国内盤あり

 DEEP PURPLEのベスト盤。全盛期のDEEP PURPLEの主要曲はほとんど網羅できる。とりあえずコレを聴いておけばOKという便利なベスト盤。

 残念なことに録音状態があまり良くないので、最近の高音質サウンドに慣れている人にとっては迫力不足に感じる可能性もあるのだが、曲としては申し分なく素晴らしい。一見古くさくて単純なロックに聞こえながら、演奏はかなり凝っている。特にギターとオルガンの絡みはクラシカルなくせに攻撃的で、キーボードが入ると軟派なサウンドになると思い込んでいる人にとってはなかなか新鮮だろうと思う。余談だが、ディープ・パープルのオルガンサウンドをギターと勘違いする人も結構いるらしい(笑)

 ちなみに私のお気に入りは"Fireball"。ありがちなリズムを刻んでいるはずなのに、妙に独特なリズムセクションに聞こえるのが不思議。

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DESTRAGE/メタルコア

A MEANS TO NO END
 2016年発表 型番 METAL BLADE3984-15468-2

[2016.11.12 初稿]
 4thアルバム。
 相変わらずテクニカルでハイテンションであるものの、テクノやらカントリーやらを無節操に混ぜまくる混沌としたミクスチャサウンドはほとんどなくなり、また、馬鹿っぽさもなくなり、ややシリアスになった印象。
 展開そのものはこれまで通り複雑ではあるものの、真面目なのかふざけているのか分からないような、急激な曲調の変化などはなくなっている。今まではサーカスの出し物的な曲芸をウリにしていたのが、もっと渋い意味での「テクニカル」なインストパートになっている。

 目に見えて変態的な感じではなくなり、Destrageを象徴していた派手な要素がなってしまった分、地味な印象を受けるが、メロディに妙な中毒性があって、意外と耳に残る。
 はじめは「今作はつまんなくなったかな」と思いながら聴いていたのだが、聴いているとメロディがずっと頭から離れなくなり、それに釣られて何度か聴いていると、つまらなく思えていたインストパートも思ったよりいいんじゃないかと思えてきて、気付くとDestrageで一番聴いているアルバムになってしまった。
 ただ、私は4回通して聴いてようやく良さが分かってきたのだが、普通のリスナーがイマイチだと感じるアルバムを4回も聴くのかというと疑問ではある。

 また、前作の日本盤では、ボーナストラックとして収録されていた"36.7℃"がDream Theaterっぽい曲だったが、今回はTr13"Abandon To Random"が、ボーナスではなく正規のトラックとして収録されており、これがやはりDream Theater的なしっとり曲になっている。

 Destrageらしい曲調ではあるものの、ひねくれた感じがだいぶなくなってしまったので、従来のファンが問題無く付いて来られるかという点には疑問がある。また、メロディの良さはDestrageでも屈指だが、メロディとメロディの繋ぎが冗長で退屈だと感じる人は多いと思う。
 私自身も好きになるまでに時間がかかったこともあり、なかなか人を選びそうなアルバムだという印象がある。ファンは期待せずに聴いてみた方がいいと思う。

 なお、このアルバムは特にコンセプトアルバムという形式は取っていないと思うのだが、ほとんどのトラックの音が繋がっており、そのままメディアプレーヤーに取り込むと、曲と曲の繋ぎがぎこちなくなる。私はアルバムごと1つのデータにして放り込んでいる。
 こういうのはプログレだとよくあることだが、今の時代にこんなに曲単位でメディアプレーヤーに取り込みにくくしているのは珍しい。

Are You Kidding Me? No.
 2014年発表 型番 HWCY-1337(国内盤・2014年)

[2014.3.1 初稿]
 3rdアルバム。国内盤はボーナストラック1曲。Ettore RigottiのCoroner Recordsの元を離れ、アメリカのMETAL BLADE RECORDSに移籍しての作品。
 メタルコアを中心に据えつつ、様々な音楽ジャンルをミクスチャしていく手法は変わらず。ただし、ミックスしている音楽ジャンルが増えているので、より混沌としたアルバムに。特にTr1"Destroy Create Transform Sublimate"や、タイトル曲であるTr10"Are You Kidding Me? No."はそれを象徴するようにすさまじく、詰め込み過ぎなくらいにいろんなものが混ざりまくっている。
 前作の"Jade's Place"のような、そこそこ素直な展開の曲がなく、ずっと忙しい曲ばかりなので、通して聴くには体力の要る内容となっているが、出来については文句のない内容。前作で"Jade's Place"以外の曲も大丈夫だったなら付いていけるはずである。

 国内盤ボーナストラックの"36.7℃"は、Dream Theaterあたりがやりそうな、8分30秒のしっとりした曲となっている。妙な展開も無く、このアルバムの中ではもっとも素直。

The King is Fat' n' Old(王様はデブで老いぼれである!!)
 2010年発表 型番 HWCY-1288(国内盤・2010年)

[2011.6.1 初稿]
 Ettore Rigottiがプロデュースするミラノのバンド、DESTRAGEの2ndアルバム。
 前作はどちらかというとSoilworkがよりモダンかつメタルコア寄りになった感じのテクニカル系メロデスといった風情だったが、本作は無節操具合に磨きがかかりすぎて、どういう系統のバンドと言うべきかわからなくなってしまった(笑)
 Tr2"Twice the Price"は従来のDESTRAGEらしいが、Tr1"Doble Yeah"のようにロックンロールなリズムとスラッシュメタルな展開にSYSTEM OF A DOWN的な要素もところどころ混ざった変な曲もあれば、えらくキャッチーでダンサブルに聞こえるTr3"Jade's Place"、どこのエモコアバンドの曲かという風情のTr4"Neverending Mary"、本格的なデスメタルと思わせて、突然ブラストビートにシャッフルビートを混ぜて「ロックンロール」にしまう妙な感覚のTr11"Wayout"など、数多くの引き出しを片っ端から開けまくっている。これだけ無節操にやっていながら、どの曲にもバンドとしての個性は出ており、ある種の一貫性を保っているのが恐ろしいところ。

 演奏は鬼のようにテクニカルで曲の展開は複雑きわまりないのに、ぱっと聴いた感じは異常なまでにポップで敷居の高さを全く感じさせないのが特徴。テクニカルバンドにありがちな重苦しさが全くなく、むしろバカで脳天気な感じすら漂わせている。これだけ緻密なサウンドを、勢いだけの軽薄メタルに見せて演奏してしまうのは、技術の無駄遣いを信条とする変態バンドを多く輩出しているイタリアらしいといえる。

 複雑な味わいとキャッチーさを兼ね備えたアルバムなので、やかましいメタルが嫌いでなければ、幅広いメタルリスナーにお薦めできるアルバムといえる。

[2011.11.11 追記]
"Jade's Place"のPVを見たら、なぜかマティアスが出ていたので確認したところ、実際にこの曲にマティアスがゲスト参加しているらしい。

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Destroy Rebuild Until God Shows/ポストハードコア

D.R.U.G.S.
 2011年発表 型番 WPCR-14128(国内盤・2011年)

[2012.4.16 初稿]
 Chiodosを追い出されたCraig Owens(Vo)が、From First to LastのヴォーカリストMatt Good(G)と共に結成したアメリカのポスト・ハードコアバンド。
 輸入盤が激安で販売されているので国内盤を買う理由がなさそうだが、国内盤は"A Little Kiss And Tell"という曲がボーナストラックとして追加されており、これがいいデキなので、私はこの曲目当てにあえて国内盤を購入した。

 一口で言うとスクリーモをベースにインダストリアルを混ぜたような曲調だが、キャッチーで聴きやすい割には奥深い味付けがされており、パンク並みにストレートに聞こえるのにプログレ並みに複雑にも聞こえるという、一筋縄ではいかない音楽性を備えている。

 プログレリスナーとしては数々の仕掛けが気になるところだが、なによりもこのバンドの強みは演奏の安定感とメロディのキャッチーさで、とにかく聴いたリスナーを捉えて放さず、途中で「退屈な曲だな」だとか「無駄に複雑すぎる」などと思わせずに最後まで聴かせるだけの吸引力がこのバンドの曲にはある。いろいろな試みをやっていながら、音楽として肝心な部分をおろそかにしていないのは素晴らしい。

 パンク、エモ/スクリーモ、ポストハードコア好きなら必聴の一枚。また、プログレメタルやSystem of a Down、Destrageあたりが好きな人でも満足できる内容だと思う。

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DEVIL DOLL/プログレ

 謎の人物、Mr.DOCTORが中心となって活動している、非常に怪しいバンド。その音楽も非常に怪しく、便宜上「プログレ」としているが、実のところ普通のカテゴリーに分類される音楽ではない。あえて言うならブラック・ゴシック・チェンバー・オペラ・メタル?
 暗黒オペラ、と表現するのが適切だろうか、そんな音楽をクラシックとメタルの両面からアプローチして制作するバンドで、CD1枚に1曲のみ収録(30〜50分程度)という、正真正銘コンセプチュアルなアルバムばかり制作している。
 無駄に豪華な本物オケ隊、コーラス隊を使いこなし、怪しい語りを挟んで長大な曲を作り上げる徹底ぶりはRHAPSODY以上であり、ここまで来ると賞賛を通り越して変態である(笑) よっぽどの金と才能を持て余した者が道楽で作らなければ、ここまでのものは完成しないだろう。利益が出てるとはとても思えない。
 あらゆる意味で比肩する者の存在しない壮絶バンド。好き嫌いは完全に真っ二つに分かれるだろう。好きならもうたまらないほど好きなはず。そういう意味では、レビューのしがいのないバンドではある(笑)

 なんにしろ、この超カルトな音は一聴の価値ありと思う。どれでもいいので1枚聴いてみて、気に入ったら全部買ってしまおう。
 一応のおすすめは1st"The Girl Who Was...Death(死せる少女に捧ぐ)"

DIES IRAE(怒りの日)
 1995年発表 型番 MAR 95150(国内盤・1995年)

[2007.3.28 初稿]
 4thアルバム。テロだかなんだかで一度マスターテープが消失したという、このバンドらしいいわくの付きの「呪われた」作品。
 相変わらずの1曲構成。暗黒オペラメタルとでも表現すべき、偏執的でダークなムード満点の曲に仕上がっている。
 クオリティについてはいつも通りの高品質なものだが、今回はギターサウンドの入るメタルパート部分がいつもよりキャッチーなメロディラインになっており、結構聴きやすい部類に入る音楽になっている。そういう意味では、少しばかり普通のプログレに近い音楽になっている。
 ……とはいえ、ブッ飛んでいることには変わりなく、どちらにしろ好きな人は好きで、嫌いな人は嫌いであろうことは同じ(笑)

SACRILEGIUM(宗教冒涜)
 1995年発表 型番 MAR 95103(国内盤・1995年)

[2007.3.28 改稿]
 3rdアルバム。
 タイトルに示されるとおり、宗教的な歌詞となっており、それに伴って最も思想的で、暗黒面の強い曲になっている。もちろん1曲構成。
 Mr.DOCTORの演技が多彩になっているのが特徴で、今までの悪魔的囁き語りや叫びだけでなく、様々な声色を使って楽しませてくれる。クラシックパートとロックパートのバランスも取れており、めちゃくちゃなギャップもなく、なめらかに融合している。完成度ではこれが最も高いかもしれない。
 ただ、完成度の高さがDEVIL DOLLの変態具合を若干押さえてしまっているとも言えるわけで、この辺は悩ましいところではある。もちろん、普通の感覚ではこれでも充分に変態的だが。

Eliogabalus(絞首台)
 199?年発表 型番 MAR 95102(国内盤・1995年)

[2007.3.28 初稿]
 2ndアルバム。このバンドにしては珍しく2曲構成になっている。

 1曲目は、このバンドの中心人物であるMr.DOCTORの名を冠した曲。分裂した自己同士の戦いを描いた、わかりやすい構成になっており、曲の構成も前作のような、わけのわからなくなるほどの激しいギャップはなく、理解の範囲内で作られている。相変わらず変態的な音楽であるのに変わりはないが、それなりに理性的。まあ、これを「理性的」と言ってしまうこと自体、すでにずいぶん毒されている気がしなくはないが。
 ラストのアコーディオンがなかなかに滑稽でもの悲しくて素敵。

 2曲目は、ローマの変態残虐皇帝ヘリオガバルスをモチーフにした曲。DEVIL DOLLらしい題材である。最初の方は比較的おとなしめの展開で、題材負けしているかな? と思わせるのだが、中盤あたりで強烈な展開が待ち受けている。これは本当に怖い(笑)

 曲が短い(といっても20分くらいある)からか、このアルバムは非常にコンセプトがわかりやすく、曲の構成も正統派な作り。

The Girl Who Was...Death(死せる少女に捧ぐ)
 199?年発表 型番 MAR 95101(国内盤・1995年)

[2007.3.28 初稿]
 1stアルバム。オーケストラとコーラス隊を大胆に用い、ついでにロックバンドも従え、Mr.DOCTORなる謎の人物が怪しく語り、囁き、叫ぶ。
 冷たく美しく、そして何より不安にさせるピアノやストリングスの旋律もさることながら、MrDOCTORの悪魔そのもののような甘美な囁きは背筋を凍らせるほどのインパクトを与えてくる。そうして、さんざん冷たくドロドロした旋律を聴かせた後で、突然ドラム、ギター、シンセが入り、扇情的でスピーディな音楽へと変貌し、そしてまた唐突に暗黒音楽へと逆戻りする。
 激しすぎるギャップにより揺さぶられ、わけがわからなくなっていく感じが変に心地いい。これに一度はまるともう病み付きになる。

 DEVIL DOLLのアルバムの中でも、最も特異な作品であり、その暗黒性は最強の部類に入る。このすさまじさは一度は体験して欲しい。……もっとも嫌いな人は大嫌いな音楽なのだろうが。 

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DGM/プログレメタル(ネオ・クラシカル/メロディックパワーメタル)

 最初期のメンバーの頭文字をひとつずつ取ったのが名前の由来である、イタリアのバンド。
 初期の頃はSymphony Xをよりプログレ寄りにしたような、ネオ・クラシカル+プログレメタルのような音楽性だったが、初期メンバーが脱退するにつれてネオ・クラシカル要素とプログレ要素が薄れてメロパワ的な要素が増していき、全員脱退した今では昔の面影はなく、テクニカルなメロパワバンドといった方が近くなっている。

momentum
 2013年発表 型番 SC 233-0(2013年 イタリア) 国内盤あり

[2013.6.21 初稿]
 8thアルバム。このバンドにしては珍しく、前作7thと同じメンバーのままとなっている。Tr1"reason"ではSymphony Xのヴォーカル、Russell Allenが、Tr7"chaos"ではPagan's Mindのギタリスト、Jorn Viggo Lofstadがゲストとして参加。国内盤はボーナストラック3曲入り。

 バンドメンバーが変わらなかったこともあり、方向性は前作とほぼ同じくメロパワ寄り。ただ、全体に疾走系っぽい要素が強めになっており、前作以上にすんなり聴きやすいはず。また、Tr3"Universe"で少しかつてのDGMらしいネオクラシカルっぽいシンセパートを盛り込んでいたり、Russell Allenがゲスト参加しているTr1"reason"は、そのまま現在のSymphony Xっぽい曲になっていたりと、収録曲のバラエティも豊か。

 相変わらず王道かつバカテクなメロパワサウンドをやっているが、なにしろバンドメンバーがみんな巧くて、頑張って弾いてます感が全くなく、軽々と聴かせてくれるのがいいところ。速弾きしようが何しようが、変な緊張感など微塵も感じさせない盤石の演奏と頼もしさは、多くのメロパワやプログレメタルバンドとは一線を画している。ヘタだけど勢いだけでやっているバンドも、それはそれで味わいがあっていいのだが。

 メタルリスナーがくどく感じるようなプログレっぽさはなく、普通のメロパワとして聴けると同時に、テクニカルなメタルが聴きたいリスナーの要望にも応えられる内容となっている。こんなハイレベルな楽曲を軽々と繰り出してこられたら、他のメロパワバンドやプログレメタルバンドはたまったものではない(笑)
 メロパワやプログレメタルが好きなら、これがダメということはまずないはず。安心してお勧めできる一枚。

FRAME
 2009年発表 MICP-10816(2009年 国内盤)

[2011.6.1 初稿]
 バンド名の由来であったバンドメンバーが全員脱退し、もはや初期の頃とは別バンドになってしまったDGMの7thアルバム。
 初期の頃はイタリアのシンフォニーXと呼ばれるような音楽性で、私がシンフォニーXが好きでなかったこともあって全然好みの音楽ではなく、全く注目していなかったのだが、本作はもはや昔のネオ・クラシカルらしさは全くなく、テクニカルなメロパワのような曲になっている。昔から聞いていたファンにとってどうなのかはわからないが、私としては好みのサウンドになっていて嬉しい限り。

 表面的にはプログレメタルらしさは全くなく、ほとんど普通のメロパワのように聴けるキャッチーさとパワーのある曲でありながら演奏や展開は技が効いており、元気はいいけど知的な、非常に質の高いメタルとなっている。
 プログレ由来の複雑さが単調さを消すための役割に留まっており、メロパワ本来の良さである爽快感やキャッチーさを殺していないのが非常にいい。私が最近のANGRAやSONATA ARCTICAに求めているのは、まさにこのバランスなのである(笑) 際立ったキラー曲はないが、全体にデキが良くて曲ごとに個性もあり、通して聴くに堪えるクオリティになっている。プログレメタル寄りのバンドがこういうバランスで曲を作るのは非常に珍しい。

 おそらくDGMというバンド名から期待されるアルバムではなく、メロパワやメロスピ好きに好まれそうなアルバムとなっている。最近のANGRAは無駄に複雑すぎる! と思っているような人ならまず当たり。
 プログレメタルを聴く層なら、「いくら高度で複雑な演奏をやっても、それがキャッチーさを殺したらダメだろ!」と思っている私のような人なら、このアルバムはいけるはず。

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Disarmonia Mundi/メロデス

 元々はメロデスシーンのないイタリアでメロデスをやっているバンド、というだけの認知だったのだが、SoilworkのヴォーカリストBjorn "Speed" Stridが加入したことと、ギタリスト、ベーシストの脱退に伴い、Ettore Rigottiがギター・ドラム・ベース・キーボード・クリーンヴォーカルを担当するようになったことで急激に注目されるようになる。

 楽曲そのものはSoilwork系にゴシックメタル風の展開を加えたメロデスだが、本当にビョーンが歌っていることと、クレジットの異常さ(エットレ・リゴッティの担当パートの多さ)で笑いが取れてしまう、ある意味でイタリアらしい変態バンドといえる。

 ちなみにエットレ・リゴッティはスタジオやレーベルのオーナーでもあり、レコーディングやプロデュース業までこなす多才な人である。

Cold Inferno
 2015年発表 型番 KICP1725(国内盤・2015年)

[2015.5.30 初稿]
 メンバー探しを諦めたというより、もはや楽器演奏をエットレ一人でやっていることをウリにしつつあるような気もするDisarmonia Mundiの5thアルバム。
 エットレはギタリストとキーボーディストを見つけてThe Strandedというバンドを結成したので、Disarmonia Mundiの名義は消滅するのかと思っていたら、何事も無かったかのように新アルバムをリリースしてきた。もちろん編成はEttore Rigotti(ds,vo,g,b,key)、Claudio Ravinale(vo)にBjorn Strid(vo)を加えた従来のまま。

 国内盤はボーナストラックとしてIron Maidenのカバー曲"The Loneliness Of The Long Distance Runner"が収録されている。

 曲の印象としては、全体に硬質になった感じがする。シンセの使用が減り、サウンドプロダクションとしてもリバーブが抑えられて音圧が増している。
 また、従来に比べてギターワークがだいぶ良くなっている気がする。そもそもこのバンドの演奏は全部エットレ・リゴッティがやっており、そのエットレの元のパートがドラムスだったこともあって、ギターフレーズが控えめな傾向があるのだが、このアルバムでは若干それが改善されている。とはいえ、どちらかというとヴォーカルとコーラスの力が強めなのは相変わらず。

 曲のバラエティも増していて、Children of Bodom風やHelloween風など、曲ごとにいろいろやっているのだが、クリーンヴォイスパートで似たり寄ったりな展開になるのがものすごく勿体ない。それのせいで似たような曲ばかりっぽい印象になっているところがある。

The Isolation Game
 2009年発表 Amazon MP3 DL販売にて購入

[2011.6.30 初稿]
 4thアルバム。3rdアルバムに引き続き、エットレ・リゴッティがデス・ヴォーカル以外の全てを担当し、正規メンバーのクラウディオ・ラヴィナーレ(Vo)に加え、Soilworkのヴォーカル、ビョーン・ストリッドがゲスト参加している。
 前作まではビョーン・ストリッドの扱いは正規メンバーに近かったが、本作ではサポートメンバーらしくなっている。
 アルバムが入手できなかったので、AmazonにてMP3形式(320kbps VBR)で購入。

 前作はゴシックメタルかと思うような甘ったるい退廃的なメロディが特徴的だったが、本作はややメロデス風味が強くなっており、Soilworkっぽさが強くなっている。メロデス好きにはこちらの方が訴求力があるように思う。

 相変わらず曲の質は全体に高く、一曲こどに聴く分にはいいのだが、似たような曲が並ぶのでダレてくるという問題がある。もう少し曲調にバラエティを持たせてくれると有り難いのだが。あまり通して聴くには向いてない。もっとも、デスメタルというジャンルはそもそもバラエティを持たせにくいところがあって、たいがいのバンドにこの傾向はあるので、ある程度は仕方ないかもしれない。
 ダレを感じやすい理由のひとつは、いい曲やキャッチーな曲を前半に固めるアルバム構成になっているから、というのもある(これはアルバム"Mind Tricks"もそう)。

 アルバムとして見るとどうしても評価を下げざるを得ないが、曲単位で見れば良曲もあるので(特にTr1"Cypher Drone"はいい。この曲調はこのバンドならでは。あと、Tr12"Digging the Grave of Silence"のブラストビートの上に甘いコーラスが乗るのはなかなかの新感覚)、泣きのメロディの効いたメタルが好きならチェックしてみて欲しい。……問題は、アルバムが意外に入手しづらいことだが。

Mind Tricks
 2006年発表 型番 SPCD 0050(2006年・韓国) 国内盤あり

[2015.9.28 改稿]
 3rdアルバム。一時期入手困難だったが、『プリンセス・ジブリ』の影響か、曲が追加されて国内盤が再発された。私が持っているのは入手困難な時期に購入した韓国盤で、"Celestial Furnace"のPVと"Chester"のデモバージョンが収録されている。

 ベーシストまでが脱退し、楽器演奏はみんなエットレ・リゴッティが担当(ギターソロだけClaudio Strazzulloというギタリストが弾いている)、なのにヴォーカリストは2人もいるという妙なバンドになってしまった記念すべきアルバム。もはやバンドというよりはエットレ・リゴッティのソロプロジェクトである。また、2ndアルバムに続きSoilworkのヴォーカル、ビョーン・ストリッドが参加している。

 楽曲はSoilwork系メロデスにゴシックメタル風のコーラスパートを加えたものだが、本作はどちらかというとゴシックメタル風味が強めになっている。メロデスとして聴くと甘ったるいように感じるかもしれない。
 トリプルヴォーカルのおかげで妙にヴォーカルパートが厚いのも特徴。

 前半の曲のデキはどれもいいが、特にタイトル曲であるTr2"Mindtricks"は飛び抜けている。この曲はメロデスの歴史の中でも屈指の名曲だろう。
 一方、後半に行くにつれ似たり寄ったり感がでてきて、ちょっとダレる感じはある。

 とりあえず"Mindtricks"一曲のために買っても惜しくないアルバムだろう。似たような曲が多いのが辛いところだが、質の水準は高い。
 このアルバムは案外、メロデスというよりはゴシックメタルが好きな人の方が合うかもしれない。

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DragonForce/メロディック・スピードメタル

 イギリスのスピード狂メタルバンド。ただし、現在のバンドメンバーは国籍がバラバラで、純粋なブリティッシュバンドとは言い難い(実際、曲もブリティッシュメタルらしくない)。
 無駄に壮大なスケール感を醸し出す音楽性、過剰なまでに手数を重視した演奏、速いくせに6〜7分当たり前という長い尺、ついでにギターが壊れるんじゃないかと思うほどワーミングしまくりという、とにかくいろんな意味で突き抜けたメロスピバンドである。

 クラシカルなメロスピならRhapsodyをはじめいくつかあり、曲のBPMそのものは最近のスピードチューンとしては標準クラスだが、ブラストビート&シンセワークにより演出される異常な疾走感で7分近く走りきる曲ばかり収録するのは彼らしかいない。バカもここまで徹底すれば清々しい。

 似たような曲ばかりなので飽きが早いのも事実だが、脳腐れしそうなほどのスピードチューンの応酬は、一度は体験する価値があるだろう。

INHUMAN RAMPAGE
 2005年発表 型番 VICP-63220(国内版・2005年)

[2008.10.28 初稿]
 3rdアルバム。
 とにかくバカが付くほどの疾走感にベタベタな哀愁路線のメロディを乗せ、ひたすら弾きまくるメロスピアルバム。全曲早回ししてるんじゃないかと思うほどのハイスピード、剛直球勝負の格好いいメロディの応酬。これ以上の説明は不要だろう。
 DragonForceのアルバムは毎度この展開なのだが、本作は特に哀愁系サウンドに固執して作られているようで、哀愁系大好きな日本人には受ける作りになっている。

 もちろんここまで速い曲を演奏するのは大変高度な技術を要するし、格好いいメロディもここまで並べるとなると大変なわけだが、もうこれはやりすぎ(笑) このバンドの連中、脳みそが腐れてるとしか思えない……と思っていたら、ドラマーがあのBAL-SAGOTHの元メンバーだったりする(笑)

 似たような展開の曲ばかり並ぶので、アルバム通して聴くとさすがに食傷するが、本気なのか冗談なのかわからないイカレたスピード狂っぷりは一聴の価値はある。
 聴き過ぎると確実に頭を悪くするので、適度に休憩しながら聴きましょう。

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DREAMSCAPE/プログレメタル

 ドイツのプログレメタルバンド。
 1st〜2ndの頃は"IMAGES AND WORDS"のDream Theaterを思わせる、複雑かつ幻想的で甘めのメロディアスなプログレをやっていたのだが、3rd以降、微妙に路線を変更し、よりヘヴィネスでソリッドな方向に音楽性が変化した。
 4thではメタル要素が強化され、なかなか面白いバランスのサウンドになっている。

"IMAGES AND WORDS"路線のプログレメタルを聴きたいなら、本家よりもこちらの方が趣味に合うだろう。フォロワーと言えばフォロワーだが、ここまで真面目にやれば大したものだし、特に4thアルバムでは独自性も出てきている。

 おすすめは、とりあえず2ndアルバム"Very"。Tr1"When Shadows Are Gone"はそのまんまドリームシアターの"UNDER A GLASS MOON"みたいな曲だが、こういうのが聴きたかったという人は結構いるのではないだろうか。その他、完成度の高さでは4thアルバム"5th SEASON"。

 なお、レビューしていないアルバム"REVOICED"は1st、2ndの曲を現在(3代目)のヴォーカリストが歌ったものだが、原曲から変にアレンジしていたり、ヴォーカリストの声と曲が微妙に合っていなかったりといった違和感があり、あまりオススメはしない。

Everlight
 2012年発表 AmazonにてMP3形式で購入

[2012.4.13 初稿]
  5thアルバム。CDで発売されているらしいが、探しても見つからないのでAmazonのダウンロード販売で購入。

 ピアノやストリングスを中心としたきらびやかなキーボードとヘヴィなギターの連携が特徴的なDreamscapeとしての個性は変わらないが、5年ぶりのアルバムリリースということもあってか、本作は多様な曲調の曲を収録しており、今までよりもバラエティに富んだ内容になっている。
 おおざっぱにはTr1〜Tr6までは暗くて重めの曲が並び、Tr7以降は彼らが得意とする、明るめの曲になっている。
 また、一部にベースソロやドラムソロが導入されているのも特徴。

 Tr2"Restless"は、2ndアルバム"Very"の頃の大仰さと現在のヘヴィさを混ぜたような曲調で、彼らの曲としてはありそうでなかったバランスになっている。
 Tr4"Fortune And Fate"は、メロスピ+プログレな曲調で、Dreamscapeらしいといえばらしいのだが、ここまでギターがゴリゴリとリフを弾き倒すスピードチューンは珍しい。MANIGANCEあたりと似ているような気も。
 Dreamscapeはコンパクトな曲の方が得意なイメージがあったのだが、本作のTr6"A Matter of Time Transforming"はなかなか良くできている。この曲もDreamscapeにしては暗くて重い曲調だが、キーボードがいい仕事をしていて、重さを軽減しており、結果的にいいバランスになっているように思う。

 ここまではDreamscapeにしては珍しく暗くて重い曲が並んでいるが、Tr7"One"以降は、明るめできらびやかなキーボードワークの光るDreamscapeらしい曲調になる。特に"One"はピアノとギターリフの連携によって進行する、このバンドらしい曲だろう。
 Tr8"The Calm Before the Storm"と、短い曲だがTr9"Refugium in Db-Major"は、珍しくインスト曲(オープニング曲の"Final Dawn"もインストだが、アルバム冒頭にインストを持ってくる手法は珍しくないのでカウントしない)。特にキーボードワークが際立つ曲で、これもなかなかいいデキ。

 アルバムタイトル曲であるTr12"Everlight"は7分超の長めの曲になっているが、こちらは"A Matter of Time Transforming"とは異なり、従来のDreamscapeの曲調での長編曲となっている。これも良くできており、この手の長い曲で聴かせる曲が作れるようになったあたりに、このバンドの成長ぶりが伺える。

 基本的には前作の延長線上にあるアルバムだが、全体に、よりプログレらしい複雑さを備えつつ、聞きやすさを維持した形で進化しているように思う。前半の曲が暗めなので「このバンドはこういう方向に転換してしまったのか」と思ってしまいそうになるが、7曲目以降では従来のDreamscapeらしい曲が並ぶので、その点だけは注意。

5th SEASON
 2007年発表 型番 MAS DP0545(ドイツ・2007年) 2007年現在、国内盤なし

[2007.10.22 改稿]
 4thアルバム。
 前作にあったヴォーカリストやシンセワークの違和感が無くなり、安定したデキになっている。
 本作ではより複雑で巧妙な構成の曲に仕上げながら、同時にメタルらしい親しみやすさと重さも強調されている。
 ピアノを多用した叙情性重視の曲が中心になっているのは変わらないが、速弾きや急激なリズムチェンジ、単純で力強いギターバッキングを強調した箇所など、ところどころに派手な演出がいくつか見られる。
 よりプログレメタルらしい複雑な展開を加えながら、ライトさにおいても進化したこのアルバムの感触は妙な感じ。明らかにプログレメタルなのに、時折本当にプログレなのかと思わせるほどベタな展開を見せたりするのは意外と新鮮。ここまでジャーマンメタル的な軽妙な要素を混ぜてしまうと、もう単なるドリーム・シアターのフォロワーとは言い切れなくなってきたように思う。

 メタル色が強くなった分、2ndアルバムのような幻想的な雰囲気は薄れてしまったが、これはこれで面白い方向に進化しているのではないだろうか。
 コンセプティブな要素は薄いので、その辺で物足りない部分はあるかもしれないが、これだけまともにプログレメタルとして成立していて、かつ一般のメタルのように気軽に聞けるアルバムはそうはない。

END OF SILENCE
 2004年発表 型番 MAS CD0408(ドイツ・2004年) 2007年現在、国内盤なし

 3rdアルバム。基本的には前作を引き継いだ感じの、ピアノを効果的に使ったきれいな感じのドリームシアター系メタル。
 なのに前作と比べると妙に違和感があるのでなぜかと思っていたら、ヴォーカルが変わっていた。やはり、あまりにも弱々しい歌声が不評だったのか(笑) でも私はあれがドリームスケープの曲調に合っていたような気がする。

 ヴォーカルの交替に合わせてか、多少ヘヴィネスな方向に味付けがされているが、基本的には前作と同路線の、メロディアスでドラマチックな曲に仕上がっている。
 ただ、メインで使われているキーボードの音が曲に合っていないような気がするのがちょっと残念なところ。もう少し矩形波系のクリーンな音にして、重くなったギターリフと対比させてる形にした方が良かったような。

 多少の違いはあれども基本的には"Very"と同路線なので、この手の曲が好きな人にはおすすめ。あとは前作のヴォーカルの声だけ気に入らなかった人もチェックしてみてはいかがだろうか?

Very
 1998年発表 型番 MICP-10127(国内盤・1999年)

(2003.4.25 改稿)
 名前からしてDeram Theaterのフォロワーな雰囲気を漂わせている、Deramscapeの2nd。曲の方も、要所要所にドリームシアターっぽい展開やシンセワークを使ったものになっている。

 ドリームシアターのフォロワーというと、圧倒的に多いのが変拍子の嵐と急なリズムチェンジを基本とする混沌としたもの(1stや3rdの曲調)だが、ドリームスケープはむしろ本家2nd収録"Under A Glass Moon"のように、メロディの魅力を前面に出し、それにリズムや技巧の面白さを付加したタイプである。

 メタルのヴォーカリストとは思えないほどマイルドなVoの声質に合わせてであろうか、ピアノやクリーンギターなどの透明感のある音色が幻想的でややけだるい雰囲気を演出しており、その分リズムの面でブレイクや刻みを多用してタイトさを出し、均衡を取っている。

 多分ドリームシアターが「プログレメタル」を目指しているのに対し、ドリームスケープは「ドリームシアター型のメタル」を目指しているように思える。彼らにプログレを期待するのは酷だが、ネオ・クラシカルとは異なる形での「情感あるメタル」として考えれば、良質なバンドになりうるのではないだろうか。

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DREAM THEATER/プログレメタル

 アメリカのプログレメタルバンド。プログレとアメリカンメタルという、あまり相性の良さそうでない両者が混血した、独特の音楽性を有している。プログレにメタルの要素を導入する手法は後続のバンドに多大な影響を与えた。
 基本的には高度な演奏技術を前面に出したテクニカルな曲が多いが、2ndアルバム"IMAGES AND WORDS"、4thアルバム"FALLING INTO INFINITY"、5th"Metropolis Part2-Scenes From A Memory-"の3枚は例外で、技術よりも曲全体の構成や叙情性を重視したアルバムになっている。また、Mike Portnoy(Ds.)が脱退した後の11th"A Dramatic Turn Of Events"以降も、テクニカルメタル的な要素は薄めになっている。

 はじめて聴くならとりあえず"IMAGES AND WORDS"。そこから、プログレ寄りの人は"Metropolis Part2-Scenes From A Memory-"、メタル寄りの人は"TRAIN OF THOUGHT"がおすすめ。
 私が好きなのは"Octavarium"と、"FALLING INTO INFINITY"の後半トラック。

The Astonishing
 2016年発表 型番 ROADRUNNER RECORDS 1686-174932(US 2016年)

[2016.2.8 初稿]
 13thアルバム。
 Dream Theaterが多元宇宙に漂うBal-Sagothの亡霊に取り憑かれて音楽の暗黒面に目覚めてしまい、無駄に壮大な設定を作り込んでしまった結果生まれたのがこのアルバム。「こんなのDream Theaterじゃない」などと怒るリスナーがいることは明白だが、ジャケ絵や先行発表されたプロモーションムービーからして、こうなることはわかりきっていたことではある。
 無駄に地図なんかも用意しているあたり、なかなかの重症っぷりだが、バイロン・ロバーツやルカ・トゥリッリといった先輩方と比べるとまだまだとも言える。

 というわけで、要するにこの作品はロックオペラの部類に入るものだが、"Metropolis Part2"などの、プログレ寄りのコンセプトアルバムという印象はほとんどない。どちらかというとRick Wakemanの"Journey to the Center of the Earth"みたいな、大仰なアルバム、といった感じ。

 ただ、曲自体は、この手の大作志向のアルバムにありがちな、構想が壮大すぎて音楽として何か肝心なことを忘れている感はなく、むしろコンパクトで聞きやすい印象。2枚組、2時間超というと紛れもなく大作だが、そのわりには大作っぽさが全然ない。
 Dream Theaterは"Six Degrees of Inner Turbulence"でもオーケストラを使ってロックオペラをやっていたが、あれは曲が冗長気味であまり良くなかったし、オーケストラとロックバンドの演奏のまとまりにも欠けるところがあった。
 その点、このアルバムの曲はよくまとまっているし、オーケストラも無理なく使われている。「ロックバンドとオーケストラの融合!」みたいな肩肘を張った印象はなく、ごく自然に使われているので、あえて注目しなければ何とも思わないだろう。逆に、あまりにも普通に聴けすぎるのが、ひねくれた音楽を好むプログレリスナーには物足りないところだとも言える。

 前作ではヴォーカルパートがイマイチで、いっそインストの方が良かったように感じたが、今作はそういうことはなく、各パートのバランスは良い(キーボードパートが妙に目立っているが、それは今回の作曲を主導しているのがJordan Rudessのようだから、しょうがないだろう)。
 ただ、テクニカルメタルの醍醐味である、演奏の緊張感を楽しむといった部分ではイマイチなので(実際にはテクニカルなフレーズは多々あるものの、そこをウリにした曲にはなっていない)、そこは期待しないほうがいい。
 また、聴いている分にはなかなかいいのだが、ほとんど印象に残らないアルバムでもある。後で何がどんな曲だったか思い返そうとしても、きれいさっぱり忘れている。この手のアルバムは、1曲だけ突出して良すぎると、全体のバランスを崩して良くないというのはあるかもしれないが、もう少し印象的な曲を要所要所に入れて欲しい気はする。

DREAM THEATER
 2013年発表 型番 RR7604-2(US・2013年)

[2013.9.25 初稿]
 12thアルバム。通常版と特別版があり、特別版の方はアルバムの曲を5.1chで高音質化したDVDが同梱されている。私が買ったのは通常版。

 あのDREAM THEATERが、その名を冠したアルバムを出すとなると、とんでもなく複雑で聞き辛いのを繰り出してくるんじゃないかと身構えていたのだが、全然そんなことはなく、むしろ小粒で聴きやすいアルバムになっていた。大御所らしさがなくて、DREAM THEATERに影響を受けた新人バンドのデビューアルバムのような雰囲気がある。なんか若返ったなあというのが第一印象だった。曲調としてどうというのではなく、のびのびやっている感じが1stや2ndの頃に似ている。

 路線としては前作を引き継いでおり、テクニックを前面に出さず、曲全体のバランスを重視した作りになっている。ただ、前作は集中して聴かないと良さがわからないところがあり、聞き手に聴くことを要求するアルバムとなっていたが、本作は割と適当に聞き流してもいいくらいに気軽な曲になっている。これだけ聞き手の負担が少ないアルバムは、このバンドとしては珍しい。

 Tr1"False Awakening Suite"からしてDREAM THEATERとしては破格で、シンセオケをふんだんに使った、無駄に大げさなイントロ曲となっている。この手のイントロ曲から自信作に繋ぐのは常套手段だが、安っぽくてありきたりでもあって、DREAM THEATERはいままでこういう構成を採用してこなかった。それが、よりにもよって自身のバンド名を冠したアルバムで採用して、しかもそのタイトルが"False Awakening Suite(間違った目覚めの曲)"というのが実に嫌味で面白い。
 Tr2"The Enemy Inside"は現行のDREAM THEATERらしいキラー曲となっているが、タイトルと歌詞からしてコンセプトが丸わかりで、この辺の率直さが新人バンドらしい雰囲気を出すのに一役買っている。もっとも、この歌詞は大御所バンドとして長年プレッシャーの中にいた彼らだからこそ書ける内容ではある。
 この序盤2曲から、"DREAM THEATER"というアルバムタイトルの意味は透けて見えてくるように思える。要は自分達を皮肉ったコンセプトなのだろう。

 Tr3"The Looking Glass"は、RUSHの影響丸出し曲。これも従来のDREAM THEATERらしくなく、と同時に今作のアルバムらしい曲となっている。
 Tr4"Enigma Machine"は貴重なインスト曲。インスト好きということもあって、私はこの曲がこのアルバムでは一番好き。
 Tr5"The Bigger Picture"は、一概にバラードとも言えない構成ではあるものの、一応バラード曲。アルバム後半は、バラードっぽいパートの含まれる曲が並んでいるが、その中では特によくできた曲はこれだと思われる。
 Tr9"Illumination Theory"は久々に20分超の長編曲となっている。個々のパートはそれぞれに聴かせてくれるが、ひとつの曲として見ると構成に無理がある感じはある。

 全体としては、Tr2"The Enemy Inside"以外のヴォーカルのメロディにイマイチ感があり、いっそインストバンドにならないものかと思わないでもないデキではある。
 ただ、DREAM THEATERらしからぬ気楽に聴けるアルバムなので、プログレメタル好きは小難しいことを考えずにTr2"The Enemy Inside"、Tr4"Enigma Machine"、Tr5"The Bigger Picture"あたりを目当てになんとなく買ってなんとなく聴けばいいと思う。特にプログレメタルインスト好きなら、"Enigma Machine"一曲だけで充分満足できるはず。
 従来のファンがどう感じるかはわからないが、過去の栄光を求めるなら過去のアルバムを聴けばいいわけで、新人バンドのつもりで聴けばいいんじゃないかとは思う。

A Dramatic Turn Of Events
 2011年発表  型番 RR 7765-2(US・2011年)

[2011.9.23 改稿]
 11thアルバム。DVD同梱の初回限定版もあるが、私が買ったのは通常版。

 Dream Theaterの中核的存在だったMike Portnoy(Ds.)が脱退した後のアルバムということで注目されたアルバム。
 その影響もあるのか、本作では延々とハイテクを披露するパートや攻撃的な重低音パートが少なくなり、メロディや全体の構成を重視する曲作りになっている。また、音のエッジの鋭いミックスだったのが、本作では比較的丸くなっている。
 つまり、テクニカルメタルの比重が大きかった近作の流れではなく、久々に5thアルバム"Metropolis Part2 -Scenes From A Memory-"あたりに近い、叙情性と構成美を重視したアルバムになっている。
 ただし、一発聴いて良さがわかるほどキャッチーなメロディラインを有しているわけではなく、どちらかというと複雑で奥行きのある味わいがウリと言える。そういう意味でも「プログレ」寄りなアルバム。

 アンサンブルのバランスが良くなり、曲構成や演奏で無理をしていないため聴きやすくなった反面、Dream Theater特有の「バカテク集団が限界に挑戦している緊張感」が薄れてしまった分、退屈に感じる人もいるだろうと思う。「ここが聞き所だよ」というわかりやすいマークがないので、受動的に聴いていると聞き流してしまいがち。
 結果として、集中して積極的に聴かないと良さがわからないので、意外と聴き手を選ぶアルバムになっている(アメリカのプログレメタルにはよくあるタイプでもある)。

 アルバム全体の雰囲気や、バラード曲を含むアルバムの構成が似ているため"Images And Words"の再来のように言われることのある本作だが、表面上は似ていても曲の方向性は根本的に異なるため、それを期待するとがっかりすることになるかもしれない("Images And Words"はメロディアスでキャッチーでコンパクトにまとまっていて「聴かせる」曲になっているが、本作はリスナーに「聴く」ことを要求する作りになっている)。もはや同じバンドのアルバムとは思えないくらい違うので、あまり過去のイメージに囚われないで、新鋭バンドのアルバムを聴くつもりで聴いた方がいいと思う。

 従来のDream Theaterリスナーが本作をどう捉えるのかは正直全くわからないが、集中して聴けば聴くほど聞き所満載で裏切らないので、そういう聴き方のできる人にとっては素晴らしいアルバムであるはず。
 私はこれがDream Theaterのベストアルバムだと思うが、そう感じるのは私がアメリカのプログレメタルを聞き慣れていて、かつDream Theaterファンじゃないからだとも思う。

Octavarium
 2005年発表  型番 WPCR12079(国内盤・2005年)

 8thアルバム。
 6thアルバム、7thアルバムと、複雑で重い音楽へと変化しつつあったドリームシアターだが、この作品ではかつてのキャッチーで叙情的な音楽性を復活させている。最近の彼らの作品にしてはかなり聴きやすい。

 本作は、どちらかというと新しい試みをしようというものではなく、今までの「ドリームシアター」音楽の集大成、といった感じのアルバムになっている。基本的には7thアルバムに2ndアルバムを混ぜたような感じ、といえばわかりがいいのか。
 Tr5"Panic Attack"やTr6"Never Enough"など、ヘヴィでテクニカルでありながら構成が素直で非常にキャッチーかつ分かり易い曲も多い。ドリームシアターはもしかすると、7〜8分程度の尺で曲を作るのが一番バランスがいいのかもしれない。

 特に面白いのは、最近のドリームシアターらしくヘヴィでありながら、2ndの頃のようなキャッチーさを混ぜたTr1"Rest Of Evil"と、今までの彼らの作風を次々と披露していくTr8"Octavarium"。4thアルバム"FALLING INTO INFINITY"が結構好きな私にとって、あの出だしはちょっと嬉しかったり。この曲調のドリームシアターを再び聴けるとは思わなかった。

 最近の(6th〜7th)ドリームシアターが好みの方には物足りないかもしれないが、2ndあたりが好きで最近のはキャッチーさが少なすぎてつらいという人には向いているアルバムといえる。

Train Of Thought
 2003年発表  型番 WPCR11703(国内盤・2003年)

[2011.2.14 改稿]
 7thアルバム。
 6thアルバム(の1枚目)と同じく1st、3rdアルバム路線の超高度なめちゃ弾きタイプのアルバムとなっている。前作と同様、曲の複雑さが半端ではなく、その上ほとんどの曲が10分超の長さに。
 ただし、前作はまだ少しサイケデリック色の残った音楽性だったが、本作はよりメタルらしい音楽になっている。メロディやソロ、曲の構成や展開よりも、とにかくリフを中心に聴くタイプの曲になっており、そのくせわかりやすくストレートな展開というわけでもないので、コレを聴こうとすると、それなりに相性が必要になる。ただし、前作よりは聴かせどころがはっきりしているので、そういう意味では分かり易くなったとも言える。
 要するにこれは、アメリカンメタルの手法でプログレを作ったらこうなった、というタイプのアルバムで、ヨーロッパのプログレとアメリカのメタルを両方愛せる雑食性がないと良さがわからないわけである。実際、2003年当時の私はアメリカのメタルを聞き慣れていなかったため、このアルバムの良さがちっともわからず、手放してしまった。買い戻して聴いた今となっては、当時気に入らなかった理由も、このアルバムの楽しみ方もよく分かるのだが。
 このアルバムは緻密な構成や繊細な詩情を鑑賞するものではなく、ひたすら弾きまくるのを楽しめばいいわけである。KING CRIMSONで言えば、『宮殿』より『太陽と戦慄』タイプの作品ということ。とはいえ、ここまで複雑で長い曲にする必要があったのかは、未だに疑問ではあるが。

 なお、私はTr1"As I Am"のイントロに、ストリングスが入っている意味がわからなかったが、これは前作アルバムラストの音を逆再生したもの、らしい。続けて聴くと意味が出てくる、ということ。

 TOOLやThe Mars Voltaあたりを聴く人なら、このアルバムは結構はまるのではないかと思う。

Six Degrees of Inner Turbulence
 2002年発表  型番 AMCY7311(国内盤・2002年)

[2011.2.14 初稿]
 6thアルバム。2枚組。
 収録されている6曲が、それぞれ精神疾患などをテーマに作られており、6曲目となるタイトル曲は組曲形式となっている。
 ちなみに、Tr1"Glass Prison"は5thアルバムのラストのノイズから始まるようになっている。続けて聴くとちょっと面白い。

 1枚目のTr1〜Tr5は、ヴォーカルももちろん効果的に配されているものの、作品の中心となるのはインストパートで、非常に長く、かつ複雑で凝った演奏になっている。
 テーマが前作に近いだけに、ややサイケデリックな要素は残っているものの、ここ2作に比べるとかなりメタル寄りで、かつテクニカルな演奏を前面に出した作品となっている。
 ヴォーカルパートはわかりやすいメロディとメッセージのため聴きやすいが、インストパートに入るとドリームシアターお得意のころころ曲調の変わる展開が、1stや3rdの時よりも複雑になって延々と続くため、この手の長尺に慣れていて、かつじっくり時間を取って聴かないと、なかなか良さが分かってこない感じはある。
 1stや3rdアルバムのようなテクニカルな演奏や構成を聴きたい人にとってはおいしい。ただ、無駄に技術を披露し過ぎる感じがして、音楽に表現や構成を求めているタイプの聴き手にはちょっと辛いところ。

 2枚目の"Six Degrees of Inner Turbulence"は組曲となっており、交響曲スタイルを踏襲した「ロックオペラ」となっている。5thアルバムの音楽性を受け継いだ形の曲となっているが、ここまでクラシカルだとなんだかドリームシアターらしくなくて、ものすごく違和感がある。Bal-Sagoth+Evil Wingsのような、テクニカルなのに安っぽい感じが(キーボードの音色のせいだと思われる)。いかにもプログレバンドがやりそうな曲だが、なにもドリームシアターがやる必要はない気がする。ひとつひとつのフレーズは悪くなく、聴き所もいろいろあるが、全体として何をやりたいのか分からない、散漫な感じがある。

 このアルバムの中でバランスがいいのはTr1"Glass Prison"だろう。14分近くある曲だが、複雑で覚えづらい本作の中では比較的とっつきやすく、技巧の披露に走りすぎている感じもない。

 今からだと、7thアルバムが好きな人が1枚目目当てで買うのが良さそう。

Metropolis Part2-Scenes From A Memory-
 1999年発表  型番 AMCY7087(国内盤・1999年)

[2011.2.14 改稿]
 5thアルバムにして、初のコンセプトアルバム。
 2ndアルバム"IMAGES AND WORDS"収録の"Metropolis Pt:1"から発展した作品となっており、悪夢に悩まされる男の過去が催眠療法という形式を取って描かれていく形式となっている。

 アルバムそのものが2ndアルバム収録曲の発展系ということもあり、音楽的にも2ndに近い、テクニック、メロディ、テーマのバランスが取られたものになっている。ただしコンセプトアルバムなので、2ndの時のように一曲一曲がわかりやすい形で提示されているわけではない。曲そのものではなくアルバム全体で評価する形の作品になっている。一時間の聴く映画を聴いている、といった感触。ナレーションの入り方など、本当にあざといぐらいにシビレる(笑)

 コンセプトアルバムが好きで、2ndの頃の曲調を求めているなら、このアルバムはドリームシアターの最高傑作と言えるだろう。

FALLING INTO INFINITY
 1997年発表  型番 AMCY-2315(国内盤・1997年)

[2009.6.30 改稿]
 4thアルバム。
 ドリームシアターにしては緊張感溢れる技巧の数々も少なく、締まりのない曲ばかりで「なんじゃこりゃ」と思われがちなアルバムだが、Tr6"Hell's Kitchin"→Tr7"Line in the Sand"やTr10"Anna Lee"、Tr11"Trial of Tears"など、PINK FLOYDの影響を色濃く漂わせる曲が聴ける貴重な一枚である。こんなサイケデリックサウンドが聴きたかったんだ! と喜ぶ人も結構いるのではないだろうか。今でこそRiversideがこれに近いサウンドをやっているが、当時は本当に貴重なピンクフロイドのフォロワーアルバムだったのである。ジャケ絵やタイトルもなんとなくピンクフロイドっぽい。

 メタルアプローチのピンクフロイドサウンドはかなり独特で、メタルも聴くけどサイケデリックも好きという人にはたまらないデキとなっている。その他、Tr7"Line in the Sand"の"Time"風味ドラムなど、ニヤリとするフレーズも色々。逆に言うと、サイケデリックサウンドが好きでない人にとっては退屈なだけのアルバムとも言える。

 PINK FLOYD、Porcupine Tree、Riversideあたりが好きな人なら大好物だろう。逆に、一般的なドリームシアターファンには勧められないアルバムである。

AWAKE
 1994年発表  型番 AMCY-750(国内盤・1994年)

[2009.6.30 初稿]
 3rdアルバム。
 叙情性重視だった前作とは打って変わって、複雑怪奇な展開とソリッドな音質でギスギスした音を聞かせる変態的なプログレメタルとなっている。印象的なフレーズを次々と使い捨て、猫の目のように変化し続ける音楽性は、1stアルバムの頃に戻ったかのような印象。
 ただ、1stのころは単に高速バカテクで押しまくる曲ばかりだったが、本作はPINK FLOYD的だったりKING CRIMSON的だったりバラード的だったりするスローテンポなパートも交えて展開しており、単に技術披露なだけのアルバムでもなくなっている。
 もっとも、そのおかげで気持ち悪いくらいにスピードや曲調に変化が起き、変態度はさらに高められているとも言える。一曲一曲のコンセプトははっきりしているが、通して聴いていると何が何だかよく分からなくなってくる。

 猫の目展開好きなら、2ndよりも気に入る可能性あり。

IMAGES AND WORDS
 1992年発表  型番 AMCY-438(国内盤・1992年)

[2009.11.29 改稿]
 2ndアルバム。
 ドリームシアターの中で、最もメロディアスで聴きやすいアルバム。とんでもない技術を駆使した演奏でありながら、技術臭さを全く感じさせず、すんなりと聴けてしまう奇跡的な完成度を誇る楽曲群となっている。
 テクニカルでありながらもメロディアスで、ヘヴィかつ幻想的で透明感のあるサウンドという、相反する要素が絶妙なバランスで成り立っており、まさしく「ドリームシアター」というバンド名から連想される通りの音楽が楽しめる。プログレファンも納得のハイテク楽曲であり、かつ一般のメタルファンも楽しめるドラム、ギターリフの重さやキャッチーさも持ち合わせたハイグレードのアルバムである。

 プログレメタルに興味がなくても、これは必聴のアルバムだろう。聴かない理由はないように思う。

WHEN DREAM AND DAY UNITE
 1989年発表  型番 MVCM21059(国内盤・1992年)

 ドリームシアターの1stアルバム。
 バカテクドラムの上で暴れるギターやキーボードはEL&Pを彷彿させるものがあるが、ドリームシアターならではの要素は、ここで変えるか!? というタイミングでの変拍子の嵐。収録曲すべてが、だんだんどこを弾いているのかわからなくなってきそうな曲ばかりである。

 はっきり言ってこの1stアルバムと2ndアルバム以降の方向性は全く異なる。この1stアルバムはとにかくひたすら高度な演奏技術を披露するアルバムであり、曲の完成度という点から見れば、2nd以降の曲と比べて大きく見劣りするものの、これはこれでなんともものすごい迫力である。ただし、多少音質が悪い。

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DVORAK/管弦楽曲(国民楽派)

 ドイツ音楽にチェコの民族音楽をミクスチャした曲を作る作曲家。その楽曲はいま聴いても全く遜色なく、情熱的で緊張感のある曲を多数製作している。
 クラシック寄りの人より、むしろネオ・クラシカルファンのほうが、ドヴォルザークの音楽のすばらしさを高く評価できるのではないかと思う。ANGRAやRHAPSODY好きは、ぜひ彼らの先輩格であるドヴォルザークも聴いてみて欲しい。
 おすすめ曲は交響曲第九「新世界より」。

Symphony No.9 in E minor,"From the new world"(新世界より)
 1893年発表

[2007.3.28 改稿]
 ドヴォルザークの代表作。そして彼が世に出した最後の交響曲である。
 全編通して相当にキャッチーなメロディラインを有しており、現代の、5分1曲という短い音楽に慣れたせっかちな耳に充分耐える、ドラマティックな展開の連続で構成されている。多分に現代的な音なのである。

 有名なのは、歌詞付きで「家路」という名前で独立し、歌われている第二楽章と、超有名なイントロから始まり、これまでの主題がさりげなくリプライズされる第四楽章であるが、第一楽章の、ゆったりとしつつも何かを予感させる「じらし」から一気に盛り上げてあっという間に終わらせる展開の見事さは白眉の出来であるし、第三楽章の起伏に富んだ刺激的なスコアも素晴らしい。どこをとっても名曲である。

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数字・記号 A〜D E〜H I〜L M〜P Q〜T U〜Z あ〜た な〜わ VA その他(自主制作盤など)