数字・記号 A〜D E〜H I〜L M〜P Q〜T U〜Z あ〜た な〜わ VA その他(自主制作盤など)
[2007.3.24 初稿]
4thアルバム。
プログレメタルを語る上で、DREAM THEATERと並んで重要バンドと位置づけられるのがQueensryche。中でも最高傑作と呼び声高いのがこのアルバムなのだが、最初の2曲がベタベタな80年代メタルの音なので、これだけで「本当にプログレメタルなの?」と投げ出してしまう人が結構多いんじゃないかと思われる。実際私も長いこと、「これがなぜプログレメタルなのか」と疑問に思っていた。
一曲ごとに聴いた場合、単なるメタルだったりする曲も多いのだが、Tr3"REVOLUTION
CALLING"やTr8"SUITE SISTER MARY"、短い曲だがTr10"ELECTRIC
REQUIEM"といった曲は緊張感と叙情性に満ちたプログレらしい曲になっており、これらと他の「メタルらしい」曲を混ぜて全体を通すと、確かにコンセプチュアルなアルバムとして成立しているのである。
そして、それが認識できると、確かに名盤と言って間違いない完成度を誇るプログレメタルアルバムであることがわかる。どう聞いても単なる安っぽいメタルにしか聞こえなかったものが、である。なんとも不思議な感じ。
Queensryche未聴のプログレメタル好きや、昔聴いたけど好きになれなかったという人は、とりあえずTr8"SUITE
SISTER MARY"を真っ先に聴いてから、通して聴いてみてはいかがだろうか? おそらくいきなり最初から通して聴くのとは全く評価が変わると思われる。
女性チェリスト×3という変な編成のゴシック風オルタナティヴバンドの2nd。チェロには時にディストーションなどのギターで使うエフェクターをかけ、この編成でしっかりとロックをやってのけている。
アルバムではループ素材と思われるドラムが入っている。
このバンドの音楽を説明するのは難しいのだが、一言で言うなら「西洋童話風呪いサウンド」だろう。
静かで恨めしげなヴォーカルとチェロの旋律が、ゴシック風の曲調とインダストリアルなループによって増幅され、もはやこの世のものとは思えぬ強い呪いを放っている。最初聴いた時、私は途中で気分が悪くなって再生を止めた。さすがにこんな経験ははじめてである。
技術的には荒削りな部分も多く、実際日本盤に収録されている、マリリン・マンソンが手がけたリミックスの方が完成度は数段高いのだが、曲から発せられる負のオーラの強さに関しては、間違いなくオリジナルの方が絶大である。
ここまで病的なサウンドを作り出しているバンドはそうそうないだろう。いろんな意味で特殊なバンドなので、モノ好きな方は一度聴いてみるといいかも。
RPGさながらのストーリーを、生オーケストラとのセッションとともに描き出す、シンフォニック・メタル・バンド。
オーケストラとヘヴィメタルバンドの融合という点では、現時点でこれを抜くバンドは存在しないだろう。また、恥ずかしげもなく大仰な音楽をぶっちゃける精神力でも追従するバンドはいない(笑)
おすすめは7thアルバム"THE FROZEN TEARS
OF ANGELS"。1stアルバムから4thアルバムまではエメラルド・ソード・サーガというシリーズになっており、これらアルバムはどれも評価が高い。
6thアルバム以降、アメリカでの版権の問題でバンド名をRHAPSODYからRHAPSODY
OF FIREへと変更した。
[2011.6.22 初稿]
8thアルバムにして、ダーク・シークレット・サーガの最終章。本作からライヴのサポートギタリストであったTom
Hessが正式加入している。
全体的な印象としては、前作とほぼ同様の方向性ではあるものの、若干複雑な展開の楽曲が多い。歌詞と合わせて聴くとその理由はわかるところだが、曲単体として聴くと前作よりキャッチーな曲は少なめ。楽曲だけで評価するなら、前作のアルバムの方が私としては好みではある。
このアルバムで特に気に入ったのは、Tr3"Tempesta
Di Fuoco"。複雑な展開ながらひとつひとつのフレーズが立っており、猫の目展開な曲として良くできている。特にコーラスの泣きのフレーズが素晴らしいが、イタリア語歌詞のヴォーカルやイントロのRhapsody
of Fireらしくないネオ・クラシカルなギターフレーズも面白いところ。
本作の特徴はなんといっても19分超の組曲Tr9"Heros
of the Waterfalls Kingdom"だろう。得意の民族調オープニングから始まり、クリストファー・リーのナレーションで終わる本作は、8枚(+ミニ・アルバム2枚)に渡るRhapsody
of Fireの総決算に相応しい楽曲と言える。歌詞がわかっていないと何がなんだかわからないので、英語がわからないなら、せめて対訳を読みながらの鑑賞を推奨する。
これはダーク・シークレット・サーガ全般に言えることだが、このシリーズはより映画的演出を重視しているので、歌詞が分からないで楽曲だけ聴いても、何を表現しているのか半分くらい理解できないようになっている。このシリーズにいい印象を持っていない人は、一度対訳片手に聴いてみるといいかもしれない。
アルバムのラスト(日本盤ボーナストラック除く)を飾るのは、なぜかIron
Maidenのカヴァー曲であるTr10"Flash of
Blade"。たぶんオマケだと思うが。曲名がそのまんまRhapsody
of Fireらしくもあり、面白い選曲ではあると思う。
[2011.2.1 初稿]
7thアルバム。ダーク・シークレット・サーガの第一章、第二章である前作、前々作は、大作映画の序章を思わせる、重厚かつ眠くなる(笑)アルバムを作り続けてきていたが、第三章の本作はついに本領を発揮し、11曲+ボーナス1曲(日本盤)のうち7曲がコテコテの西洋ファンタジー風シンフォニックメタル。スピードチューンも目白押し。第一章、第二章で不足していたものをこれでもかといわんばかりに披露しまくっている。このアルバムはもしかするとRhapsody
Of Fire随一のデキかもしれない。
このアルバムは、活動休止中だったバンドにとっても、前作で見切りを付けたファンにとっても「復活」を象徴する一枚になるだろう。かくいう私も前作で見切りを付けていたため、本作の購入が発売から1年も遅れてしまった(笑)
クリストファー・リーのナレーションから始まり、分厚いコーラスによる壮大な雰囲気のイントロ曲に続くTr2"Sea
of Fate"は、Rhapsody Of Fireの復活(いろんな意味で)を告げるにふさわしい曲となっている。イントロのギターソロの何拍かわからんリズムや時折出てくる4度間隔の中華風ハモリの他、キーボードソロ、ベースソロ、今まで以上に豪勢になったオーケストラパートなど、聴かせどころ満載。
Tr3"Crystal Moonlight"は、一瞬ソナタ・アークティカと勘違いしそうなキーボードワークやメロディライン、ブレイクの多用や音楽的に面白い曲の展開の仕方など、4分20秒という尺が異常に短く感じられるほど様々なギミックを仕込んで、かなり凝った作りになっている。本アルバムで私が一番好きな曲。
Tr4"Reign of Terror"はおそらく本アルバムのキラーチューン。スラッシュメタルのようなグロウルを使ったかと思えば、いきなり分厚いコーラス隊とパイプオルガンによる荘厳な雰囲気に変わったりと、非常に忙しい。この曲が2曲目に来ないところが、今のRhapsody
Of Fireを象徴しているような気もする。グロウルのせいでちょっとBAL-SAGOTHのようでもある(笑)
Tr5"Danza Di Fuo E Ghiaccio"は2ndアルバムの"Wisdom
of the King"を思わせるような曲だが、ヴォーカル(イタリア語歌詞)やギターソロなどの聴かせどころがあって、面白い曲になっている。
Tr10"Labylinth of Madness"はクラシカルな旋律のギターソロが特徴のインスト曲。この曲とTr11"Sea
of Fate(Orchestral Version)"は、ルカとアレックスによる曲解説を読んだ感じだと隠しエンディング的な曲になっているようである。こういうところがいかにもゲーム的な演出と言える。
気持ちいいくらいベタベタのファンタジックなメロスピ系シンフォニック・メタルだが、エメラルド・サーガの時よりも曲の作りが凝っているのが特徴。かといってSonata
ArcticaやAngra、もしくは彼らの前2作のように変に気難しい曲になったりもしておらず、いいバランスで面白い曲を提供しているように思う。
[2006.10.27 初稿]
6thアルバム。珍しく国内盤に3曲のボーナストラックあり。このアルバムよりバンド名が変更されたが、単なる版権の都合によるもので方向転換などはなし。
新シリーズの第二章となるアルバムで、曲の方向としては前作の作りを継承した形になっている。つまり、エメラルド・ソードシリーズよりも映画的で重厚なつくりになっていて、スローテンポな曲も多い。
いまのところ物語自体に派手なシチュエーションがなく、洞窟で本を探すという地味な展開だからというのもあると思うが、メタルらしいメタルを期待して買うと肩すかしを食らうところはあると思う。
つまり、大作映画を意識した展開重視のつくりで、しかもまだおいしい展開の始まっていない序章なわけで、音楽的にもあんまり盛り上がらないまま終わってしまうというわけ。
このシリーズが完結したときに全体を聴けば意味が出てくるのだろうが、これだけ聴くとちょっとつまらないかなあ、というのが正直な感想ではある。
歌詞も分からず曲だけ聴いていると、さすがに途中でダレてくるので、対訳片手にベタベタで熱いストーリーを追いながら聴くのが正しい鑑賞法だろう。
5thアルバム。このアルバムより、新シリーズ開始である。ざっと読んだ感じ、世界設定などは今までのものを継承しているよう。
基本的には前作までの作りと同じ。ただ、ナレーションにクリストファー・リーを抜擢し、ファンタジー映画のような世界観をさらに増したアルバムになっており、オーケストラの使い方や編曲など、もはや本当に一本の映画を「聴いている」かのような気分にさせてくれる作りになっている。中盤でスローテンポの沈んだ曲が含まれ、通して聴くと眠くなりそうになるあたりまで映画らしい(笑)
もはやここまでくると、「メタル」という言葉に期待されるような音楽でなくなりつつあるような気がする。もちろんHELLOWEENにオーケストラを足して豪勢にしたような、スピード感あふれる曲も収録されているのだが、今回は前作までとは比較にならないほど、ストーリー性やアルバム単位での構成を重視した作りになっている。
表面的には今までと同じ内容のものだが、実際に聴いた感じはかなり異なるだろうと思われる。もしかすると、従来のファンの中には失望してしまう人もいるかもしれない。そういう覚悟もしつつ聴いてみるのがいいだろう。
RHAPSODYの4thアルバム。これにより、ついにエメラルド・ソードシリーズ完結編となる。
曲としては前作"Rain Of A Thousand
Flames"で10分超の曲を2曲も出していたため大作主義に走るかどうか気になっていたところだったが、実際はエンディングとなるTr10"Gargoyles,Angels
Of Darkness"が19分であるだけで、他の曲は5分程度に収まっている。さすがにCD5枚にも渡ってやってきたシリーズなのだから、エンディングが20分なのは必然だろう。
曲としては、ミニ・アルバム"Rain Of
A Thousand Flames"から採用されている、ミュージカルっぽいナレーションが多用されているのが特徴。お得意の民族音楽っぽいイントロから入るTr4"The
March of the Swordmaster"や、やや声を潰し、スラッシュメタルっぽい声を使うTr5"When
Demons Awake"など、今までに比べるとやや芸域が広くなった感じがする。
ラプソディーファンは放っておいても買うだろうからいちいちおすすめはしないが、ラプソディーを聞いたことのない方は、このアルバムか、もはや伝説と化した名曲"EMERALD
SWORD"を含む2ndアルバムをおすすめする。
ミニ・アルバムだが、アルバムの先行ミニとは異なり、全曲このアルバムでしか聴けないものである。ある意味4thアルバムと位置づけてもいい出来。
ナレーションを本格的に導入し、ミュージカルっぽい仕上げにした曲や、ドヴォルザークの「新世界より」をカヴァーした曲など、今までと趣向の異なる曲が出現している。
オーケストラとロックバンドの融合という点は3rdアルバムよりさらに強化されており、どちらが突出することもなく曲を構成しており、そのバランスは絶妙。
短めのアルバムだが、時間は問題にならないくらい充分満足できる内容である。
[2004.2.26改稿]
3rdアルバム。基本路線は2ndを継承しており、オーケストラとメタルバンドを巧みに融合させたストーリー仕立てのアルバムになっている。
2ndから変化したところは、より音がヘヴィになり、力強さが増したところ。もちろんオーケストラの音とのバランスは保ったままである。
4thアルバムの方がヘヴィさから来るうま味自体は深いのだが、3rdならではの味わいは、ナレーションを用いていない純粋(?)なメタルであるという点。下手にごちゃごちゃしたやつより、クラシカルテイストのメロスピを聴きたいという人には一番ぴったり来るアルバムになっているかもしれない。実際、他のクラシカルなメタルバンドの音に最も近い感じなのがこの3rdアルバムである。
これぞオーケストラとヘヴィメタルの融合の結論。RHAPSODYの2ndアルバムである。
このバンドが半端でないのは、生オーケストラ隊をほぼ完璧にロックバンドと融和させているところにある。
これまでのオケを使ったロックは、オケパートとロックバンドパートが分離していたり、オケパートはクラシカルでロックバンドはロックの音を出していることが多く、ただオケの音がロックに使われていることに新鮮味があるだけだった。
しかしこのアルバムでは、全体に中世ヨーロッパの剣と魔法の世界に使われるような、勇ましいクラシカルな雰囲気にしつつ、ギターとヴァイオリンが交互にリフとメロディーを担当したり、ヴォーカルの声を中心にコーラス隊の大合唱がメロディーを歌い上げたりと、見事に共演させることに成功させている。
ゲームに使われてそうな雰囲気の曲でもあるので、ゲーム音楽が好きな方は、サントラでも買うつもりで聴いてみて欲しい。
1stアルバム。このアルバムの時点でRhapsodyの手法はすでに確立されており、ストーリー仕立てのアルバム、オーケストラとメタルバンドの音の融合などは、今のRhapsodyの音と比べてもほぼ遜色ない。
ただ、このアルバムと2nd〜4thまでの他のエメラルド・ソードシリーズには大きな違いが一点だけある。それは、やや複雑な曲の展開である。ぱっと聞いた感じはそれほど差がないかもしれないが、2nd以降に比べると明らかに手の込んだ構成になっている。曲の構成の巧みさ、という点だけ考えると、1stアルバムの方が老成されている感じがするのである。
どこから聞いてもRhapsodyなのに、味わいが全く異なるのが1stの特徴。もしかすると今の(2nd〜4thの)Rhapsodyの音に飽きた人が回帰して、初めて良さがわかってくるアルバムなのかもしれない。
「キーボードの魔術師」の異名を持つ、YESのキーボーディスト。複数の鍵盤楽器を周囲に侍らせて演奏する姿が有名で、この姿に影響されたキーボーディストは数知れない。
もちろん、その複数台のキーボードは見かけだけのパフォーマンスではなく、そのすべてを使いこなし、たった一人でオーケストラ隊に匹敵する厚みのあるサウンドを作り出す。いまでこそシンセサイザーの発達で、珍しくもなくなったシンセによる音を重ねて厚みを出す手法だが、リック・ウェイクマンはアナログシンセの時代に、手弾きでそれを実現してしまっているである。
70枚を越えるアルバムをリリースしており、オーケストラを使った壮大なスケールのロックから、ニューエイジ、ゴスペルなど、様々な音楽を作っている。
また、彼はアルバムとライブで印象の大きく異なるアーティストでもあって、アルバムは(時代的な要素もあって)良い感じに古くさく、派手だけどどこか枯れた、没落貴族を思わせるような音になっていて、ライブ音源では現代的にリファインした音と、速弾きパフォーマンスに特化した演出を重視している。
とりあえずのおすすめは1stアルバム"SIX
WIVES OF HENRY VIII"(ヘンリー8世と6人の妻)。気に入ったなら、初期作品を中心に聴いてみるといいだろう。
ライヴは、特に1990年以降のものはかなり現代的な音とパフォーマンスに振った演奏が見られるが、手持ちでおすすめなのはDVDの"LIVE
1990"。オケ隊もゲストもいない小さなライヴのため、リック・ウェイクマンの華麗なキーボードワークが満喫できるものとなっている。
[2006.7.31 改稿]
リック・ウェイクマンが1990年に行ったライヴ映像を収録したDVD。普通のライヴとは多少趣が異なり、ドラマ用のスタジオを改変して特設されたステージにて収録用に行われた、小規模なライヴの映像になっている。
ステージもメンバーも機材もこざっぱりとして、それぞれの音も比較的はっきりと聞き取れる。収録用だけあって、リック・ウェイクマンのキーボードプレイをはっきりと捉えており、総じてライヴ映像としての品質は高い。
セットリストは初期作品からのものばかり。それも今風の編曲でリファインされ、かつ、手数の多い大仰なキーボードプレイを見せつける演奏になっている。
原曲は確かに素晴らしいのだが、今の音楽に馴れた人にとっては音の厚み等で多少物足りなさを感じる可能性がある。その点を解消した本作は、今からリックを聴く人のための入門作としても最適だろう。
また、原曲ではコーラス隊、オーケストラ隊を用いていた部分が、本作ではすべてキーボードによっての再現となり、よりロックバンドらしい構成になっているのも聴きどころ。本来キーボーディストにとってオーケストラ隊は、自分の出番を減らすだけの邪魔者なのである。
『地底探検』が完全なロック編成で聴ける。それだけでも本作には価値があるのではないだろうか。
リック・ウェイクマンの3rd。「アーサー王と円卓の騎士」をモチーフにしたコンセプトアルバム。オーケストラをバックに、リック・ウェイクマンのアナログシンセとピアノが大活躍する。オーケストラとタメを張るほど音色豊かな、リックのアナログシンセ群が聴きどころ。
どの曲も、それぞれにリックお得意の長〜いシンセソロが含まれており、聴きどころ満載。一曲一曲も短めなので、聴きやすいことだろう。
特に、リックのライヴには必ずと言っていいほど演奏されるTr5"Merlin
The Magician(魔術師マーリン)"の原盤が聴けるのがこのアルバムの一番の特徴。
アナログシンセによって奏でられる魔法の旋律にぜひとも聴き惚れて欲しい。
リック・ウェイクマンの1stソロアルバムにして代表作。イギリスの文学作品をモチーフにしたコンセプトアルバムで、バロック風味のクラシカルな手法とアナログシンセの独特の音色により、貴族的な、荘厳できらびやかな世界を創りだしている。
コーラスや他の楽器も使っているが、主役となるのはリック・ウェイクマンの手弾きアナログシンセの音色。
リック・ウェイクマンと言えば速弾きで有名で、本作収録の曲もライブでは現代的なサウンドに編曲し直し、テンポを上げてむちゃくちゃな速弾きを披露しているのだが、本作ではもっと落ち着いた感じで、音もいい感じに古くさい。王族の物語をモチーフにした本作はリック・ウェイクマンの根幹となるフレーズが満載で、華やかさと泣きのフレーズが見事に融合している。
バッハなどのバロック音楽が好きで、かつロック寄りの嗜好を持つ人にはばっちりツボにはまるだろう。
なお、キーボードマニアの"Henry Henry"はこのアルバムの曲をモチーフとしている。結構そのまんまなフレーズが使われていたりも。
ポーランドの4人編成プログレメタルバンド。
ゆったりとしたテンポと曲調の中にメタルとしての激しさを内包し、グルーヴィなトリップ感を演出しながらも複雑な構成を兼ね備えるという、不思議な感触の音楽。
PINK FLOYDの影響を感じさせるメランコリックな雰囲気の共通性からOPETH、PORCUPINE TREEあたりとよく比較されるが、川の流れのような動的な穏やかさを持つ曲調は独特で、似ているようでいて結構異なったアプローチの音楽となっている。
基本路線を大きく変えることはないが、毎回アルバムごとにちょっとずつ方向性を変えて曲作りをしており、意外と芸域の広いバンドである。また、2ndアルバム、4thアルバムではハモンドオルガン(多分本物ではないとは思うが)を多用しており、ロックオルガン好きなら必聴バンドでもある(笑)
安定して高品質なアルバムをリリースし続けているバンドなので、好きならばどれを買っても損はしないと思うが、Riverside本来の持ち味が強く出ているのは1stアルバム"Out
of myself"。聴きやすいのは4thアルバム"Anno
Domini High Definition"。
[2016.10.28 改稿]
2枚組のインストアルバム。新曲も収録されているが、半分くらいは過去のシングルや特別盤に収録されていた曲の再収録。新曲だけだと約35分となり、CD1枚分となる。
Riversideはわりとよくインスト曲を収録してくるバンドだったのだが、ついにインストだけでアルバムを作ってしまった。その実態は、"Night
Session"、"Day Session"の完全版のような印象で、この2つをメインにしつつ、曲を補完したような感じになっている。
具体的な曲目については以下の通り。
Disc 1
1. Where the River Flows (10:53) 新曲
2. Shine (4:09) 新曲
3. Rapid Eye Movement(2016 mix) (12:40) "Rapid
Eye Movement"特別盤収録曲のリミックス
4. Night Session Part One (10:40) "Shine
of New Generation Slaves"特別盤収録
5. Night Session Part Two (11:35) 同上
Disc 2
1. Sleepwalkers (7:19) 新曲
2. Rainbow Trip(2016 mix) (6:19) EP盤"Schizophrenic
Prayer"収録曲のリミックス
3. Heavenland (4:59) "Love, Fear And
The Time Machine"特別盤収録曲"Day
Session"
4. Return (6:50) 同上
5. Aether (8:43) 同上
6. Machines (3:53) 同上
7. Promise (2:44) 同上
8. Eye of the Soundscape (11:30) 新曲
見ての通り、新曲、"Rapid Eye Movement"のリミックス曲、"Night/Day
Session"という順序で構成されている。この曲順は興味深い。
曲のタイトルもなかなか象徴的で、"Rapid
Eye Movement(レム睡眠)"から"Night
Session"、"Sleepwalker"、"Rainbow
Trip"、"Day Session"という流れは、もともとこの曲順だったかのよう。
リミックス曲となる"Rapid Eye Movement"と"Rainbow
Trip"は、それぞれ"Night Session"、"Day
Session"の導入曲としての役割を担っている。アルバムにおける曲の役割に合わせてか、丸みと奥行きのある音のアレンジになっており、確かに同じ曲なのだが、聞き比べると印象が結構異なる。
なお、"Rainbow Trip"はアルバム"Rapid
Eye Movement"に収録されていた"Rainbow
Box"のインスト版みたいな曲となっている。なので"Rainbow
Trip"を聞いたことがない人でも、この曲のフレーズには聞き覚えがあるだろう。
新曲は4曲とも性格の異なる曲なっており、Disc1収録の2曲はややロック寄りのアプローチが強めで、Disc2はテクノ寄りでサイケデリック色の強い曲となっている。
単に既出のインスト曲を集めて適当に発売したアルバムではなく、かなりよく練られている。半分くらい再収録曲ということに躊躇する人はいるかと思うが、新曲だけでも充分満足できる内容だし、なによりこのアルバムは収録曲の順序が良くできている。通して聞いたとき、既存曲があることは問題ではなく、むしろ効果的ですらある。特に"Rapid
Eye Movement"から"Night Session"の流れは、曲を知っているからこそ味わえる感動があると思う。
今まで特別盤を買い続けていた人こそ、このアルバムは買って損はない。
[2015.9.19 初稿]
6thアルバム。今回も通常盤と限定盤があり、限定盤には前作"Night
Session"の対となると思われる"Day
Session"が収録されている。限定盤を買う以外の選択無し。……通常盤の意味はあるのだろうか。
基本路線は従来通りのゆったりとしたメランコリックな曲調であるものの、ややリフを聞かせる感じの、ロックっぽい要素が強くなっている。前作は70年代要素が強かったが、今作は少し時代が進んで、80年代の、テクノの影響が強かった頃のサウンドに近い。リフの比重が高いのも、その辺から来ているのだろう。
"Anno Domini High Definition"や、前作ほど派手な感じはないものの、だいぶ演奏を聞かせる方向に振っているアルバムだといえる。ロック寄りのときのPorcupine
Treeと似ているが、Porcupine Treeよりは取っつきやすくはある。
メロディで聞かせるタイプではなく、リフの方が重要な曲なので、聞き手を選ぶところはあるが、Riversideのファンがこれをダメということはあまりないように思う。ただし、初期の頃のような東欧らしい曲調はあまりないので、その点は注意。
限定盤の"Day Session"は、5曲構成で30分程度のインスト。前作のようにサックスをフィーチャーしたりなどの印象的な展開はなく、地味な感じはあるものの、テクノとロックの中間くらいのサウンドに浸れる。
[2013.2.5 初稿]
5thアルバム。例によって限定盤と通常盤があり、限定盤は"Night
Session"という20分超の大曲が2パートに分かれて収録されている。基本的に限定盤を買う以外の選択肢はない。
4thアルバムでDream Theaterっぽさを加えて大きく変化したRiversideだったが、本作ではまた雰囲気が変わっていて、4thアルバムのような派手な演奏は少なくなり、代わりに最近プログレ界で流行の70年代ロック風テイストや古くさいテクノのような雰囲気を一部で取り入れている。Tr1"New
Generation"(もともとRiversideはPorcupine
Treeの影響を受けているが、この曲はかなりPorcupine
Treeっぽい)やTr3"Celebrity Touch"、Tr5"Feel
Like Falling"などに顕著。
ラウドな曲とは打って変わって、Tr6"Deprived
(Irretrievably Lost Imagination)"ではサックスがフィーチャーされてジャズっぽい雰囲気の曲で、続くTr7"Escalator
Shrine"では前半にウーリー、中盤からはオルガンサウンドが使われ、70年代プログレっぽい曲に。70年代プログレテイストはもともとRiversideの得意とするところだが、今作のこの曲はもう少し芸域が広まっていて、今まで聴かれた曲とは感触がやや異なる。
ただ、OPETHやPain of Salvationのように大きくやり方を変えているわけではなく、実験的な感触のあるアルバムというわけでもなく、新しい試みをたくさん詰め込みながらも、根本にあるRiversideらしさは変わっていない。また、アルバム全編で完全に曲調を変えているわけではなく、Tr2"The
Depth of Self-Delusion"やTr4"We
Got Used to Us"などは従来のRiversideそのままで、新しいテイストと従来のタイプの曲を織り交ぜたような作りになっている。
毎回バンドメンバーが替わったんじゃないかと思えるほど常に新しいものを取り入れながら、同時に1stの頃から同じスタイルを貫き続けてもいるRiversideは、まさしくバンド名が表すような懐の深さを持つバンドへと成長したと言えるだろう。
限定盤のみ収録の"Night Session"はシンセドラムやシンセグルーヴを中心に組み立てた、ロックというよりはテクノに近い楽曲となっている。
Part Oneはインストでほとんどテクノだが、Part
Twoではエモーショナルなサックスやギター、ヴォーカル(歌詞はないが)が入る。
普段のRiversideとは異なるタイプの音楽なので、限定盤のみに収録する理由はわかるのだが、Riversideのリスナーがこれを聴かない手はないだろう。
[2011.6.30 初稿]
10分前後の新曲3曲が収録されたミニ・アルバム。この3曲は組曲形式になっていて、シームレスに繋がっている。つまりは30分超の曲が1曲収録されていると考えた方がいい。
Dream Theater風のアグレッシブな曲調が特徴的だった前作とは真逆の内容で、かなり重苦しいメランコリック内容。むしろ1stアルバムの時よりもPink
Floydのフォロワー的な印象が強い。
Tr2"Living in the Past"のラストで妙にEL&P風というか植松伸夫風なロータリーオルガンを用いたインストパートがあったり、中東風フレーズが時折挟まれたり、Tr3"Forgotten
Land"の途中で変わったグロウルの使い方をしていたり(アナログ的な振り切らせ方をしてわざと音圧を下げている)と、新たな引き出しもいろいろ見せていて、ミニ・アルバムとは思えないほどの充実ぶり。
Riversideの曲の中では最もプログレらしいアルバムになっており(特に尺の長さ)、聴き手を選ぶ度合いは高くなっているが、これまで付いて来れたリスナーなら多分問題ないだろうと思う。
ぱっと聴いた感じはとりとめがなく地味だが、聴き所は随所にある。
[2009.7.28 初稿]
4thアルバム。CD1枚組の通常版と、DVD同梱の限定版が存在する。DVDの中身は2008年アムステルダムでのライヴ映像。ついにベルアンティークより国内盤が発売されたが、こちらはDVD同梱版のみ。
「川の流れ」を思わせる、途切れることなくどこまでも続いていくような曲調が特徴だったRiversideだが、今作はかなりリズムの切れ味が良くなっており、若干Dream
Theaterっぽい、ヘヴィかつ複雑な要素が混ざった感じになっている。バンドメンバーが大幅に変わったんじゃないかと錯覚するほどの変貌ぶり。
特に楽器演奏が以前より前面に出て、派手で格好いいバッキングやソロサウンドを聴かせてくれるようになった。ライヴを意識したのだろうか、曲の構成を聴かせるだけでなく、ところどころに盛り上がるようなテクニカルな演奏を配置した感じに。
今までとは違った趣のあるアルバムとなっているが、従来のRiversideの持ち味を活かした形での方向転換で、これはこれで良い感じ。3rdアルバムあたりから急速に増えてきた引き出しもうまく使いこなせており、様々な音楽を横断しつつもダレずに10分超の曲を聴かせてくれる。時折、分かる人ならニヤリとするようなフレーズを混ぜるなど、マニアックな遊び心も。
特にTr5"Hybrid Times"は現在の彼らの集大成と言えるだろう。中毒性の高い従来のRiverside色を色濃く出しながら、同時にものすごくアグレッシヴな演奏と構成になっている。これだけメチャクチャやりながら聴かせてくれる曲はそうない。
テクニカルな演奏、様々な音楽をミクスチャした曲を次々と披露し、しかも聴きやすいという贅沢すぎる内容。これはもう文句の付けようがないだろう。
[2009.7.30 追記]
同梱のDVDについて。演目は"Volte-Face"、"I
Turned You Down"、"Reality Dream
III"、"Beyond The Eyelids"、"Conceiving
You"、"Ultimate Trip"、"02
Panic Room"。2ndと3rdから半々くらいの選曲。
安定した演奏で上手いことは上手いのだが、Riversideの曲は派手な展開や技巧見せつけパートがほどんどない上、見せる演出に乏しく、あんまりライヴ映えしないのが正直な感想。何かパフォーマンス的なものを入れないと厳しいかも。聴くにはいいんだけど見るには物足りない(選曲のせいかもしれないが)。
今作の曲で見せ場パートを増やしたのは、この辺の問題を考慮してのことなのかもしれない。
[2010.7.28 改稿]
3rdアルバム。2枚組の初回特別版(?)と、通常版の2種類が出ている。私が買ったのは2枚組の方。通常版は型番がSPV
79612なのでそちらで区別するといいだろう。
特別版では"Behind The Eyelids"、"02
Panic Room(Remix)"、"Rapid Eye
Movement"の3曲が追加されている。追加曲の中で特に注目なのは"Rapid
Eye Movement"。妙なSEを多用したシンセに浮遊感のあるギターソロが絡まる、サイケデリックな12分超のインストとなっている。面白いのは、この曲がシド・バレットの追悼曲であるかのような"Back
To The River"に続いてアルバムの最後を飾るという点。この曲順のセンスは彼ららしい。……しかし、アルバムタイトル曲が特別版でしか聴けないというのはどうなのだろう(笑)
"Rapid Eye Movement"はこのアルバムの中でも出色の出来で、この曲があるかないかでアルバムの評価が変わってしまうくらい重要な曲でもある。特別版が買えるなら、是非そちらを押さえるべきである。通常版を買ってしまった人が特別版を買い直すべきかどうかは悩みどころだが、1stアルバム"Out
Of Myself"が好きな人なら、その価値はある。
アラビア音階っぽい旋律を多用した曲やモダンなカラーの曲、インダストリアルな要素を絡めた曲など、様々なアプローチから曲を作っており、さらに懐の深いバンドへと進化している様が覗える。
また、曲の構成はさらに複雑になり、音もよりへヴィネスになっている。1stの頃に比べると相当重厚感が増しているのだが、それでいて彼ら独特の流れるような気怠い展開は失われておらず、その重さが聴く側への負担にならない。
メロディのキャッチーさ、中毒性から言えば1stアルバムの楽曲群に勝るような曲はないものの、作曲、編曲部分の完成度はこの3rdで急速に高まっている。これほど重い展開と音を詰め込み、かつRiversideらしい「流れ」を失わない技術力と力強さは驚異。
センスはあるものの、どこか頼りない印象のあった1stの頃とは比較にならない、盤石な地力の高さを見せつけられた感じがした。
1st、2ndのような「わかりやすい良さ」という点では多少減退している面もあるので物足りなさを感じる人もあるかもしれない。だが、決して失望するような内容ではないだろう。仮にこのアルバムに満足できなくても、次が待ち遠しくなるようなデキである。
[2006.6.21 初稿]
新曲5曲にライヴ音源3曲、パソコンで再生できるオマケが収録された、おそらくミニ・アルバムという位置づけのもの。タイトルの"Voices
in my head"が1stアルバム収録曲の"Out
of myself"の歌詞の一部ということからしても、正式な3rdアルバムではなさそうな感じがする。
新曲の方のデキは申し分なし。スローテンポで気怠くも緊張感の漂う曲作りは相変わらず。
おとなしめの曲が多く、特にTr2"Acronym
Love"などはぱっと聴いた感じではいかにも普通のバラードな楽曲なのだが、当然ながら彼らの楽曲だけあって、相当に複雑な構成をしており、独特の重厚感と緊張感を漂わせたものに仕上がっている。
そのほか、当然の如く7分クラスの長編曲Tr3"Dna
ts. Rednum of F. Raf"も収録されている。ブレイクビーツや怪しいエフェクトを多用した、このバンドの曲の中では珍しいアプローチのもの。重苦しい悪夢のような曲になっており、全く曲の成り立ちは異なるものの、やはりOPETHを彷彿とさせるものがある。
ライヴ音源はすべて1stアルバムの曲から。プログレバンドらしくスタジオ音源をほぼ忠実に再現したものになっている。まったく危なげない演奏が、このバンドの技術の高さを証明している。
パソコンデータの方には、"Acronym Love"のPVが収録されている。今のところこれでしか彼らの演奏を観ることはできないので貴重な映像。
ミニ・アルバムとはいえ、まったく隙のないデキの曲で、Riversideが好きなら買って損はない。
2ndアルバム。グルーヴを重視したサイケデリックな曲調は健在だが、今作ではところどころ演奏にアグレッシヴさが感じられ、単に気怠いだけでなく、メリハリの効いた構成へと変化している。
前作は堅牢な出来のアルバムではあるのだが、最初から最後まで同じ調子の曲が並ぶため、多少ダレる側面もあった。しかし、今作ではその辺の欠点が払拭されている。
前作のように激しく淡々と流れ続けるナンバーを残しつつも、Tr5"Artifical
Smile"のような、デスヴォイスとキメを多用し、リズムの強調された激しいナンバーなども織り交ぜ、より芸域が広がっている。
個人的には桜庭統あたりを彷彿とさせるオルガンプレイがツボ。Tr2"Volte-Face"の前半インスト部や、このアルバム唯一のインスト曲であるTr7"Reality
Dream III"の終盤で聴けるプレイは、ロータリーオルガンの音が大好きな人にはたまらない。
前作はいいアルバムだったのだが、さすがにあの曲調ひとつだけでは長続きしないよなと、ちょっとこのバンドの行く先に不安を感じる面もあった。
しかし、今回で多彩な味付けの曲が作れることが判明し、その不安は取り除かれたと言える。国内盤が出るのもそう遠くないかもしれない。
[2009.7.30 改稿]
1stアルバム。延々続くリフ、白玉弾きストリングス系シンセサウンドがサイケデリックな雰囲気を漂わせつつ、同時にソリッドなリズムとギターバッキングが刻まれ、気怠くも刺激的な楽曲となっている。
その音楽性は、まさしくバンド名が指すとおり「川の流れ」を彷彿とさせる。果てしなく続くかのようなグルーヴ感を持ちながら同時に複雑な展開を持ち、見た目は穏やかでも、実際は全てを押し流してしまうほどの流れを持つ大河のような力強さを秘めた楽曲群となっている。
特にTr3"i believe"やTr5"loose
heart"など、比較的単純そうな曲でその特徴は顕著で、普通なら退屈になりがちなこの手の曲が、なぜか妙に聴き手の心をざわつかせるというか、浸り系っぽいくせにむしろ意識を覚醒させる方向に持っていこうとする妙な感触がある。この感触はRiverside独特のもので、比肩する者を知らない。
際立って何かがすごいというわけではないのだが、アルバム通して静かに激しく流れ続ける音の洪水は圧倒的。中毒性の高いサウンドである。
スローテンポな曲が苦手な方でも結構聴けるはずなので、ぜひとも多くの人に聴いてもらいたいアルバムである。
ロイヤルハントのベストアルバム。ベストアルバムだけあって捨て曲はない。
ロイヤルハントはヘヴィメタルにしては珍しくキーボードがかなりのウェイトを占めるバンドであり、曲に厚みがあり、メロディーは美しい。聞いた話だとキーボーディストが曲を書いているそうである。
どの曲も美しいコーラスやキャッチーなメロディラインで構成され、似た雰囲気の曲が多いのに、なぜか飽きない。むしろ異常に耳に残るメロディーラインにだんだん洗脳されて、気が付くと口ずさんでいる始末である(笑)
曲は素直でメロディアス、いい意味でかなりゲームミュージックに近い部類の音楽になっている。
キーボードが好きな人は間違いなく買いである。あとはゲームミュージック好き、シンフォニック系ロック好きにもおすすめ。
ハンガリーのシンフォニック・プログレバンド。キーボーディストを中心に、管弦楽団を抱える特殊なバンド編成をしている。クレジットされているバンドメンバーの姓が同じなのだが、家族なのか、ウケ狙いなのかは不明。
明らかにキース・エマーソンやリック・ウェイクマンあたりから影響を受けためちゃ弾きキーボーディストを中心に据えながら、同時にキースやリックが為し得なかった高いレベルで管弦楽器を曲の中に融合させている(これは、バンドメンバーとして楽団を抱えている強みだろう)。
クラシックとロックとジャズを横断する無節操なサウンドでありながら、その完成度は高く、上品さすら漂わせている。
キーボーディスト好きなら必聴バンド。EL&Pやリック・ウェイクマンが好きな人も。また、ロックとは思えないくらい上品なので、クラシック畑の人でも楽しめるのではないだろうか。
[2006.9.3 初稿]
2ndアルバム。「裸の王様」をテーマにしたトラック1の表題曲を含む9曲収録。
基本路線は前作と同じであるものの、前作では「スパルタクス」をテーマにしていただけあって勇壮な曲が多かったのに対し、今作では落ち着いた感じの曲が増えている。ヴォーカル(コーラス)も控えめで、インストに力を入れている。
ただし、構成そのものは決しておとなしくなく、むしろ複雑でテクニカル。曲としては今作の方が熟成されており、プログレファンなら大満足のデキだろうと思われる。特に後半の曲の緊張感は必聴もの。加えて、もちろんキーボーディストのメチャ弾きは健在で、今作でもTr6"Big
Run"のように、8分でずっぱりでキーボードが弾きまくった曲がある。
今作での特に新しい試みはTr8"The King"で見せるジャジーな演奏。クラシック、ジャズ、ロックを横断した無節操でノリのいいこの曲は、このアルバムの中でも白眉の存在。帯にガーシュウィンの名が書かれていたが、確かにあれに似た感じを持っている。
今作も、弾きまくりキーボード大好きな人、クラシカルなロックが好きな人は買って損なし。隙のない安定したアルバムである。
[2009.1.24 改稿]
1stアルバム。タイトルの通り、帝政ローマ時代の「スパルタクスの反乱」をテーマにしたコンセプトアルバム。
キーボーディストを中心に、ドラム兼ベース、フルート、ヴァイオリン、チェロ、フルート、オーボエ、トロンボーン。ゲストとしてギタリストを加えた、ロックとしては変則的な編成のバンドによる作品。
曲は一口で言えばクラシカルなプログレ。それも、ギターが一曲しか参加していないこともあり、音としてはリック・ウェイクマンやEL&Pのような、70年代のギターなしプログレを感じさせるもの。しかし、主要な管弦楽器が一通り揃っているバンドは珍しく、その感触は独特である。楽器構成が近いこともあって、RPGのBGMに近い雰囲気もある。
管弦楽器がクラシカルな音でその場を支配してしまいそうになっているのをキーボードが手数でぎりぎり押さえて主導権を握っている、という感じで、結果、基本は確かにロックなのだが、変にクラシックっぽくもある奇妙な曲になっている。若干ジャズ寄りのアプローチも見え隠れするが、キング・クリムゾンのようなフリージャズ系ではなく、もっと古典的で陽気なもの。
キーボーディストのメチャ弾きは相当なもので、管弦楽器やコーラスの音も厚いのだが、全体の音はマイルド。しかしオペラ調で無駄に壮大でメロディアスでドラマティックな展開は情熱的で熱い。古典的、正統派なクラシックとロックの混血曲でありながら、何とも言えない独特の上品な雰囲気を醸し出したアルバムになっている。
弾きまくりキーボーディスト大活躍な曲が好きや人はもちろん、クラシカルなロックが好きな人なら聴いて損のないアルバムだろう。
ちなみに最後のTr12"America"はミュージカル"West
Side Story"よりのアレンジ。"America"はキース・エマーソンが所属していたThe
Niceもアレンジしているので、それを受けての選曲と思われる。これ単体だけ取り上げても、このバンド編成でしかできない特性を生かしたものすごい完成度なのだが、嘘くさい歓声が入っているのがどこか笑える。
ANGRAを脱退したANDRE MATOSが、新たに立ち上げたバンド。
1stアルバムは民族音楽調のシンフォニックな色の強い作品を出し、2ndでは一転してシンフォニック色を抑えたヘヴィネスな音楽へと変貌。実験場のような様相で方向がよく見えないバンドであった。
2006年、アンドレ・マトスはまたもや自ら創設したバンドを脱退して"ANDRE
MATOS"を結成。残ったメンバーは3rdアルバムを出して活動中。
なお、フィンランドに同名のバンドが存在することが発覚し、2005年にバンド名が"SHAAMAN"に変更された。が、後にフィンランドのバンドが"Korpiklaani"と名前を変えたので、再び"SHAMAN"に戻っている。本項とは関係ないが、Korpiklaaniはバイキング色丸出しの面白い曲をやっているので、一度はチェックしてみて欲しい。せっかくの縁なので(笑)
2ndアルバム。基本的な路線は"RITUAL"と同じく、じっくり聴かせるメタル。
ただ、前作にあったようなクワイア、オーケストラ隊をふんだんに用いた曲は消滅し、代わりによりヘヴィネスになり、メタルの文法に忠実な方向に振ってある。
Tr1"turn away"の出だしが妙にスラッシュ系なのでどこかへ行ってしまったかと思ったら、実際のところは前作とそう大きな変化はない。ヘヴィなギターリフにピアノやストリングスを効果的に使った、じっくり聞かせるタイプのメタルに仕上がっている。
一発で聴き手を惹き付けるような曲が少ないのが難点だが、悪い出来ではなく、曲調もアンドレ・マトスらしいものになっている。
ただ、1曲目にスラッシュ&ゴシック系の曲が入り、3曲目にSister
Of Mercyのカヴァー曲が入ることで大きな方向転換をしたように勘違いさせ、さらにスピード感のある曲がTr8"iron
soul"、Tr9"trail of tears"と後半に固められ、中盤重い曲がずっと続いてダレてしまうアルバムの構造には問題がある。
実際は"RITUAL"の曲と交互に聴いたりしてみれば、わりと違和感がなかったりするのである。
個人的には前作の"Fairy Tale"のような曲がないのがとっても不満だが、曲そのものはそう悪くはない。
前作が好きで今作がイマイチだった人は、曲順を変えるか単体で聴くか、"RITUAL"の曲と混ぜて聴いてみるのがおすすめ。たぶんたいがいの人は第一印象よりは格段にいい曲だと思えるはず。
1stアルバム。4人のバンドメンバーの内3人が元ANGRAでありながら、ブラジル音楽に特化せず、西洋クラシックを基盤に様々な音楽を雑多に混ぜた音楽性のため、ほとんどANGRAとの接点を感じさせない曲となっている。
ピアノやフルートなどの様々な楽器が使われることによって音が厚くなっており、展開も複雑かつ大仰。曲ごとに様々な地方の音楽が盛り込まれ、それでいてアルバムとしてバラバラな印象を与えないように煮込まれている。
かなり丁寧に作られたことがわかる曲構成は、どの曲も完成度が高く、映画でも観ているかのようなドラマティックな迫力を醸しだしている。曲は6分のものが多く、比較的長めでありながら、大作には走らないぎりぎりの微妙な線を貫いている。それでいながら大作主義のアルバムを聴いた後のような充実感と疲労感を感じさせるの、重厚な音楽が揃っているアルバムである。
ただし、Tr10"Pride"は他の曲と打って変わって単純疾走メタルとなっており、シリアス続きのアルバムの口直しの意味合いがあるらしいが、私は蛇足のように感じた。
Tr4"For Tomorrow"、Tr7"Faily
Tale"は、前者はフォークソング、後者は宗教音楽の手法を取り混ぜたスローテンポで6分の曲だが、10〜20分の大作を聴いているかのような濃厚で充実した曲となっている。
スローテンポでじっくりとした展開の曲が多いため、ヘヴィメタルに爽快感を求めているリスナーにはちょっと理解しがたい部分があるかもしれないが、メロディは耳に残る印象深いものであり、構成も見事で、良質なアルバムであることには間違いない。ドラマティックで重い曲好きには特におすすめ。
2ndアルバム。北欧のバンドで、SONATA ARCTICAの現keyが所属しているという触れ込みから、どうせ名ばかりのプログレメタルだろうと全く期待してなかったのだが、ドリームシアター系の複雑めの展開と北欧系メロディがうまく融合して、聴きやすくてキャッチーという良好なバランスのアルバムになっている。
さすがに新鮮味はないが、プログレ特有のダークで怪しげな展開に北欧メロディの寒々しい旋律はなかなかマッチしている。面白いのは、キーボードが一部にオルガンサウンドを使っていて、昔懐かしいプログレ風味(もしくは日本のスリーピースプログレバンド)を彷彿とさせる音になっていることである。
北欧系メロディ以外の特徴としては、プログレメタルにしてはスピード感のある曲が多く、音のダークさの割にはあまりじっとりとしていない点。これは好みが分かれるところかもしれないが、猫の目のようにめまぐるしく展開するタイプではないのにスピード速めというプログレメタルは少ないので、貴重かもしれない。
MANIGANCE系統の曲が好きな方、展開の凝ったメタルが聴きたい方あたりにおすすめ。
女性ヴォーカリストKimberly Gossの率いるメロディアスなヘヴィメタルバンド。
1stのときはChildren Of BodomのAlexi Laiho(g)とIn FlamesのJesper Stromblad(g)がツインギターでやっていたということで有名。現在、イェスパーは脱退しており、キンバリーとアレキシのバンドという形で落ち着いているようである。
希少価値の高い女性ヴォーカリストに有名なバンドマン目白押しという、話題性で注目されがちなバンドだが、楽曲の方もかなりいい出来。
キンバリーは、1stでこそ透き通るような声を披露していたが、2nd以降はあんまり女性ヴォーカルと感じさせないラフな唄い方に変化し、ヘヴィメタルとして違和感のない仕上がりになっている。
3rdアルバム。2ndアルバムに続き、TO/DIE/FORのTonmi Lillman(ds)が参加している。
日本盤ボーナストラックがIRON MAIDENの"NUMBER
OF THE BEAST"ということにも暗示されているように、曲は意外とChildren
Of BodomっぽくもTO/DIE/FORっぽくもなく、正統派なヘヴィメタルの北欧アレンジという感じである。
涼格はIRON MAIDENなどの音楽は好んで聴かないのだが、特にアレキシのプレイが曲に華を添えていることもあって、意外と飽きずに聴くことができた。
面白いのはTr8"Shadow Island"で、物語仕立てになっているらしく、アレキシが要所要所で悪役(?)として登場し、デス声を披露している(笑)
80年代頃の正統派メタル好きが好みそうな音楽性かな? と思うが、北欧メタルらしいメロディアスな面も持ち合わせているので、好印象を受けるファン層は広いのかもしれない。
Children Of Bodomの時とはまた違った魅力のある、アレキシのバッキングは絶品なので、これのためだけにでも買っても損はないだろう。
デビュー当初は速くて絶叫しまくりのメロデスだったのだが、3rdアルバムからはノーマル声を絡めたメロディ重視の方向へと変化。デスファンからは「なんじゃこりゃ」とたぶん思われただろうが、勢いだけでやっていた2nd以前に比べると曲の構成は相当巧くなっており、ちょっと聴いただけでも印象に残るものへと変貌した。
おすすめは4thアルバム"NATURAL BORN
CHAOS"。スラッシュデスメタルだった頃のSOILWORKも悪くはないので、そちらを聴きたい方は2nd"the
chainheart machine"。
4thアルバム。前作より試みられた、クリーンヴォイスの多用、キーボードワークによる広がりのある空間の構成にさらに磨きをかけている。
普通の声を使うメロデスバンドといえばIN FLAMESやOPETHなどいくつか存在するが、SOILWORKが特徴的なのは、クリーンパートでも曲のテンポや激しさをほとんど変えないこと。主にサビに相当する部分で印象的なメロディラインと共に使われている。
楽曲の構成はどれも見事で、速弾きなどの技術や勢いなどで適当にごまかしたりしていない。デスパートとクリーンヴォイスパートもうまく整合性を取っており、違和感なく使い分けることに成功している。
かつ、メロデスとしての迫力、メロディラインのキャッチー性などもしっかりと保持しており、このメロデス飽和状態のご時世でも、聴けば一発でいい曲だと直感できるだけのものがある。
とりあえず買って損はないだろう。
フィンランドのメロスピ/シンフォニック・メタルバンド。
初期の頃はSTRATOVARIUSに似た感じの北欧メロスピバンドだったが、3rdアルバムからシンフォニック・メタルとしての傾向が強くなる。
1st、2ndアルバムはシンプルなスピードチューンをウリにしていたのに対し、4thアルバム以降は凝ったアンサンブルや構成をウリにした渋い路線に走っており、1st〜3rdと4th以降は別物と考えた方がいい。
4thアルバムでHenrik Klingenberg(key)が加入し、素晴らしいキーボードバッキングが聴けるようになったため、キーボード好きにとっては結構おいしいバンドになった。
[2009.9.16 初稿]
6thアルバム。2枚組で、2枚目はヨーロッパツアーのライヴ音源集。
"Everything Fades to Gray"のマイナスワントラックから始まり、8分近い尺の複雑なシンフォニック・メタルであるTr2"Deathaura"に繋ぐという、大胆な構成のアルバムとなっている。
基本的な路線は5thアルバムと同じで、複雑な展開と渋いバッキングで聴かせるタイプ。ただし今作はシンフォニック・メタル的な要素が増している。
曲の複雑さも増しており、かなり通好みするというか、聴き手を選ぶきらいのあるアルバムではあると思う。楽曲としての聴き所は随所にあるが、ストレートに理屈なく「いい」と思える感じではない。真剣に聞き込んで、初めて良さが分かる曲ばかりなので、聴いていると結構疲れる。もう少しキャッチーさと折り合いを付けた方がいいような気も。
ボーナストラックのTr13"Nothing More"、Tr14"In
My Eyes You're A Giant"はシンフォニック要素のない通常のソナタテイストで、聴きやすい曲だった。
良い曲とは思うのだが、前作とはまた別の形でとっつきの悪いアルバムであることは否めない。少なくとも"UNIA"がダメだった人は避けた方がいいだろう。
[2007.6.8 改稿]
5thアルバム。前作の路線を継承し、ストレートなメロディラインでひたすら疾走する曲はなくなり、複雑めの展開とバッキングで聴かせるものになっている。
アルバムの構成に多少問題があって、目玉となる曲が全て中盤に集中しており、序盤の数曲には展開の煮え切らない曲が多い。その印象に引きずられて通して聴いてしまうと、どうにも駄作としか思えない可能性がある。
実際、私はTr2"Paid in Full"やTr3"For
The Sake Of Revenge"を聴いていて「なんでわざと気持ちいい展開を避けて、つまらない曲にしてしまっているんだろう?」とイライラしてしまい、その後の曲の正確な評価が下せなかった。
しかし、中盤以降の曲は、4thアルバムから熟成されてきた構成の巧みさに加え、これまでのソナタの曲では軽視されがちだったインストパートが効果的に用いられ、かなり聴けるものになっている。
キーボードやギターのソロパートも、単なる早弾き合戦一辺倒やヴォーカルの華添えではなく、曲の骨格部分に貢献し、自己主張したものになっている。むしろヴォーカルパートよりもバッキングの方が魅力的という、以前の「ヴォーカル中心主義」的な曲とは逆転した感じに。
個人的には前作の"Don't Say A Word"を彷彿させる展開にキーボードワークがヴォーカルを食うほどに活躍するTr6"Caleb"、クラシカル色の強いキーボードパートが主役で思い切った展開が気持ちいいTr8"My
Dream's But A Drop Of Fuel A Nightmare"あたりがお気に入りだが、比較的素直に盛り上がる展開のTr7"THE
VICE"や、かつてのソナタらしさを色濃く残すTr9"THE
HARVEST"など、一般受けしやすそうな曲も全て中盤。この辺の曲が3曲目あたりに来れば、アルバムそのものの印象もずいぶん違ったものになったろうと思う。
もはやメロスピとは呼べないアルバムになっているので、そっちでの期待はしない方がいい。また、哀愁メロディラインのヴォーカルが全てだった以前のソナタでもなくなっている。しかし、4thアルバムが好きなら問題なく聴けるだろうと思う。あとは、キーボーディストが頭張ってるんじゃないかと勘違いするほどキーボードの比重が大きいので、キーボード好きにも。
ただ、序盤の数曲のデキは良くないと私は思うので、つまらないと感じたら、無理して聴かないで飛ばしてしまった方がいいだろう。
なお、国内盤のボーナストラックとして収録されているTr15"My
Dream's But A Drop Of Fuel A Nightmare(Instrumental
Version)"は、なんだかヴォーカルが入ってるバージョンよりいいような気がする。いっそインストバンドになったりしないだろうか(笑)
[追記]
ちなみに、Tr2"Paid in Full"やTr3"For
The Sake Of Revenge"が全く悪い曲、というわけではない。単体で聞けば、それはそれなりの曲なのだが、こういう一般受けの悪い曲を並べてアルバムの頭に入れるのは曲順として問題なのである。
4thアルバム。基本路線としてはそんなに変化はないのだが、キーボーディストが変わったおかげか、意味のない速弾きが少なくなり、ただ単に派手でキラキラした音から、ちゃんと曲の展開を支える、地味だが印象的なバッキングへと変化。曲の展開も今までになくちゃんとメリハリの効いたものになっており、私がソナタに抱いていた不満点をすべて解消したアルバムになっていた。ついでにコーラスの使い方も巧みになっている。
特にキーボーディストが渋い演奏をするようになったのは、キーボード好きの私にとってはとても重要なことで、Tr2のイントロ、もしくはTr8などに挿入されている白玉オルガンは、単なる高速アルペジオなんかよりよっぽどシビレるバッキングなのである(笑)
オープニング曲のスピードチューンTr1"Misplaced"ひとつとっても、いつものソナタに見えて内容が全く異なる。中盤(2:40あたり)でピアノソロを入れてメリハリを付けたり、"The
values I should keep in〜"のくだりのゾクゾクする半音上がりのメロディラインをピンポイントで使ってくるようなバンドではなかったはずである。
ミドル〜スローテンポの曲も、構成がうまくなった分かなり聴けるものになっており、それに華添えするキーボード&ピアノワークのフォローも見事。
特にTr5"Don't Say A Word"などは、いままでのソナタでは絶対に出せなかったカラーだろう。スピード感あるメタルから一転してじっくりとした展開に変化するのだが、この複雑な展開を違和感なく繋げており、しかもソロへの入り方もきわめて自然。なによりこれだけいろいろ詰め込んでいながら、5分50秒程度でまとめてしまうところがすごい。コーラスやナレーションの使い方も凝っていて、本当に作曲が巧くなったと思わせる一曲である。
少なくともこのアルバムで、単なるストラトヴァリウスの後釜バンドという印象は、私の中では吹っ飛んだ。いままでソナタを馬鹿にしていたネオ・クラシカル好きは、一度聴いてみてはいかがだろうか? 毎回失望しながらもアルバムを買い続けてきた甲斐があったというものである。
2ndアルバム。ハロウィンにストラトヴァリウス的速弾き&シンセワークを乗せた感じの曲が多数を占める。
部分部分のメロディラインや編曲、演奏技術的な面では文句の付けようのないのだが、スピードチューンは曲の展開が妙に単調で、速弾きパートの挿入の仕方に必要性を感じず、いまいちしっくりこないなど、どうにも「惜しい」という印象のあるアルバムである。
逆にTr7"Last Drop Falls"などはスローテンポの長編曲で、いろいろ凝った構成になっているのだが、いまいち「はっ」とさせるような展開がなく、ちょっとつまらない感じ。
北欧系メロディはもはや珍しくなく、そのなかではうまい部類に入るとはいえ、あまり個性的な音楽に感じるものでなかったことも、私がソナタ・アークティカをあまり高く評価していない理由の一つである。
唯一正真正銘にいい曲で、かつソナタ・アークティカ独特の曲だと思えたのは、Tr5"Black
Sheep"。スピードチューンで三拍子と四拍子を織り交ぜ、ソナタお得意のしつこいくらいの繰り返しメロディを使い、かつ、3分40秒程度であっと言う間に終わるという潔さはまさしく、このバンドでないと作れないカラーだろう。
Tr8"San Sebastian"は単調な割にちょっと長すぎで、シンセソロの入れ方が唐突すぎでちょっと。
北欧メロディが好きで、ハロウィン、ストラトヴァリウスが好きなら、まず買っても損はないはずのアルバム。個人的には"Black
Sheep"一曲のために買ってもいいと思うが、全体としてはそんなに高く評価してないのも事実である。
1stアルバム。キラキラしたキーボードと北欧哀愁系メロディを織り込んだ、ハロウィン/ストラトヴァリウスっぽいスピードチューン目白押しのアルバムになっている。ちなみに個人的にはX(JAPAN)に近い雰囲気のアルバムだと思った。2nd以降ではそんな感じはしないのだが。
メロディラインやシンセ、ギターワークなどはかなり日本人受けが良さそうな展開で、ベタベタではあるもののそれ自体は悪くない。しかしメロディアスなくせに、後でどんな曲だったか思い出そうとしてもちっとも思い浮かばないという不思議な音楽でもある。
キーボードもイェンスっぽい早弾きなどをみせてくれたりするのだが、音の選択がちょっと安っぽい感じなのがちょっと残念なところ。いくらなんでも、もう少し厚めの音を使ってもいいような気がする。
耳に心地はいいけれども、それ以上ではない。それが私のこのアルバムに対する評価である。
ただ、このアルバムの中で奇跡的に完成度の高い曲だと思うのが、Tr6"Fullmoon"。
ベタと言えばベタな曲ではあるが、ピアノソロのイントロでスローテンポ曲と思わせておいて哀愁疾走系(ミドルテンポ)にうまく繋げられるバンドは、実際にはそうそうない。また、このくらいのバランスがソナタ・アークティカというバンドに最も合致していると私は思う。
ソナタの音は疾走感がないとダレるし、かといって疾走チューンをやるとパワー不足(漢らしさ不足?)を感じる。印象的なメロディを繰り返しながら、哀愁メロディで綺麗に疾走するのがソナタのスタイルに一番合っているのではないかと。
ちなみに"Fullmoon"は、このアルバムで唯一メロディが印象に残った曲でもある。
"Fullmoon"一曲のために買っても損はないと思うのだが、あんまり積極的には勧めたくないアルバムでもある。
2nd、3rdアルバムが好きならまず買って損はないはず。あとはX(JAPAN)が好きな方なら、たぶんこのアルバムが好きになる可能性は高めだと思う。ただし、X(JAPAN)が「一番」好きな方はダメと思う(笑)
[2012.12.15 初稿]
4thアルバム。前作までの複雑さが影を潜め、一聴してプログレとは思えないほどヘヴィでモダンなメタルになっている。普通のメタルバンドとして聞けるくらい分かりやすい。
Dream Theaterの影響は存分に感じられて、一聴すれば"Train
Of Thought"的な要素を嗅ぎ取ると思うが、それもDream
Theaterそのものというよりは、ルーツのひとつである80年代メタルに通じる音楽性との繋がりのほうが強い印象を受ける。
また、同卿フランスのプログレメタルバンドVenturiaを思わせるTr4"Never
Heal"といった曲も。ちょっとフレーズや展開がところどころ"Running
blind"に似過ぎか(笑)
かなりメタル寄りのアルバムになってしまっているが、彼ららしい透明感のあるフレーズも折々聴かれる。
おそらくこのアルバムに収録されている曲は、彼らのファンが望んでいた形のものではないはずである。いままでの彼らの曲は繊細かつ複雑で、ここまでヘヴィで素直な感じではなかった。
しかし案外、これはこれで受け入れられそうな気もする。表面的な曲調はがらりと変わったものの、根っこにある繊細さはこのアルバムの曲にもちゃんと反映されていて、良さが失われた感じは全然しない。
フランスのプログレメタルバンド、Spheric
Universe Experienceの3rdアルバム。
Liquid Tension Experimentっぽいバンド名からしてもDream
Theaterの影響を受けているのは確かだが、Dream
Theaterのようにゴリゴリしたリズムではなく、ダークで憂鬱な曲調やテクニカルなキメを使いながらもギスギスした感じもなく、あくまで流れるように進行する旋律が印象的。それにプラスしてクラシックなピアノソロが入ったり、サイケデリックなシンセワークが入るのが特徴。
極端にテクニックに走ったり、変な試みをしたりといったところはなく、つまり楽曲としては非常に完成度が高いのだが、あまりに流麗すぎて下手をすると印象に残らないという問題も若干ある。よく聞き込むと、いろいろなバックグラウンドを覗わせて面白いのだが、忙しいときに聴くと聞き流してしまいがち。
アルバムの中で特に完成度が高いのはTr4"3rd
Type"。ぱっと聴くとTVドラマのエンディングにでも使われそうなおしゃれでポップなロックなのに、意外と起伏に富んだ展開になっていて聴き所がたくさんある曲となっている。ところどころいろんなプログレバンドを想起させるフレーズがちりばめられていて、そういう意味でも面白い。
とりあえずは"3rd Type"のためだけに買っても惜しくはないアルバム。聞き流せてしまうほどの軽さがあるため、ぱっと聴くだけだと印象に残らないが、よく聞くと面白味が出てくるので、そういう付き合い方のできるプログレ好きなら。
1stアルバム。EL&Pを彷彿させるようなリフ、偏執的に入りまくる変拍子に転調と、相当変態的な音楽にもかかわらず、曲は妙に耳に残るという変な音楽。
演奏技術と音楽理論技術で圧倒するタイプのこの手の曲は、たいがいそのテクニックのヤバさは強烈に印象に残る代わりに、曲そのものはあまりにも複雑で覚えることができないものがほとんどなのだが、SPIRAL
ARCHITECTの場合、その辺も相当練り込まれているようで、一回聴くと耳に残る。
技術面と音楽面がここまでうまくバランスを保つのは奇跡的で、もしかしたら彼ら自身も、今後これだけの曲を書くことはできないかもしれない、というぐらいの代物である。実際、スパイラルアーキテクトの先輩格のバンドは、1枚〜3枚ほどアルバムをリリースしてすぐに解散している例が多い。
彼らにはこれからの活動も是非にがんばって欲しいが、それはともかくこのアルバムはそういう意味でもおすすめ。
[2012.9.4 初稿]
Porcupine TreeのSteven WilsonとOPETHのMikael Akerfeldtによるユニットバンド。
限定盤は高音質で楽曲を収録したBlue-Ray付き。日本盤はボーナストラックとしてデモ音源2曲収録とのこと。私が買ったのは海外の通常盤なのでどちらも付いていない。
もともと、OPETHのプロデュースをSteven Wilsonがしたり、Porcupine
Treeの演奏にMikael Akerfeldtが参加したりと、関わりの深い二人。その彼らが共作するというだけで無駄に期待が高まり、求められるハードルも高くなってしまうわけだが、多くの人にとって、このアルバムのデキは予想外の形で期待を上回るだろう。
もともとOPETHもPorcupine Treeも、様々な音楽をミクスチャしながら自分達のカラーに引き寄せていく曲作りが得意なバンドだが、今回の場合、もともとミクスチャのうまい二人が、ミクスチャの対象となる本人の監修の元で曲を作っているわけだから、それはもうものすごいことになっているわけである。お互いがオマージュし合った結果、とんでもないものができあがってしまったらしい。
曲としては、Porcupine TreeとOPETHの、メタル的だったりロック的だったりしない部分の要素を掛け合わせたものとなっている。Porcupine
TreeのとりとめのなさにOPETHの暗く緊張感のあるサウンドが混ざった感じ。それプラス、全体的にどことなくオリエンタルなサウンドが混ざっている。
激しい部分がないので聴いているとダレそうなものだが、OPETH由来のダークな緊張感や怪しいオリエンタルサウンドがそれをうまく緩和しており、この手の曲にしてはかなり聴きやすいものになっている。
両バンドのリスナーなら、聞けば一発でどこがPorcupine
TreeでどこがOPETHかはわかるくらいに特色は出ているのだが、その割には、本家のPorcupine
TreeともOPETHとも異なる楽曲になっている。このアルバムだけを聴いていると、どちらのバンドのアルバムに収録されていても違和感がないように聞こえるのだが、実際聴き比べると全然違ったりする。
OPETHのメタル色はもとより、もともとおとなしめのPorcupine
Treeよりも激しい要素のないアルバムなので(両者の「静」の部分を融合して作られた作品なので)、そういう方向で期待する人はパスした方がいいかもしれない。長大な憂鬱プログレサウンドが好きな人なら必聴。
ネット上でTr1"Drag Ropes"のPVが公開されているようなので、これを聴いて気に入るかどうかで判断するといいだろう。
[2015.5.30 初稿]
Disarmonia Mundiのメンバー、Ettore Rigotti(ds,vo,g)、Claudio Ravinale(vo)に、Elliot Sloan(g,b)、Alessio NeroArgento(key)が加わって結成されたバンド。
Disarmonia Mundiが名前を変えたのかと思いきや、こっちはこっちで2015年に新アルバムをリリースしているので、別プロジェクトという位置付けらしい。結局エットレ・リゴッティは複数パートを担当しており、専属ベーシストもいないので、このままではライブができないメンバー構成ではある。
基本的にはDisrmonia Mundiと似たようなサウンドなのだが、Disrmonia MundiがSoilworkっぽいのに対して、こちらはもっとメロディアスでモダンなメタルといった感じ。メタルコアに近く、デスメタルという感じはほとんどない。
また、Disarmonia Mundiは楽器演奏を全部一人でこなしていることやトリプルヴォーカルという特殊な編成ということもあって、楽器演奏が目立たず、ヴォーカルとコーラスが中心となったメタルになっているのだが、こちらはキーボードやギターがちゃんと自己主張しており、一般的なメタルバンドのバランスになっている。
Disarmonia Mundiは楽器パートの面白味がイマイチという弱点があるので、それを克服しているのはいいとも言えるが、あの偏ったバランスに個性があるのも事実で、その個性が薄れて普通のバンドっぽくなっているのをつまらないと感じる人もいるかもしれない。この辺は好みによる。
とりあえずDisarmonia Mundiが好きなら聴いておいて損のないアルバム。ただ、本家のようにSoilworkっぽくはないので、それは期待しない方がいい。
5thアルバム。2名のメンバー入れ替えがあり、新生ストラトヴァリウス体制となっての初のアルバムである。特に元Yngwieの右腕、イェンスが参加したことで、従来よりもクラシカル要素が増し、音に広がりが出るようになった。
曲としては、ハイトーンのヴォーカルを中心とした、さわやかで広がりのあるメロディーと、ギター、キーボードのテクニカルでありながら複雑にならない曲調で、適度にクラシカル要素を入れて音楽性に厚みを持たせている。
クセがない分、多少音楽に宿るパワーの点では物足りない感じがするが、音楽としては悪くはない。
ネオ・クラシカル系統の音楽が好きなら、一度試してみる価値はあるだろう。
[2010.8.14 改稿]
アメリカのシンフォニック・メタルバンド、SYMPHONY
Xの5thアルバム。
アトランティス伝説やエジプト神話などをモチーフにした壮大な物語を紡ぐコンセプトアルバムの形式を取っている。
演奏はプログレメタルっぽいが、あまりテクニカルな印象を与えず、あっさりと聴かせてくれるタイプの曲になっている。
実のところ、SYMPHONY Xは好きなバンドではないのだが、このアルバムは格別に良くできていると思う。起伏に富んだ凝った展開の割に非常に聴きやすく、幻想的で壮大なイメージを喚起させるキーボードとメタル然としたヘヴィなリフを弾くギターの絡みのバランスが絶妙。コンセプトアルバムにありがちな中だるみな感じや聴き疲れする感じがなく、全然ダレることがない。唯一残念なのは音質がややこもっていることくらいである。
冒険映画を観ているような高揚感を味わえる、聴いていて楽しい一枚。
アメリカのロックバンド。
社会批判を前面に押し出した単純な歌詞、ヘヴィなリフを、壊れたレコードのようにひたすら繰り返すのが特徴。分類上はラウドロックバンドのひとつになるのだが、彼らの音楽は単純に聞こえるくせにとりわけ変態的で、頭のいい連中が狂う寸前のような、独特の音楽性を有している。
変拍子を多用したり、様々なジャンルをミクスチャしているなどの技術的な面もあるが、ひたすら麻薬の名前を並べて繰り返す歌詞など、本気なのか冗談なのかわからないパフォーマンスが狂気と正気、シリアスとギャグの狭間のギリギリ感を演出し、単なるクソまじめな社会派気取りとは一線を画した変態感を醸し出している。
2nd以前は(多分わざと)荒削りな楽曲作りをしており、それが独特のテイストとなっていたが、3rd以降は楽曲構成がマトモになっており、プログレメタルと言ってもいいほど知的な雰囲気すら漂わせるようになっている。もちろん、人をバカにしたような雄叫びヴォーカルや変なリフは健在だが。
彼らの音は分かりやすい上に、耳の肥えた人が聞くに堪えるだけの音楽性も持っているので、あまり食わず嫌いせずに聞いてみるといいかもしれない。
[2009.2.1 初稿]
3rdアルバム。
これまでの作品は、壊れたレコードのようにひたすら印象的なリフをやるだけやってブツ切れするタイプの曲が多かったが、本作は「勢いだけ」とも取れる本気とも冗談とも付かない独特のセンスはそのままに、楽曲構成がかなりマトモになっており、曲がちゃんと展開するようになっている。
2〜3分という短い曲が多数を占めているのは相変わらずだが、短い中で下手なプログレメタル以上の複雑な展開をやってのけている。そのくせ聴き手を選ぶような面倒くささもないという、何気に高い楽曲センスをしている。
曲の構成が知的になり、テクニカルなリフが増えた分、旧作にあったバカっぽさやギスギスした感じは薄れており、その点をどう捉えるかが難しいところだが、楽曲のデキとしてはかなり向上していると言っていいだろう。もちろん、人を食ったようなリフや、やりすぎ絶叫ヴォーカルなどは健在。
1stからのファンがこれをどう感じるかは不明だが、プログレメタルが好きならイケるアルバムだろう。EVIL
WINGS等の変態系プログレメタルに通じる複雑さ、変態さを備えつつ、同時にかなり分かりやすいという奇跡的なバランスの一枚である。
一般的に「プログレ」というジャンルにある敷居の高さもないので、勢いだけの激しいメタルが好きな人でも大丈夫なはず。
[2009.2.1 改稿]
2ndアルバム"Toxicity"に収録されなかった曲を集めたアウトテイク集、という位置付けになっている。
投げやりなジャケットがとりわけ目を引くが、このジャケットが表すように、内容も非常に混沌とした感じ。アルバムとしてのトータルバランスを無視して、とにかくいろんな曲を作って突っ込んでみましたという感じに仕上がっているのだが、その無軌道ぶりが、かえってSYSTEM
OF A DOWNらしさを演出しているように思う。ある意味、アルバムとして洗練されていた"Toxicity"よりも、こちらのほうがより野蛮で野放図で狂っており、デキがいいような気さえする。SOADのアルバムの中では最も変態度が高い。
特に"What a splendid pie, Pizza-pizza
pie!!(なんて素敵なピザピザパーイ!)"などという無茶苦茶な歌詞を連呼し絶叫しまくるTr1"Chic
'n' Stu"(一見ただのバカのような曲だが、コマーシャルを皮肉ったのもので実は深い)や、Tr12"F***
the System"のイッちゃったヴォーカルの凄まじさは一聴の価値有り。
SOADの本領を発揮しているのは、2ndよりもむしろこちらだろう。彼らの持っている引き出しを片っ端から開けて披露した、非常に贅沢なアルバムである。特に変態メタル好きなら必聴モノ。
フィンランドのゴシックメタルバンド。
1st〜3rdアルバムまでは、ヴォーカルの甘い吐息が妖しい、変なゴシックメタルをやっていた。"LOVE&DEATH"というキーワードの元、北欧特有の哀愁メロディを用いつつ、独特の甘く軟派な男性ヴォーカルのヴォイスが毒々しい世界を作り出すバンドだった。
4thアルバム以降、中心人物だったTonmi Lillman(ds)を始め、バンドメンバーの半数が入れ替わり、Jape
Peratalo(Vo)を中心としたバンドへと変化。音楽から甘ったるさが消え、深い悲しみを激しい曲調で表現する音楽性へと変化した。
バンドメンバーの入れ替わりが激しく、たびたび活動休止状態になるが、その割にアルバムの完成度は高品質で安定しているという珍しいバンドである。
[2011.12.7 初稿]
6thアルバム。5thアルバムリリース後、またもやバンドが活動休止状態になり、ほとんどのメンバーが入れ替わっての作品となる。ただしJuppe(g)、Juska(key)は元To/Die/Forのメンバーで、むしろ5thアルバムの時よりも元のメンバー構成に近いとも言える。
バンド内部の不安定さとは裏腹にアルバムのデキは非常に高品質で安定しており、5thアルバムの方針を引き継いだ、ダウナーでメランコリックなメタルサウンドはますます磨きがかかっている。曲の多彩さも健在で、似たような曲が並ばないようになっており、通して聞けるものに仕上がっている。
かなり大胆にノイズを使用したTr4"Death
Comes In March"や、生声コーラスを用いたTr5"Folie
A Deux"などの新しい試みも。
また、Tr7"Love's a Sickness"ではキーボードワークを前面に出した、かなり複雑な構成をした曲を披露している。これもまた、変にプログレを意識したような曲でもなく、かなりいいデキ。
ゴシックメタルというには甘さのないサウンドになってしまったTo/Die/Forだが、Tr9"Oblivion:
Vision"では久々にゴシックらしい甘ったるいヴォーカルが聞ける。
例によってカヴァー曲がおまけ扱いではなく3曲目に入っている。Iggy
Popの"Cry For Love"だが、かなり忠実なカヴァーなのにTo/Die/Forの曲と勘違いしそうなデキになっているのも相変わらず。
バンド活動が不幸だからこそ、ここまでの曲が作れるのではないかと思ってしまいたくなるような高品質なアルバム。ファンならもちろん、メランコリックなメタルが好きなら是非に。
[2006.9.19 初稿]
5thアルバム。4thアルバムに表れていた悲痛な激しさを継承し、3rdアルバム以前のTO/DIE/FORとは別物のバンドとして再出発することを表明したかのような作品になっている。
比較的アップテンポな曲が増え、キーボードやコーラスを使った叙情的な要素が増し、やや聴きやすいキャッチーな音楽になっているものの、それがギターリフや曲調の重苦しさと見事に対比され、よりその悲痛さを強調するようになっている。
ただ、その悲痛さはネガティブなものではなく、それを受け入れ、乗り越えていこうとする意志が伝わってくる。なかなかに聴き応えのあるアルバム。
構成も"IV"からさらに洗練され、前作の問題点であった地味さも、アップテンポな曲の挿入と、キーボード等を使った叙情性によりうまく解消されている。これにはもはや文句の付けようがない。
4thアルバム。バンドメンバーの半分が入れ替わった後のアルバムとなっているが、大きな方向転換はなし。表面的な音楽性にそれほど変化はない。
ただ、今作はギターバッキングを強調したヘヴィな音になっており、ヴォーカルのなよなよした感じはずいぶん薄れている。聴いていると憂鬱になってくる感じも、以前は心地よく泥沼に浸かっていくようだったが、今作は本当に悲痛で苦しげな感触となっている。これが、そういう方向で方向転換していくのか、メンバーチェンジに至ったバンド内での問題が影響した一時的なものかはまだわからない。
2ndの頃のようなインパクトのあるメロディアスさはないものの、曲の構成そのものはうまくなっており、地味だが隙のない出来。暗くて重くて地味でメロディアスな音楽は好みが分かれるだろうが。
ちなみに、アルバムタイトルにもなっている注目の4トラック目は、U2の"New
Year`s Day"のカヴァー。もともと雰囲気が似ているとはいえ、TO/DIE/FORのオリジナル曲の間に挟まれていても全然違和感がない出来になっている。
3rdアルバム。日本盤は出ないのか〜と思っていたら、8月に発売する様子。
Tr1"Dying Symbors"が従来よりヘヴィな感じに仕上がっていて方向転換したように感じるが、2曲目以降は従来通り、しっとりした展開にヘヴィなギターリフ、シンセを絡め、独特の妖しい唄い方のヴォーカルを乗せたものになっている。
ぱっと聴いた感じではわかり辛いかもしれないが、以前と比べると曲の構成が良くなっており、特にシンセパートの入り方が巧くなっている。
ヴォーカルは2ndに比べるとおとなしめになっている。曲の「聴いてるとダメになりそう」加減は相変わらずだが、できればヴォーカルにはもっと毒気を吐いて欲しいような気もする。
2ndの方がわかりやすいメロディの曲が多いので、初めて聴くなら2ndの方をおすすめだが、じっくり聴かせてくれる3rdも出来としては良好。
2ndアルバム。メロディラインは北欧系の哀愁を漂わせたものだが、それに合わされるヴォーカルは甘く毒々しい雰囲気を匂わせまくり、ヤバイ世界を作り出している。
きっと「あのヴォーカルなんとかしろ」という苦情はたくさんあっただろうに、むしろ今作では前も増して毒々しくも甘い吐息を吐きつつ、聞いていると人間ダメになりそうな雰囲気を漂わせまくっている。ここまでやってくれるなら、もはや素直にこの世界観に酔いしれるしかないだろう(笑)
普段、曲を聴くだけで戦慄を覚えることは滅多にないのだが、珍しくこのアルバムは、夜中に寝ながら聴いたらちょっと怖かった。
ヴォーカルだけでなく曲の構成力も上達していて、前作よりも耳に残る音楽を作っている。
ゆがんだ愛と死を描くこの音楽世界。ぜひとも一回試してみてほしい。脳が腐れていく感触が楽しめる。
1stアルバム。SINERGYのKimberly Goss(Vo)とAlexi Laiho(G)が特別参加している。
重厚なギターバッキングに独特のなよなよとしたヴォーカルが重なる、独特かついやんな音楽である。曲調もヴォーカルの嫌さ加減に合った、濃厚で甘ったるいメロディとなっている。そのくせヘヴィなんだからわけがわからない。
このヴォーカルはかなり嫌う人が多そうだが、むしろこの嫌悪感こそがTO/DIE/FORの最大の魅力だろうと思う。一旦浸ってしまえばどんどんこの音楽世界に酔いしれて腐れていけるだろう。
男が色気たっぷりに歌うメタルバンドはそうそうあるまい。一度はお試しあれ。
アメリカのバンド。ダークで長尺で偏執的な構成とヘヴィでキャッチーなリフが同居したサウンドが特徴。
1st、2ndアルバムはKING CRIMSONの影響を色濃く反映し、気持ち悪いSEの多用や複雑な展開を有していたが、3rdアルバム以降、リフを中心に組み立てる正統派メタルの手法を使うようになった(PINK
FLOYDっぽくなった、とも言える)。シンプルになったことで退化したわけではなく、無駄を捨てて研ぎ澄まされてきた、というのが正しい。
どう聴いてもプログレ好き向けの、売れ線を外したマニアックサウンドなのだが、そのくせプログレ好きはこのバンドを知らず、一般的なメタルリスナーが聴いていたりするのが面白いところである。
お勧めは、KING CRIMSONあたりが好きなら2nd"AENIMA"、メタル畑の人やRiversideあたりが好きなら3rd"Lateralus"。PINK
FLOYD寄りの浸り系サウンド好きなら4th"10,000
Days"。
[2009.12.23 初稿]
4rdアルバム。最初のTr1"Vicarious"こそ前作の"Parabola"のようなわかりやすい曲なのだが、比較的キャッチーだった前作に比べると、ややプログレ寄りになった印象。ただし2nd以前の混沌とした音ではなく、どちらかというと、やはりPINK
FLOYD寄りの浸り系サウンド。リフ重視で、シンプルかつ深淵というToolらしさは相変わらず。
曲としては粒ぞろいではあるものの、アルバム全体としては若干バラけた印象のあった前作に比べるとトータルバランスが重視されており、通して聴くと濃密に浸りまくれる。コレ系好きにはたまらないアルバムである。
Dream Theaterの"Falling Into Infinity"が好きな私にとっては直球サウンドなのだが、逆に言うと、なんとなく煮え切らない印象を受ける人も多いのかもしれない。
個人的には大好きだが、お勧めするとなるとなかなか難しい感じのするアルバム。3rdが好きならそれほど問題なく受け入れられるサウンドではあると思うのだが。
[2009.12.16 改稿]
3rdアルバム。
前作まではいかにもプログレらしいKING CRIMSONっぽいサウンドだったのだが、本作はむしろPINK
FLOYDっぽくなり、正統派メタルのような聞きやすさと、繰り返されるリフによるトリップ感を演出する音楽へと変化している。リフそのものはシンプルだが、音の重ね方や構成で重厚な世界観を作り出している。
テクニカルで奇抜な演奏や変なSEなどのギミックは少なくなったが、シンプルかつ素晴らしいリフの応酬で、「メタルはリフだぜ」という人には堪らない曲が目白押しになっている。その上でTOOLらしいダークで重厚な音楽性そのものは変わっておらず、むしろ、無駄に複雑なことをしなくても良くなった分、進化したと言える。
2ndアルバム以前のTOOLは「構成がごちゃごちゃしていて今ひとつ洗練されていないバンド」というイメージが強かったのだが、本作の進化ぶりには正直驚いた。もはや別物バンドである。
テクニカルなプログレメタルを期待する人には本作は物足りないかもしれないが、メタル畑の人や、サイケデリックサウンドの好きな人にとっては嬉しい方向転換と言える。普通のメタル並に聴きやすく、かつプログレのような重厚さが楽しめる、贅沢なアルバム。
数字・記号 A〜D E〜H I〜L M〜P Q〜T U〜Z あ〜た な〜わ VA その他(自主制作盤など)