数字・記号 A〜D E〜H I〜L M〜P Q〜T U〜Z あ〜た な〜わ VA その他(自主制作盤など)
[2012.1.30 初稿]
イギリスのプログレバンド、Magentaの4thアルバム。このバンドの中でも特に大曲志向に傾いたアルバムで、20分超の曲2曲を含む4曲収録となっている(短い2曲はそれぞれ長い曲と繋がっているので、実質2曲とも言える)。
70〜80年代ブリティッシュプログレサウンド(一言で言えばPink
Floyd風YESな感じ)を踏襲しつつも、現代的なアレンジの施された曲となっている。憂鬱なYES風の曲をやっているバンドは意外と珍しいかもしれない。
先輩バンドのフォロワーであることを隠そうとせず堂々とやりきっているので、どうしても説明しようとするとYES的、Pink
Floyd的と言わざるを得ないのだが、個々のフレーズやテクニックはオマージュ的ではあっても、曲全体として見ると、さほど似ているわけでもない。伝統を引き継ぎつつも現代に活動しているプログレバンドとしてのサウンドを確立しており、単なるフォロワーでも懐古主義でもない。
そもそもYESほど音を重ねる曲作りはしておらず、シンフォニック・ロックにしてはリバーブを抑えめにしたタイトな音になっており、その辺はいまどきのプログレらしい。
ギターサウンドがYESのハウ風(ときどきPink
Floydのギルモア風)なので、どうしても元ネタを思い浮かべてニヤニヤする聴き方になってしまうが、オマージュとして聴いても、かなりよく出来ている。ここまでやりきれば立派なもの。
Tr1"The Ballad Of Samuel Layne"はYES寄りのサウンドをベースとしつつも、やや重めのギターリフが入ったりする現代的なサウンドや、メリハリを効かせて展開していく構成などのおかげで、長い割には聴きやすい。
一方、Tr3"Metamorphosis"はPink
Floyd寄りの憂鬱な成分が一気に増し("The
Division Bell"あたりの、ややロック寄りのサウンド)、しかもYESの"Tales
from Topographic Oceans(海洋地形学の物語)"に近い、とりとめのない構成をしており、なかなか聴き手を選びそうな曲になっている。展開美やメリハリで聴かせるのではなく、ゆったりと憂鬱に浸るタイプ。
ただ"Tales from Topographic Oceans"に比べると実験的な雰囲気は少なくて、かなりきっちりと完成された曲に仕上がっている。聴き手は選ぶものの散漫ではなく、ときおり挟まれる大御所バンドへのオマージュ的な展開もいいアクセントになっており、退屈させずに聴かせるものになっている。こういう曲をここまでに仕上げるのはかなり難しいはずで、実際、聴くに堪える曲にはほとんど出会ったことがない。
表面上はシンフォニック・ロックらしい、上品なきらびやかさをもったサウンドだが、根底にはブリティッシュロック特有の暗さや憂鬱さを多分に含んでいるので、どちらかというとシンフォニック・ロック好きよりは憂鬱サウンド好きに受けそうなアルバムである。暗いYESが聴きたい人にはぴったり。
フランスのバンド、MANIGANCEの1st。
ドリームシアターに近い感じの、メロディアスで曲の展開を重視した構成に、ジャーマンメタル等の爽快感を混ぜたような感じになっており、聴きやすくて、かつプログレメタル好きが好みそうな緊張感のある演奏が楽しめる、バランスのいい構成になっている。
聴いた感じは、単に叙情的なパワーメタルに聞こえそうだが、プログレ好きならバッキングや曲の展開の仕方にそれっぽさを見いだすだろう。
爽快感を損なわない範囲で、うまくそれぞれの曲に特徴を付けながら複雑な展開をやっているので、ぱっと聴いた感じでは似たような曲が並んでいても、飽きさせずにアルバムを最後まで通して聴かせてくれる。
プログレという言葉から連想されるような、面倒くさい音楽ではないので、その辺は安心して聴いてもいいかと思われる。質の高い一枚。
ジャンルを特定させない音楽を作り続ける、アメリカのバンド。プログレっぽい構成とラテン音楽の要素を導入していることがひとつの特徴となっているが、それは本当に彼らの音楽要素の一部分でしかない。その実態は究極の無節操音楽で、とにかく様々な音楽をミクスチャして、次々と曲風を変えながら突っ走っていく。無茶苦茶につぎはぎして作られたようなサウンドでありながら、曲の構成としては妙にしっかりしており、単にテクニカルな趣味に走っただけの曲に終わらないところが、このバンドの恐ろしいところ。
サイケデリックなスローパートとせわしないパートが混在しているので、パートによって好き嫌いがあるかもしれない。両方楽しむには聴き手にも無節操な雑食性が必要になるかも。
ころころ曲調の変わる変態テクニカル曲は数あるし、全体の構成を重視した重厚なコンセプト作品もたくさん存在するが、両方の特性を併せ持つ曲は他に知らない。
一応レビューを書いているが、はっきり言って文章では説明不能の音楽なので、是非とも一度、実際に聴いてみて欲しい。TSUTAYAなどに行けばレンタル盤を試聴できるだろう。
聴きやすいのは1stアルバム"de-loused
in the comatorium"と4thアルバム"The
Bedlam in Goliath"。Pink Floydあたりが好きな人は5thアルバム"Octahedron"。最高傑作かつ最高に変態なのは2ndアルバム"Frances The Mute"。
[2012.3.28 初稿]
6thアルバム。
「今までやってきた全てをよりシンプルな形で〜」というOmerのコメントから、シンプルすぎてつまらない曲になるのではないかと不吉な予感を抱いていたが、Tr1"The
Whip Hand"を聴いてぶっ飛んだ。むしろ2ndアルバムの頃の変態さが戻ってきた感じである。
ここ最近は正統派ブリティッシュプログレのテイストの強い曲をリリースしてきたThe
Mars Voltaだが、本作では2ndアルバムの頃の暑苦しくて気怠く混沌としたサウンドを復活させている。
2ndに比べるとラテンサウンドはそれほど濃厚ではなく、音の重ね方がシンプルになり、一曲ごとの尺も短めになっているが、そのくせ曲のヘンテコぶりは絶頂期の2ndと比べてもひけを取らない。と同時に、曲がシンプルかつコンパクトにまとまっている分、2ndよりも聴きやすくなっている。4thアルバムの聴きやすさと2ndアルバムのぶっちぎれ具合のいいとこ取りをしたようなバランス。
変な曲を作ろうとして凝った作りになっていた2ndに対して、もはやわざわざ難しいことをしなくても変な曲が作れてしまうというバンドの熟成ぶりが伺える。
特に2ndや3rdアルバムが好きな人にとっては大喜びの内容だと思うが、The
Mars Voltaのファンなら、この出来に失望することはないだろう。
[2010.2.7 初稿]
5thアルバム。
前作のせわしなさは消え失せて、叙情性たっぷりの、ねっとりサイケデリック音楽に振った作品。3rdアルバムが似たような方向だったが、あの時のように中途半端な感じはなく、完全にPINK
FLOYDにKING CRIMSONの1stを混ぜたようなサウンドになっている。本当にアメリカのバンドなのかと疑いたくなるほどブリティッシュっぽさの漂う楽曲に。
スローテンポでシンプル(に聞こえる)曲が大半を占めるため、マーズ・ヴォルタに騒がしさを求める人には合わない作品だろう。私もそうなのだが、同時に私の場合、PINK
FLOYD系サイケデリックサウンドも好きなので、これはこれで大好物。KING
CRIMSONの"In The Court of The Crimson
King"とPINK FLOYDの"Wish You Were
Here"を合わせたような楽曲で、ふたつの名作を同時に鑑賞しているかのような贅沢な気分が味わえる、その筋の人にとってはとても幸せな一枚である(笑)
マーズ・ヴォルタの特徴である変態テクニカルサウンドはまったくと言っていいほどないので、それを期待する人はパスした方がいいだろう。
KING CRIMSONの1stが好きな人にはたまらないアルバムのはず。あとはPINK
FLOYD系のRiversideやPorcupine Tree、Dream
Theaterの"Falling Into Infinity"などが好きな人に受けそうなアルバムである。
[2010.2.7 初稿]
4thアルバム。bedlamは精神病のニュアンスを含むので、自然と"21st
Century Schizoid Man"を彷彿とさせるタイトル。それが象徴するように、伝統的なブリティッシュプログレっぽさが際立つ作品で、特徴的だったラテン音楽風味はかなり少なくなっている。
めまぐるしく変化する変態的な曲調の割には妙に耳に馴染む聴きやすい楽曲、というマーズ・ヴォルタらしさは健在だが、1st、2ndアルバムのどこに飛んでいくかわからない混沌サウンドとは異なり、本作のそれは構成美らしきものを感じさせるものとなっている。一見無茶苦茶だが、どこか理に適っている感がある、と言えばいいのか。
オリジナリティという点では1stアルバムには及ばず、あの超絶混沌サウンドを期待すると期待はずれになるかもしれないが、上質な作品であることには変わりない。
取っつきやすさでは本作がマーズ・ヴォルタのアルバムの中では一番だろう。かったるい部分がない分、プログレを聴かない層でも楽しめ、と同時に、本格的なプログレとして、そっち系の人のハートも惹き付けてやまないという、いいとこどりの作品。
[2010.6.5 改稿]
3rdアルバム。メロディアスで暑苦しいほど情熱的だった1st、2ndとは少し異なり、サイケデリックサウンドに振った味付けに。1st、2ndアルバムは、複雑な構成と変態的なギミックが満載でありながら、同時にイカしたメタルとしても聴ける絶妙なバランスだったが、本作はさすがに普通のメタルリスナーはついて行けないのではないかと思われる。
無茶苦茶をやっていながらも要所要所でキャッチーなメロディを仕込み、強引に曲を聴かせてしまっていた前作までとは全く異なり、ダラダラと聞き流してトリップ感を味わうタイプのサウンドになっている。聴いていると暑くてじめじめしたところでぼーっとしているような、気怠い気分になってくる。
KING CRIMSONの"Larks' Tongues In Aspic"を彷彿とさせる変態サウンド満載のアルバムなので、そっち系が好きな人にはおすすめ。1stアルバムのようなハイテンションサウンドを期待している人はパスした方がいいかもしれない。
2ndアルバム。The Mars Voltaのアルバムの中でも、もっとも独特のサウンドを提供してくれる一枚。
前作でも充分変態的だったサウンドはさらに混沌を増し、キャッチーさもサイケサウンドもトリップ感も軒並み増量。
前作はなんだかんだ言ってスピードチューンに頼っている面が大きかったが、本作はねっとりとした曲の比重が増しており、ラテン音楽独特の、熱病にうなされそうな気怠く暑苦しい雰囲気にサイケデリックな気持ち悪いサウンドが混ざって、ますます深淵へと足を踏み込んでいる。ついでにトラックの切り方も変。
変態度が増している癖に聴きやすさは前作とあまり変わらず、わけがわからないが、なんかイイ感じに進化しているような気がするアルバムである。ただ、気持ち悪いサウンドが嫌いな人にとっては、曲と曲の間に入るノイジーなサウンドはやりすぎに感じるかもしれない。
若干キング・クリムゾンやイエスのオマージュとも思える仕掛けがちょろちょろ入っていて、そういう遊び的な部分も面白かったりする。
通して聴いても全然ダレない、暑苦しいまでのハイテンションさは相変わらずで、変態テクニカルサウンドのくせに聴きやすい、奇跡のアルバムである。
1stアルバム。
せわしないリズムセクションと情熱的なサウンドのラテンパートと、気持ちの悪いサイケデリックテクノサウンドが入り乱れ、息を付かせぬ怒濤の展開で突っ走る。
どこへ飛んでいくかわからないむちゃくちゃな曲の展開や異常な手数のリズムセクションなど、どこからどう見ても変態的な音楽なのだが、そのくせ時折やたらと情熱的でキャッチーで格好いいメロディーを挟み込んでおり、おかげで変態サウンドの癖に妙に聴きやすい。
"confusion will be my epitaph"の句がこれほど似合う音楽もないと思う。サイケデリックサウンドとラテンサウンドでトリップしている内に、ついつい通して聴いてしまう変な魔力のあるアルバムである。
基本的にはプログレ好きやテクニカルメタル好きが聴く類のものだろうが、その複雑怪奇さに比べて意外なほど聴きやすいアルバムなので、ラテンロックが好きな人なら試す価値はあるだろうと思う。
キーボーディストとドラマーのコンビバンド。彼らの基本にロックが流れているのは確かなのだが、その音楽に固定の流儀はなく、テクノからジャズからなんでもあり。
シンセドラム並みの人間業でない細かい刻みをやってのけ、シンセサイザー並みの複雑なフレーズを奏でる恐怖の人間シンセ野郎ども(笑)である。
たぶんジャズやテクノを聴く人の方が、この良さはわかるんじゃないだろうか?
こういう節操のない音楽こそ、本当にプログレの歩んできた道を踏襲しているように思える。
MATS/MORGANについては私もよく知らないので、詳しいことはわからないのだが、テレビ番組でスタジオ生演奏したものを編集したアルバムだそうである。よって、昔の曲が混ざっているのかもしれない。
……というより、これが生演奏? 編集されているとはいえ、とても信じられない。
シンセサイザーで再現するにも楽器で演奏するにもかなり大変なことが想像できる複雑な展開。にも関わらず、聴き手には全然その展開の複雑さが苦にならず、まるでメドレーを聴いているような気分にさせてくれる。
速弾きなどの派手なプレーは少なく、ちょっと聴くだけではこのすごさはわからないかもしれないが、このあっさりとすごいことをやってのけてるのがMATS/MORGANの魅力であろう。
様々なギミックを使ったジャズっぽいテクノっぽいロックとでも言えばいいのか、ジャンルを定義すること自体が馬鹿馬鹿しくなるような、自由奔放な音楽である。曲目も、ヘヴィメタルのカヴァーからジャズのスタンダードナンバーまで、まさしく節操なし。
ロック、ジャズ、テクノと、あらゆるジャンルを横断している音楽なので、聴けば音楽の趣味の幅を広げてくれるかもしれない。かなりおすすめ。
スウェーデンの変態ギタリストMattias "IA" Eklundhのソロプロジェクト。変な音を出すのが大好きな真性の変態。そのくせメロディアスな曲を書く。詳しくはFreak Kitchenの項にて。
[2011.11.27 初稿]
ソロアルバム"Freak Guitar"の第二弾。ほとんどインストだがTr11"Happy
Hour"のみ弾き語り。
父親へのレクイエムらしきTr4"Father"や弾き語りのTr11"Happy
Hour"あたりは普通だが、ほとんどの曲はいちいちギターの出す音がおかしい。ギターだけでなく他の音もいろいろおかしいのだが。
箸奏法を披露しているTr9"Chopstick
Boogie"をはじめ、変態技術の展示会のようなアルバムなのだが、そのくせどれも妙に耳に残るシンプルな曲になっており、ちゃんと聴けるものになっている。
カヴァー曲もいくつか混ざっており、気づいた限りでは"Fletch
Theme"や"Smoke on the Water"、"Minor
Swing"が収録されている。この雑多な選曲がアルバムの中身を象徴しているとも言える。
2分未満の短い曲も多く、ギター以外の音はシンセやプリンターその他によって作られており、普通ならチープ感の漂う物足りないデキになってもおかしくないところだが、さすがに安物ギターとラジカセで音作りをするチープサウンドの達人なだけあって、その辺が全然気にならない。また、全23曲収録されているが、ソロアルバムとは思えないほどやっていることが多彩。いい意味でゲーム音楽のサントラのような雑多さがある。
余談だか、ジャケットには各曲の解説が載っており、この文章からも彼の変人ぶりが伺える。
キーボードなしでGENESISの曲や「展覧会の絵」をスラッシュアレンジしたりする、バカスラッシュメタル集団。ここでいうバカというのは、テクニカルという以上に、変態さんという意味合いが強い(笑)
この激しいスピードチューンで1曲19分ぶっ通しなど、めちゃくちゃしているので、ライヴで演奏してたら腕がモゲそうである。
……ライヴでもこれ、ちゃんと演るの?
たぶん2ndアルバム(情報が少なくてイマイチわからん)。スピードチューンで激しいリフと、ちゃんとスラッシュメタルをやりながら、変拍子多用、かつ混沌としつつも、EL&P風なメロディアスな部分を持っている。
変拍子をやたら多用した、ものすごいテクニカルな譜面なのに、インテリっぽい雰囲気を醸し出さず、単なる野蛮なむちゃ弾きスラッシュに聞こえるのだからスゴイ。
そしてアルバム構成が、Tr1・19分、Tr2・3分、Tr3・5分、Tr4・10分と、まんま60〜70年代プログレっぽい大作主義アルバムになっているのがスゴイ。
まぁ、とにかくどうコメントしていいかわからないが、いろんな意味でスゴイのは確か。70年代プログレ好き、特にEL&PやKing
Crimson好きなら爆笑間違いなしである。
原産国ドイツの輸入盤しか存在しないため入手困難だが、気が向いたら輸入メタル屋さんを探してみるのもオツかと。
[2011.6.5 初稿]
スウェーデンのデスメタルバンド、MESHUGGAHの2nd。私が持っているのは2008年のリマスター盤で、デモバージョンやライヴ音源(音質は良くない)など5曲が追加収録されている。
音楽ジャンルとしては間違いなくデスメタルだが、一般的にデスメタルに期待されるような要素はむしろ薄く、ポリリズムの織りなすグルーヴで楽しむタイプの音楽となっている。感触としてはテクノ、もしくは打楽器とかけ声のみで構成されるような民族音楽に近い。
最近のMESHUGGAHは、無機質な中にも結構メロディアスな要素が混ざっていて聴きやすくなっているのだが、本作はひたすらリズムで聴かせる方向に特化しており、本当に現代的な楽器を使って原始的な民族音楽をやっているような感じになっている。少しだけメロディアスなクリーンギターソロも入るが、基本的にはメロディなんて知ったこっちゃないという潔い作り。
4/4拍子のシンプルなパターンの上に変な拍子のリズムを重ねていく手法を多用しており、そのヘンテコリズムを執拗なまでに繰り返すのが特徴。最終的には4/4拍子に帰結することもあり、変なリズムの割には聴きやすく、グルーヴ感があってノれるけど、4/4拍子パターンと他のリズムを同時に聴こうとすると物凄く気持ち悪い。
やっていることは変拍子を多用する変態テクニカル系に近いが、MESHUGGAHはあくまで変態リズムを組み合わせつつも最終的に4/4拍子キープを重視しているので、変拍子が好きな人にとっては意外と面白くないように感じるかもしれない。
そもそも聞き手を選ぶきらいのあるMESHUGGAHの中でも、とりわけ特殊な趣味をお持ちの人向けに作られたアルバムと言える。余計なものをそぎ落とし、ストイックにキメた変態グルーヴでトリップできる。
特に、他のMESHUGGAHのアルバムを聴いて「中途半端」と感じるなら、このアルバムか1stアルバムがおすすめ。
2ndアルバム。
曲としてはイングヴェイそっくりである。この辺は同じ北欧出身ということもあるかもしれない。しかし、インギーのようにギターが突出して暴走していないので、バンドとしてのバランスは良好。哀愁漂うヴォーカルを中心として作られるメロディアスな曲はなかなかの出来。ちょうど私が好きな「オデッセイ」のころのインギーを彷彿させるので、個人的には好みである。
「イングヴェイのパクリじゃん」などと考えないで聴けるネオ・クラシカル好きにおすすめ。
広がりのあるコーラスやオーケストラなど、メロデスっぽい要素を持っていながら、絶対メロデスとはカテゴライズしたくない本格派デスをやってのけるデスメタルバンド。
本気で死の国からのお誘いに聞こえる、野太く迫力あるデス声、とんでもなく細かい刻みをやってのけるドラム、エジプト風味の怪しげな旋律。どれもぎりぎりキャッチーだとかメロディアスと呼べなくもない要素を備えていながら、それが荒々しい暴力サウンドとしての雰囲気を壊さないところにこのバンドの巧みなバランス感覚がある。
1stアルバムの時は、単なるデスよりはうまいかな、という程度に見ていたが、3rdを聴いて、あまりの進化ぶりに驚いた。単にデスというカテゴリに媚びた音楽じゃなくなっている。
3rdアルバム。1stの時よりオーケストラやコーラスをかなり削っており、半端なネオ・クラシカルっぽさを消し去っている。だが、メロディアスな要素は必要最小限かつ雰囲気を壊さない程度にぎりぎり残しており、バンドとしての作曲レベルは相当上がっている。
デスメタルらしい演奏の荒々しさはあるものの、その裏には緻密かつ正確な演奏能力、作曲能力、リズム感に裏打ちされた構成美を感じさせ、その上ダークな迫力は以前にも増して一層強烈になっている。
特にドラムの刻みが、単に速くて正確なだけでなく、それが生み出すノリによって、曲の単調になりがちな部分で緊張感を持続させる役割を果たしており、相当なセンスを感じる。
他に印象的だったのは、Tr7"I Whisper
in the Eqr of the Dead"のヴォーカルの声。もう、この世のものとは思えない(笑)
Tr9〜Tr12は、従来のようにオケやコーラスを多用したパートを有する組曲形式となっている。オケパートの使い方もかなり巧みになっており、1stのときのように一息つけるパートではなくなっており、効果的に恐怖感を煽るものとなっている。
とんでもないバンドに成長しているので、デスというカテゴリが好きか嫌いかに関わらず、一度は聴いてみて欲しいアルバムである。
NILEの1stアルバム。ミイラのジャケットがチャーミング。
ときおりエジプト音楽のテイストを挟み、怪しげな雰囲気を漂わせつつ、基本的には一本調子にハイスピードで突っ走りまくる重いギターリフに、ヴォーカルがお経のように抑揚のない声で、呪いの言葉とおぼしきものをうなるように唱え続ける。
本気で呪われそうなオーラの漂う、危なげな音楽である。
デスが嫌いな人に勧めても仕方がないのでアレだが、音楽的に過激なデスメタルを聞きたいなら、NILEはなかなかにオススメ。
ライヴ音源やカヴァー曲などを含む、NIGHTWISHの企画モノアルバム。新曲もあり。
曲によってはデスっぽい男性ヴォーカルやナレーションがときおり入るが、基本的にはオペラ調の女性ヴォーカリストが曲の中心として機能している、ネオ・クラシカル系統の音楽である。
ゲイリー・ムーアの名曲"Over The Hills
And Far Away"のカヴァーは、ヴォーカリストの特性を活かしたアレンジで、寒々しく雄大な雰囲気を原曲よりも強く打ち出し、めちゃくちゃ素晴らしい出来なのだが、オリジナル曲の方は変に構成に凝っていて、いまひとつメロディに鋭さがなく、聴いていて退屈な面が見られる。
せっかくうまいヴォーカリストを抱えているのだから、もう少し素直に北欧音楽独特の哀愁系キャッチーなメロディラインを強調したほうがいいのではないかと思われる。
評価の難しいアルバムだが、"Over The
Hills And Far Away"の出来はめちゃめちゃいいので、この一曲のために買えるか否かが勝負どころ、といったところ。
なお、ライヴではNIGHTWISHの代表曲を扱っているので、NIGHTWISHの音楽が自分に合うかどうかを試すなら、とりあえずこのアルバムを聴くといいかと思われる。
80年代というプログレが死語となっていた時代にアナログシンセを多用し、グラムロックのブームが過ぎた頃に変ないでだちでステージに現れと、ビジュアル的にも音楽的にも時代錯誤な雰囲気を醸しだしつつデビューしたバンド。
その勘違いっぷりがなかなかに面白く、当時大受けしたらしいが、その衣装の派手さと女子に受けたことが原因で軟派扱いされ、プログレマニアからは敬遠されたようである。
演奏面、作曲面共にかなりしっかりしており、単なるケバいバンドではないことは確か。ただ、独特の雰囲気は聴き手をある程度選ぶかもしれない。
(2004.1.7 文章の微更新)
4thアルバム。
明らかに70年代のプログレに影響を受けた、アナログシンセを多用した、古くさくも攻撃的なキーボードワークを中心に、妙にハイトーンかつ変に作ったような声(要するにビジュアル系声)が織りなす、妖しくも変な音楽世界。
メジャー調の明るい曲が多い割に、なぜかダークな印象を受けるのが面白い。
ヴォーカルの好き嫌いで聴き手を選びそうな感じだが、ビジュアル系の音楽が好きなら問題なく聴けるだろう。できればこういうアルバムを軸に、洋楽プログレにも手を伸ばして趣味を広げてみて欲しい。
逆に、プログレ好きがプログレだと思って聞くと、ヴォーカルの声に「なんじゃこりゃ」と思うこと請け合い。ただし、演奏のタイトさは確かにプログレなのである。最初は極力バッキングに集中して聴くようにするといいかもしれない。
HAPPY THE MANのFrank Wyatt(Sax, Key)とStan Whitaker(G, Vo)によるバンド。両方の名義で掛け持ちするのかと思っていたが、再結成したHAPPY THE MANは10年ほど音沙汰が無いので、もしかすると今後は、こちらの名義をメインに活動するのかもしれない。
2ndアルバム。Happy The Manは4thアルバム発表以来音沙汰が無いので、もしかすると今後はこの名義で活動する気なのかもしれない。
前作は再結成Happy The ManよりもHappy The
ManしていたOblivion Sunだが、本作はやや起伏に富んだドラマチックな展開の曲になっており、曲風も現代的な雰囲気になっている。尻切れトンボで終わる曲も無くなり、前作よりも曲作りが丁寧な印象。
根底にあるのはあのHappy The Manのサウンドだが、ややYESっぽい要素も混ざって、今までとは少し感じが変わったように思える。フュージョン寄りだったのがクラシカルロック寄りになったと言えばいいのか。いずれにしても、なんだか良くなっている。
おそらくDeath's Crown以来の組曲"The
High Places"も収録されているが、この出来もDeath's
Crownに比べると雲泥の差で素晴らしい(もともとDeath's
Crownは未発表音源集に収録された曲なので、あれと比べてはいけないような気もするが)。
Happy The Manのファンならもちろん買って損はないだろうが、YESっぽいクラシカルロックが好きな人にもおすすめ。
[2012.12.15 初稿]
HAPPY THE MANのFrank Wyatt(Sax, Key)とStan Whitaker(G,
Vo)によるバンド。再結成したHAPPY THE MANよりもかつてのHAPPY
THE MANに近いサウンドになっている。
"The Muse Awakens"は様々なタイプの曲を聴かせるアルバムになっていたが、本作は1stや2ndのころのHAPPY
THE MANそのまま。もしかすると、こちらのバンドのサウンドをHAPPY
THE MAN名義にし、再結成HAPPY THE MANをOblivion
Sun名義にしたほうが、納得のいくリスナーも多いのかもしれない。
初期、再結成HAPPY THE MANと異なる点は、Tr2"The
Ride"やTr9"Golden Fest"など、一部の曲でロックっぽいギターサウンドが前面に押し出されている点。HAPPY
THE MANはどちらかというとシンセワークを中心に組み立てたジャズ、フュージョンサウンド色が強く、あまりロックっぽい曲はやらないのだが、このアルバムでは曲によってはより歪んだギターサウンドが強調され、ロック色が強くなっている。
一方で、もう少し展開してほしいなというところでフェードアウトで終わってしまう曲がいくつかあるのが残念なところ。
ツインギターによる重厚な低音サウンドにデス声を乗せた迫力あるデスパートと、クリーンサウンドとのコントラストを巧みに利用するハンド。闇夜に鬱蒼とした森林の中にいるような気分にさせる独特の感触は、デスパートの激しさと相まって鬼気迫るものを感じさせる。
1〜3rdアルバムの頃は単なるデスメタルバンドで方向性もいまいち固まっていなかったのだが、4thアルバムで現在のOPETHの基盤となる楽曲構成を獲得し、5thアルバムで「森林」を彷彿とさせる現在の曲調を確立。
デスパートを強調した6thアルバム、デス声なしの7thアルバムを発表後、再びデスパートとクリーンパートを融合させた8thアルバムは、従来の叙情性にデスメタルの凶暴さをプラスし、文句の付けようのない完成度を誇っていた。
10thアルバムからは70〜80年代のプログレやハードロックの要素を取り入れた、ヴィンテージロックとなり、デスメタルの要素はなくなった。
8thアルバム"ghost reveries"は必聴モノ。純粋に音楽として芸術的な完成度なので、ジャンルで食わず嫌いしないで是非とも聴いて欲しいアルバムである。
その他、バランスがいいのは5thアルバム。プログレ寄りの人なら7th。現在のOPETHの音とは異なるタイプなのだが、ゴシックメタルが好きなら4thがおすすめ。
3rd以前のアルバムは、現在の原型は端々に見られるものの4th以降とは別物なので、4th以降のアルバムを聴いて、それ以前の活動が気になるようなら(デスメタルとして本格的なのはむしろ3rd以前なので、そっち系が好みの人は試す価値があるかも)。
[2016.10.2 初稿]
12thアルバム。2枚組の限定盤と通常盤があるが、私が購入したのは通常盤。限定盤はスタジオ音源2曲とライヴ音源3曲が収録されたボーナスCDが付属するものと、さらにアルバム本編のAudio-DVDが付属するものの2種類がある模様。
本作は、前作の70年代〜80年代風サウンドをより追求した感じのアルバムとなっている。詰まったような音質や、ヴィンテージシンセ(風? 本物を使っているかどうかはわからない)はいかにも70年代風。
ただ、あえてOpethというバンドがやる必要があったのか疑問だった前作の曲に比べると、今作はちゃんとオリジナリティがあって、このバンドらしい、ひねくれた感じや暗さがあるようになっている。新しいことをするのに手一杯だった10th、11thから、ようやくそれをモノにして自分たちの音楽として取り込めた印象のあるアルバムである。
デスメタルの要素はなくなったので、このバンドを象徴していたもののひとつはなくなっているのだが、Opethをずっと聴いているリスナーなら、よく聞くと実は、わりと懐かしいOpethらしさが戻っていることに気付くだろう。Opethがまださほど有名でなく、「いつトラックが変わったか、よくわからんアルバム」と言われていた頃の、あの感じ。このアルバムは意外と、マイナーバンドとメジャーバンドの境界にあった5thアルバムあたりの曲調へと回帰したところがあるのではないかと感じる。あのころの冗長さはなく、ほどよくまとまっていて聞きやすくはなっているが、欠点まで回帰する必要はないので、そこはマイナスではないはずである。
Opethはたびたび大きく曲風を変化させてきたバンドだが、10thアルバムでヴィンテージロック風へと変えてきた曲調は、このアルバムで一応の完成型を見たといえるかもしれない。10th、11thの迷走した感じのデキに比べると、本作はかなり方向が固まってよくできていると思う。方向はまるで異なるが、実は8thアルバムに匹敵するデキのような気がする。
ただ、どういうリスナーに受けるのか、と言われると、返答に困るところがあるアルバムでもある。Opethらしさはあるものの、Opethを象徴していたデスパートがなくなっているので、「Opethファンなら」とはとても言えない。また、70年代要素はふんだんにあるものの、と同時に70年代っぽくない曲でもあるので、70年代好きだから合うとも限らない。
5th以前のOpethが好きで、デスパートがなくてもいい人には結構合うのではないかと思うのだが、保証はできない。
[2014.8.26 初稿]
11thアルバム。国内盤はライブ音源2曲収録。基本的には前作を引き継いでおり、メタル要素は薄い。しかし、前作にあった70年代ロックっぽさもなくなっており、ほとんど正統派プログレバンドのような音になっている。ロータリーオルガンが多用されているのもその印象付けに大きく影響しているだろう。
"ghost reveries"以降のOPETHは、"ghost
reveries"のイメージを拒否するかのごとく違った路線のアルバムを作り続けてきていたが、それでも"Blackwater
Park"以降のOPETHの特徴は根底には残っていた。しかし本作は、もう別物のバンドではないかと感じるほど毛色の異なるアルバムになっている。
"Blackwater Park"以降のOPETHと言えば、アコースティックギターとディストーションギター、静寂からメタルサウンド、などの対比を特徴的に用いるバンドだった。しかし本作ではそうした展開はほとんどなく、むしろ全体にロータリーオルガンの音が目立っており、それが安定感のある雰囲気を作り出している。OPETHというよりは、OPETHっぽい曲調も取り入れてみた正統派北欧プログレバンドのようである。
プログレといっても、Storm Corrosionようにどこまでもドス暗い憂鬱なサウンドというわけでもなく、とにかく、全体的にはうまいし、メロディもそこそこ立っているので聴いていて飽きることもなく、洗練されてはいるのだが、突出した部分がないのである。特になんというか、暗さが足りない気が。
Tr3"Moon Above, Sun Below"は象徴的で、メロディにしろ展開にしろ、随所に"Blackwater
Park"や"damnation"の頃の(デスパートでない部分での)OPETHらしさが出ているのに、全然そういう感じがしない。
デスでないOPETHの曲としては、"Blackwater
Park"や"damnation"の曲と比べると冗長な感じがなくなっており、構成がうまくなっている。比較的メロディラインがはっきりしているので、どこを聴いているのかわからなくなる感じも、当時に比べたらずっと少なくなっている。
ただ、静と動の劇的な対比、といった趣がなくなっている分、地味になった印象はある。聴いていたら悪くないのだが、繰り返し聞きたいかとなると微妙。あえてOPETHがやらなければならないような音楽でもないように聞こえてしまう。
私は、おそらく巷では評判が悪いであろう"Watershed"や"Heritage"は結構好きだったのだが(OPETHで繰り返し聴くのは"Watershed"収録の曲が一番多かったりする。一番聴いている曲は"Ghost
of Perdition"か"Harvest"だが)、このアルバムは、全然悪くはないけれどイマイチ。まとまり過ぎててつまらない気がする。本当に悪くはないのだが。
とりあえず"ghost reveries"や"deliverance"派のリスナーには用のないアルバム。問題は"damnation"あたりがいけるリスナーなのだが、聴いて全然ダメということはまずないと思う。ただ、"damnation"や"Heritage"を期待すると、近いようで何か違うので、満足するかどうかはわからない。ダウナーなプログレ大好きな人なら、むしろStorm
Corrosionくらい極まっている方が楽しめそうな気がする。
[2011.10.8 改稿]
10thアルバム。国内盤はCD-EXTRAとして2曲、ボーナストラックが追加されている。
グロウルを使用しておらず、7thアルバム"damnation"に近いアプローチのアルバムになっている。ただし、アルバムの内容としては"damnation"とは大きく異なる。
"damnation"はアコースティックギターやピアノを多用し、アルバムを通してダークな美しさの漂う(つまり、OPETHの「静」の部分のみを抽出した内容の)アルバムになっていたが、本作は様々な70年代のロックバンドを彷彿とさせる展開を雑多に織り交ぜて構成されており、一貫性はあるものの、かなり複雑な曲になっている。
サウンドとしては、歪みの少ないギターやオルガンサウンドを使用し、生音に近い丸みのあるミックスになっているが、Black
Sabbath風やKing Crimson風のパートもあり、おとなしいわけでもない。
この辺のことは文章で読むよりも、Tr2"The
Devil's Orchard"を聴けば一発で理解できるだろう。
つまり、手法としては前作に近く、前作ではいろんな音楽をミクスチャしていたのに対して、本作は様々な70年代ロックをミクスチャした、と考えるとわかりやすいかもしれない。アルバムタイトルが象徴する通りの内容なわけである。どの曲のどの部分がどのバンドのオマージュなのか、想像しながら聴くと面白いかもしれない。どこかで聴いたことのあるようなフレーズがOPETHアレンジでいろいろと聴ける。
ちょっと笑ったのはTr4"Slither"。どう聴いてもDeep
Purple風のアップテンポな曲なのに、OPETHらしい不健康で暗いサウンドになっていて、ミスマッチ感がものすごい。
なかなか聞き手を選びそうなアルバムだが、少なくとも4th、5thアルバムあたりからOPETHに付き合ってきたリスナーなら問題なく受け容れられるはずである。ミックスやグロウルなしの影響(もしくは"Ghost
Reveries"のイメージが強烈すぎるせい)で、かなり方向転換したように感じられるが、根底にあるものはいつものOPETHと変わりなかったりする。そもそもOPETHは聞き手を選ぶマイナー路線のバンドであって、むしろ幅広いリスナーを魅了できる"Ghost
Reveries"の方がイレギュラーだといえる。
そういうこともあり、"Ghost Reveries"から入ったリスナーだと期待外れになる可能性がある。あとは"damnation"がダメだった人や、デスパートの入り混じるOPETHが好きな人もパスした方がいい。
[2008.5.29 初稿]
9thアルバム。
特に本作は、今までのOPETHになかった試みがいくつも為されており、実験的な雰囲気のあるアルバムである。
急激に曲調を変えたり、デスパートにクリーンヴォイスのコーラスを混ぜるといった様々な試みを盛り込んだTr3"The
Lotus Eater"、PINK FLOYDを彷彿させるようなギミックを用いたTr4"Burden"、途中で徐々に速度を変えていくという高度な技を一瞬だけ用いたTr5"Porcelain
Heart"。「静」から「動」へという従来のOPETHの展開にオーケストラパートやシンセーワークやオルガンプレイによるギミックを挟んだTr6"Hessian
Peel"など、いままでのOPETHのイメージを覆すような曲が目白押しとなっている。
これらの新たな試みはまだ完全に使いこなせている感じではないが、今後これらがどう発展し熟成されていくのか、非常に楽しみである。
キーボードの活躍比率が上がっているのが、個人的にはポイント高い(笑)
8thアルバム。
OPETHはもう、神がかってきたような気さえする出来具合。6thアルバムと7thアルバムで一旦は分離された「動」と「静」が、このアルバムにて再び融合。お互いがより強調され、より溶け合い、ため息が漏れるほど美しく、暗く、重苦しく、ドラマティックな音楽となっている。
7thアルバムが出た時は「デスパート要らないんじゃないの?」と思ったが、そんな気持ちを吹き飛ばすほどの壮絶なクオリティ。デスパートはより激しくなったにも関わらず、それが一層見事にクリーンヴォイスパートと絡み合い、さらなる高みへと登り詰めている。ここまでくると、これは紛れもなく芸術作品だろう。
今までのアルバムでは、デスパートであってもサウンドに理知的さを残しており、荒々しさという点ではやや物足りない感じもあったのだが、このアルバムで見せる分厚く切れ味のあるサウンドは何かを吹っ切ったかのようにすさまじい。それでいてクリーンパートでは情感たっぷりなサウンドをきっちりと決めてくるわけである。もはや文句の付けようがない。
ロックに興味があるならこれを聴かない手はないだろう。紛れもなく名盤である。
7thアルバム。
完全にデスメタル要素を排除したアルバムとなっており、完全にプログレとなっている本作だが、今までのOPETH作品を聴ける人ならば、あまり違和感なく聴くことができると思われる。
曲としては、5thアルバムをお持ちの方なら、全編がTr3"Harvest"みたいなの、と書けばある程度想像できるだろうと思われる。
デスパートがなくても結局はOPETHのサウンドであることに変わりはないので、特に分厚いサウンドがないとどうしても物足りない、というわけでなければ、聴いて損のないアルバムだと思う。
その他、PINK FLOYDやKING CRIMSONの「宮殿」が好きな人なら、こういうのはツボにはまるのではないかと思われる。70年代プログレギタリストの影響を多分に受けたプレイがいろいろ聴けてニヤリとするだろう。
6thアルバム。
基本路線は前作"Blackwater Park"を継承した形のアルバムになっているが、よりデスパートの比重が増し、ヘヴィなサウンドを強調したアルバムになっている。この味付けは、デスパートを一切排除した7thアルバムと対になるように作られていることに由来する。
OPETHにプログレ性を期待する人にとってはやや激しく直線的すぎるサウンドということになるのだろうが、メロデスなどを聞き慣れている人なら、5thアルバムとさほど変わった印象もなく受け入れられるだろう。
Tr1"wreath"では確かにデスメタルらしいデスメタルをやっているが、アルバム全体としてはクリーンパートを全く排除しているわけではなく、やっていることは明らかに5thアルバムの延長線上にある。
世界観を提示するタイプの曲であるため、メロディラインそのものにキャッチーさがあるわけではないが、バッキングの巧みさや劇的な展開によってついつい最後まで聴かせるだけのものがあるアルバムである。
5thアルバムが気に入ったなら、聴いて損はないはず。デスメタル色が強すぎるのはちょっと……という人は、Tr1を飛ばして聴けば、多少印象が良くなるかもしれない。
[2008.12.28 改稿]
5thアルバム。4thアルバムではゴシック色の強かったサウンドが変化し、独特の「OPETHらしい」としか表現しようのない、闇の中の森林を思わせるサウンドへと変化していることが一番の特徴。
ゴシック特有の甘ったるさが無くなった分、曲の輪郭がよりはっきりし、サウンドのエッジも鋭くなり、デスメタルとプログレとのパワーバランスが拮抗するサウンドへと変化。
曲の展開そのものも以前よりわかりやすく、コンパクトになっているのも特徴。4thで獲得した「静」と「動」のコントラストが、より鮮やかに映える曲になった。
もちろん、聴きやすくなったからといってその芸術性が失われているわけではなく、むしろ静と動の劇的な変化がドラマを盛り上げ、その説得力は増していると言える。
どちらかというとプログレ好きに受けそうなアルバムではあるが、メタル寄りの人でも一度は聴いて欲しい作品である。
ただ、叙情性重視でじっくり聴かせるタイプで、それほどメロディアスというわけではないので、メロディラインがはっきりした曲でないとダメな人には少々厳しいかもしれない。
[2008.12.28 改稿]
4thアルバム。こちらは2008年に再リリースされた、リマスター盤CDと同アルバム5.1ch化+ライヴ映像付DVDの同梱盤。旧盤はノイズが入っているらしいので、今買うならこちらをおすすめ(私は旧盤を未聴なので未確認)。
現在のOPETHのスタイルである、「静」と「動」の使い分けが確立されてきたのが本作なのだが、このアルバムはOPETHの中でも異例なほどゴシック色が強く、甘く妖しいサウンドになっているのが特徴(5th以降はゴシックっぽさがかなり薄れて、エッジの鋭いOPETH独特のサウンドへと変化している)。表面的にやっていることはほぼ5thと同じなのに、曲から受ける印象はまるで違うから面白い。
3rd以前のアルバムでは散漫だった楽曲が引き締められ、全編に渡って緊張感を維持した楽曲へと変化。曲の構成そのものも以前とは比べものにならないほど良くなっており、複雑でありながら叙情性に富んでおり、聞き応えがある。先輩デスメタルバンドのフォロワー的な雰囲気の強かった面影はもはやなく、OPETHならではの独特のサウンドが確立されている。本当に同じバンドなのかと疑いたくなるほどの進化ぶり。
ただし、ゴシック特有の甘いテイストと曲の複雑さが相まって、人によってはまだ時折散漫な印象を受けるかもしれない。
現在のOPETHに繋がるアルバムであり、完成度としては高い。ただ、5th以降のOPETHとは味付けが異なるので、その点は注意。ゴシックメタルが好きなら、この甘さが逆にいいと感じるかもしれない。
ORATORYの1st。
月に何本と玉石混淆で現れる新人バンドのデビュー盤のひとつであり、かつ月面に船が横たわっているというジャケだけ見て買ったという、とてつもなく危険な買い方をしたアルバムだったのだが、それにしては珍しくこれは当たり。
女性ヴォーカルを主体にしたメロディアスなメタルで、楽器の演奏を前面に打ち出す技巧派というより、ヴォーカルとメロディの良さをウリにした感じのバンドである。手法としてはポップスに近いが、音楽としてはちゃんとネオ・クラシカル系統のもの。
実際メロディは耳に残る叙情的なもので、ヴォーカルも変にメタルに染まった唄い方をしてなくて、かえっていい。
何がいいのかと言われるとよくわからないが、変に凝ったことをせずに、素直にメタル好きが好みそうな演奏と、耳に残るメロディラインを配したあたりが勝因なのではないだろうか。
重いテーマを扱ったコンセプトアルバムをリリースし続けるバンド。1stアルバムから常に趣向を変え、それぞれに味付けの異なるアルバムを作りながら、どれもその領域において完璧に近い作品を作り続けている。
特徴的なのは全力で「音で何かを表現する」という、音楽の原点に忠実な曲作りをしていることだろう。もちろん時折見せるプレイは高度で、確かな技術に裏打ちされた上での「表現」であることは言うまでもない。特に際立つのはDaniel
Gildenlow(Vo,G)の、およそどんな声でも使いこなすヴォーカリストとしての芸域の広さであるが、そういったテクニカルな面よりも、それらの積み重ねによって緻密に作られる「世界」に圧倒されるという方が大きい。
この手のバンドは普通、少なからずDREAM THEATERに影響を受けているものだが、このバンドからはドリームシアターっぽさが全く感じられない。というより、そもそも似たようなバンドを挙げ難い、独特の雰囲気を持った曲を書くバンドである。
なお、おそらく最も文章で表現するのが難しいメタルバンドであり、レビュー書き泣かせである。何でもいいからとにかく聴いてくれ、ということで(笑)
どれを買っても損はしないと思うが、一般的に評価が高いのは、3rdアルバム"The
Perfect Element Part1"。Pink FloydやRiverside等の浸り系プログレ好きなら4thアルバム"Remedy
Lane"。初めての人が比較的取っつきやすいと思われるのは6thアルバム"Scarsick"。コンセプトアルバムとしての完成度において最高峰と思われるのは5thアルバム"Be"。
[2011.10.22 初稿]
8thアルバム。本作も海外盤には通常盤と限定盤があり、限定盤の方が2曲多い模様。国内盤は限定盤と同様の構成で、それプラス2曲のボーナストラックがある。ただし、このボーナストラックはどちらも1分以内の小曲となっているので、あまり期待しない方がいい。
前作と同様の路線で、70年代風味の漂うヴィンテージな音が特徴。ただし、本作はギターやドラムの音こそ昔風だが、ミックスそのものはより現代的になっており、比較的いつものPain
Of Salvationっぽいサウンドになっている。前作では明らかにわざとシンプルにしていたであろう曲の構成や音の重ね方なども技巧的になり、彼らの特徴が色濃く出ている。70年代へのオマージュといった雰囲気は薄め。
前作はややシンプルかつ淡泊でダルい曲が多かったのに比べると、本作は起伏に富んだ構成と、意外とメロディアスなリードパートのおかげで、より聴かせる曲になっている。"Used"などの明らかにキラー曲となるような曲はないが、何気に捨て曲もなく、かなり高品質なアルバムといえる。
そもそもPain Of Salvationは毎回異なるアプローチから高品質なアルバムをリリースしてきたバンドだが、本作も今までの彼らの作品とは全く異なる方向ではあるものの、素晴らしい作品であることには間違いないだろう。
なお、"Road Salt One"と比較するなら、圧倒的に本作の方が私の好みである。
前作よりは懐古主義的な雰囲気が少なく、聴かせどころの多いアルバムになっているが、そもそもこの古くさい音が受け付けないという人もいるだろうから、そういう人はパスした方がいいかもしれない。前作が、音質云々はともかく曲がシンプルすぎてつまらなかった、という人なら、本作は結構いけると思う。
[2010.7.5 初稿]
7thアルバム。通常盤と限定盤があり、限定盤はデジパック仕様でオープニングに"what
she means to me"が追加され、"no
way"と"road salt"がextended
versionになっている。私は限定盤しか持っていないので、extended
versionが通常盤とどう違うのかはわからない。8月発売予定の国内盤は1種類しかリリース予定がないので、おそらく限定盤と同じ内容ではないかと思われる。
丸みのあるサウンドやダルな曲調、あまり音を重ねない手法など、全体に昔のロックを彷彿させる曲が多いのが特徴。特にSIDE
Aと銘打たれた前半の曲はその傾向が強く、70年代前半頃のバンドの曲と言っても通用しそうなTr3"she
likes to hide"、シンプルなギター弾き語り曲Tr6"tell
me you don't know"、怪しいミュージカル風サウンドのTr7"sleeping
under the stars"など、面白い曲が並んでいる。それらPOSの中では特殊と言える曲に挟まれるようにして収録されているTr4"sisters"とTr5"of
dust"はアルバム"BE"を彷彿させるような楽曲になっている。
後半のSIDE Bはそういったオマージュ的な手法は薄れて、やや複雑で味の濃い編曲が聴けるようになる。特にTr8"darkness
of mine"、Tr9"linoleum"は、POSファンが安心できる内容の曲ではないだろうか。余談だが、"linoleum"のイントロが"Horcus
Porcus"と似ているのはわざとなのか(笑) 全体を聴けば全然違う曲なのだが。
激しいメタルサウンドはなく、全体にスローテンポで抑え気味の本作は地味な印象だが、もともとPOSはアコースティックライヴアルバム"12:5"や、"BE"で披露していたようなシンプルな構成の曲もやっているので、このアルバムが特に異色というわけでもない。
おそらく"12:5"や"BE"が好きなら気に入るだろう方向のアルバムと言える。"BE"のようにコンセプチュアルな面での楽しみはないが、楽曲的には近い。"The
Perfect Element Part I"みたいなのを期待する人にとってはつまらないかもしれない。
[2007.2.23 初稿]
6thアルバム。今作は特にコンセプトアルバムという形態を取っていないようで、様々なアプローチで作られた多彩な10曲により構成されたアルバムになっている。従来のPOSには見られなかった曲調も数多くある。
曲調そのものはPOSらしいハードな調子だが、ラップ調のマシンガントークでひたすら膨大な歌詞を歌い倒しているのが特徴的なTr2"spitfall"。
珍しく明るくポップな曲調(若干A.C.Tっぽいかもしれない)のくせに、歌詞は直接的かつボロクソにアメリカを批判しているTr4"America"(アメリカンなギターバッキングなのもポイント)。
大昔のディスコミュージックを思わせる、ベタでファンキーな曲調でありながら、見事にPOS節に作り上げているTr5"disco
queen"。5thアルバム"Be"の"Mr.Money"等でも見せていたダニエル・ギルデンロウの多彩な声がここでも発揮されている。
Tr8"ideocracy"は様々な凝った仕掛けによって構成された、このアルバムの中でも特に重厚な曲となっている。POSらしいといえばPOSらしい曲だが、効果音的なギターを多用して無機質な感じを演出しながら、同時にワウギターを用いている点が非常に気持ち悪い。特にヴォーカルとワウギターがユニゾンされる箇所はワウギターが不気味なコーラスのように聞こえ、印象的。
Tr1"Scarsick"は、斬新というほどではないものの、饒舌なラップ調の語りによるハードなパートの間にオリエンタルなメロディパートを挟むのが印象的で、緩急のメリハリがはっきりした鋭い曲になっている。従来のPOSの延長上にあるといえばそうなのだが、意外に毛色の異なる感じがする。
今までのPOSの曲よりも重苦しさが少なめなので、初めて聞く人にはとっきやすいアルバムかもしれない。もちろん従来のファンが失望するようなものでは決してないので、その辺は安心していい。むしろ「どんな曲作っても高水準に仕上げてくるんだな」と感心してしまった。
[2007.3.18 追記]
背表紙の裏側に、こっそりthe perfect element,
part II "he"と書いてあるのを発見(笑) ということは、これは"The
Perfect Element, part I"の対となるコンセプトアルバムで、この全く毛色の異なるsheとheが融合してpartIIIで完結する、という筋書きなのかもしれない。
過大に期待されていたpartIIをこういう形でリリースしたのは、大きすぎる期待からの逃避なのか、それともがっかりさせた後ですごいやつをガツンといく、つまりはpartIIIに対する自信なのか。
音楽の評価とは全く関係ない話だが、ファンの期待は作品をダメにするから、こういう形で決着を付けたのは良かったんじゃないかと思う。
5thアルバムの"Be"を製作するに先駆けて演奏され、収録されたライヴDVD。"BE"を完全再現したツアーライヴではなく、そのアルバムの完成度を高めるために開かれたライヴというところが異例な点。つまり"Be"はそもそも、ライヴで演奏できるように作られたアルバムだったというわけである。
管弦楽団を使ってはいるが、その人数は最小限。フルオーケストラだったりセットが豪華だったりといった無駄なところはなく、見た目はわりとまっとうなライヴステージ。その代わり小道具や照明が巧みに使われており、曲に合わせてダニエルがMr.Moneyに扮してスーツ姿でグラスを持って現れたり、水をかぶったりといった演出を行っている。
観客への目立ったパフォーマンスがあるわけでもなく、かといって完全に演劇のような形態を取るわけでもないこの手法は、ありそうでなかったライヴ形式である。
なお、国内版でも字幕はなし。本編はMCが一切ないので問題ないのだが、コメンタリーはがんばって聞き取るしかない。私は無理。
[2004.12.29 改稿]
5thアルバム。コンセプト自体が複雑なので正確な説明かはわからないが、「起源」を軸として、いくつかのストーリーをまとめたコンセプトアルバムとなっている。
今までの作品は、歌詞がわかるとさらに味わいが増すことはあったが、たとえ全く理解できなくても音楽として楽しむことができるものだった。が、今作は歌詞の重要性が今までと比較にならないほど増しており、はっきり言って英語の聞き取りができない人間が素で聞いても、良さがわかる・わからないという以前に、何がなんだかさっぱり理解できない。音楽なのに、音を耳で聞いただけでは「わからない」というこの感覚は、なんと言えば理解してもらえるだろうか? 歌詞を目で追いながら聴いて、ようやく、なにがしかの判断が下せるようになるわけである。もちろん英語を聞き取れる人間なら、聴くだけで理解できるのだろうが。
私は普段、歌詞が理解できないと良さがわからないような音楽はダメだと考えているのだが、このアルバムは、そういう基準を越えてしまっているように感じる。ともかく、歌詞を理解した後で通して聞くこのアルバムは、もはや圧巻の一言に尽きる。音だけ聞いていては意味のないように見える曲の配列、インスト曲の挟み方なども、歌詞を理解するとカッチリとはまって聞こえるから面白い。
コンセプトアルバムとしてのデキは、今作がPain
Of Salvationの中でもベストだろう。起承転結というか、そういったアルバム全体の流れが完全にできあがっており、音楽で聴く小説のような感覚のある作品に仕上がっている。通して聴いてもダレないし、聴く度に味わいが増してくるようである。
是非とも最初のうちはジャケを片手に丁寧に聞き込んでみてほしい。その価値はある作品である。
[2004.12.29 改稿]
4thアルバム。男女の愛と性、過去と現在の交錯などを題材に取り扱った、身近でありながら深いテーマを持つコンセプトアルバムとなっている。
スローテンポな曲が多く、全体にじんわりと重厚なサウンドで押し倒してくる感じ。変拍子の混ざった切れ味のある展開や複雑で印象的なリフなどの起伏に、ヴォーカルの多彩な歌い方がメロディラインを色彩豊かなものにしている。
3rdアルバムは暴力的な鬼気迫るサウンドによる緊迫感と明確なコンセプトというメリハリのある取り合わせになっており、比較的メタル好きに受ける作りになっていたのに対し、4thアルバムは重くじっくりとした展開、複雑なコンセプトにより、入り組んだ音の迷宮に浸り込むような感覚のある作品になっている。どちらかというとPink
FloydやDream Theaterの"Falling Into
Infinity"のような浸り系音楽寄りといえる(もちろんPink
FloydやDream Theaterとは似つかない音楽性だが、わかりやすい例として挙げた)。
ひとたびトラック1を再生してしまうと最後まで聴かなければならないような気にさせる吸引力と、途中で再生をやめさせない曲と曲の繋ぎ方の巧みさは見事。特に前半、Tr1〜Tr4の持って行き方は完璧で、私は気軽に聴こうとCDプレーヤーにこのアルバムをセットする度、1時間ほど時間を食い潰されている(笑)
通して聴くとものすごく疲れるアルバムだが、この手の麻薬のような重厚迷宮サウンドが好きな人は病み付きになるだろう。
3rdアルバム。「人は何によって歪んでいくのか」というテーマを元に、二人の主人公の幼児期・青春時代の体験を綴ったコンセプトアルバム。Part2が出てから掲載、ということを考えていたが、いつ出るかわからないのでもう書いておく。
全体ににじみでる「痛み」や「苦しみ」が、このアルバムの特徴。コンセプトとしては他の作品に比べ単純なだけに、聞き手に与えるインパクトは強烈。果てしなく暴力的で重苦しく、時折寒気がするほど穏やかな静寂を見せつけるサウンドは鬼気迫るものがある。音楽で恐怖を感じたのは、Pink
Floydの「狂気」以来かもしれない。
ブラックメタルなどにも通じる音で、Pain
Of Salvationの中では、最もメタルらしい音になっていると言える。一般のメタルリスナーが聞くには、最もなじみのある音に仕上がっていると思う。
しかし、高度に編み込まれた曲はやはり「メタル」と一括りにできるような音ではなく、そして比較できる音楽というのも見あたらない。本当の意味で「プログレッシヴ」しているアルバムではないだろうか。
2ndアルバム。戦争、それに伴う環境汚染をテーマにしたコンセプトアルバム。
コンセプトや、それに伴う歌詞や曲調はPoSの作品の中では比較的わかりやすいもので、かつジャケットには歌詞と共に、曲ごとにダニエルによる解説まで付記されているという親切さ。ただ、ちょっと歌詞が読みにくい箇所があるのが、私のように英語に不自由している人が辞書を引きながら解読するには困りもの。
曲はややメカニカルな、電子的で油くさい感じのリフが多いのが特徴。ダークで油くさい、救えない音楽の中にアコースティックサウンドを織り交ぜていく静と動の使い分けは、このアルバムでは特に多用されている。ただ、たとえば3rdアルバムでの「静」の部分は、かえって静かなことで恐怖感をあおる使い方がされていたが、本作の方では本当にほっとするような感じのサウンドになっているのが特徴か。
いずれにせよ、高度な作曲・演奏・歌唱技術を駆使しながら、遊びのない濃密な作品の数々は驚異的である。
国内盤には最後に2曲、ボーナストラックが追加されている。本編とは全然異なった曲になっていて、本当にオマケとなっているのだが、これはこれで面白い。解説によるとダニエルが16歳の時に書いた曲らしい。16歳ですでにこのレベル。とんでもない話である。
1stアルバム。デビューアルバムではあるが、すでにこの時点でPoSの音楽は完成されており、全く文句の付けようがない。
この作品では曲ごとに様々な音楽の要素を取り入れて披露しており、もはやジャンルを定義するのも馬鹿馬鹿しい仕上がりになっている。コンセプトアルバムにしては統一感がない感じだが、Entropiaというアルバムタイトルからすると、あえてそれを狙っているのかもしれない。
そういうわけでなかなか一口に説明できるようなアルバムではない(そもそもEntropiaという概念自体、一口に説明するのが難しい)のだが、強いて言えば暗く重く、攻撃的な曲が多数占める中に、ふとクリーンサウンドの落ち着いた曲が混ざるという、PoSらしいアルバムの作りはこの時点ですでに確立されている、ということだろうか。
アルバム作りの方向が毎回異なるが、PoSのアルバムはデビューから一貫して常に完成度が高い。デビューアルバムだから作りが荒いということはないので、その辺は安心して入手して聴いてみて欲しい。
70年代初期から活動していたイタリアンプログレバンド、PFM。90年代に再結成し、日本で公演を行った時の音源が、このアルバムである。
私はPFMに関してはよく知らないのだが、PFMの代表曲が網羅された音源だそうである。音質も良質で、演奏もいい。たぶんPFMがどんなバンドかを知るには最適のアルバムになっていると思われる。
曲としては情熱的なメロディラインを基調に、壮大なスケールの構成と高い位置で均衡の取れたパートのバランスが特徴。フルートやヴァイオリンを用いることで、民族音楽っぽい、開放感のある雰囲気を作り出している。
70年代プログレの雰囲気を存分に醸し出しながら、音質や機材は今風になっており、今の音質に慣れた耳で聞いても、懐かしさは感じても古さは感じさせない。
70年代のブリティッシュプログレが好きならば、PFMが嫌いという可能性は少ないと思われる。
プログレファンは聴いて損はないだろう。かなりおすすめ。
イギリスのプログレバンド。
ゆったりとした広がりのある音楽の中に狂気を潜めた、サイケデリックなサウンドが特徴。
一度この音楽世界に入り込めば麻薬のように病み付きになるが、基本的にはかなりの負のエネルギーを秘めた陰鬱な曲ばかりなので、元気の無いときに聴くのは危険。
プログレバンドでは珍しく、速弾きなどの技巧的な演出は一切行わず、音楽としてのトータルコンセプトを重視した曲をリリースしている。
おすすめは8thアルバム"Dark Side Of
The Moon(狂気)"、9thアルバム"Wish
You Were Here(炎〜あなたがここにいてほしい)"の2枚。
[2007.4.4 初稿]
1994年のロンドン公演を収録したDVD。2枚組。
ピンク・フロイドのライブ映像はほとんど存在しないが、照明をはじめとする演出が素晴らしいことが特徴で、このライブでもその大がかりな仕掛けの数々を見ることができる。
セットリストは、同年に発表した"The
Division Bell(対-TSUI-)"の公演という名目上、"The
Division Bell"からの曲が多め。しかし後半では"Dark
Side Of The Moon(狂気)"をフル演奏している。
ピンク・フロイドは際だってテクニカルな演奏を見せつけるバンドではないため、ライブで観て果たして面白いものなのかと疑問もあったが、一曲目の"SHINE
ON YOU CRAZY DIAMOND"を聴くと、それも一気に吹き飛んだ。演出効果を除いて演奏面だけ見ても、あの、下手をすれば全面シンセによるプログラム弾きでないかと思わせるような曲を、かっちりと手弾きでやっているというだけで妙な感動があったりする。プラス、ステージの演出効果が見事に曲の進行と一致して仕組まれており、あの一体感は宗教的ですらある。これは実際に体験してもらわないとわからないところだろう。
"The Division Bell"からの曲は、多少普通のライブ形式に振ってある曲があり、ピンク・フロイド独特の良さが減衰してしまっていると感じるものもあったが、全体に見て、あれほど曲と演出の一体感に配慮しているバンドはそうないだろう。抽象的な映像、照明、オブジェの数々は、曲のそれとあいまって素晴らしいトリップ感を味合わせてくれる。
特典映像は、ツアー中のプライベート映像や、ライブ中にステージの丸形スクリーンに映し出されている独特のPVのような映像のノーカット版その他が収録。スクリーン映像に合わせて曲を聴くだけでも充分に面白い。
[2007.4.13 追記]
ちなみに、音楽としての重厚さや奥行きはアルバムの頃とそう変わりないが、あの、うっかりすると生きる気力を失いそうになる「狂気」に関しては、さすがにこのライブではもう感じられない。むしろ聴いていると元気になる(笑) そういう意味では純粋に聴きやすいと言える。
[2007.4.13 改稿]
9thアルバム。
ちょうど、7thアルバム以前と8thアルバムの両方の特性を混ぜたようなバランスのアルバムになっており、8thアルバムほど際だって不気味さを強調しないが、内なる「狂気」は持ち合わせ、同時にコンセプトアルバムとしても完成されているという、非常に高品質な一枚となっている。
時計の音や笑い声などを入れるといった、表面的な「狂気」の演出は減少しており、あからさまに気持ち悪さを狙った効果音は使われていない。しかし、洗練された分さりげなくかつ効果的に使用されており、考えようによってはこちらの方が不気味である。
二部構成の"Shine On You Crazy Diamond"によって挟むようにして構成されているのが特徴。曲数も5曲と絞られており、前作の"Money"のような遊び曲がない分、トータルコンセプトとしては"Dark
Side Of The Moon"より完成度が高いかもしれない。
特に"Shine On You Crazy Diamond"は紛れもなく名曲で、"Dark
Side Of The Moon"以前の「隠れた狂気」を漂わせながら、同時に"Dark
Side Of The Moon"の"Brain Damage"〜"Eclipce"並の楽曲としての完成度も持ち合わせている。
あまりの完成度の高さに、かえって地味な音楽に聞こえてしまうかもしれないが、優しい音の中に潜む狂いっぷりはピンクフロイドのアルバムの中でも随一。下手に聞き込むと、生きる気力まで奪われかねない魔力を秘めた一品。
[2007.4.13 改稿]
8thアルバム。気怠い雰囲気が全体を支配しつつも、不気味な笑い声や様々なノイズが要所で使われ、独特の不気味な世界を構築している作品。
これ以前の曲でも、どこか狂気を漂わせた危険な空気を孕んでいるが、こうしてはっきりと不気味さを演出しているのは初めてとなる。そういう意味では、彼らの狂いっぷりがわかりやすく表に現れた一枚だと言えるかもしれない。
小休止にTr6"Money"を挟んで、大まかに分けて二部構成になっている(元々はレコード盤だった影響)。最初のTr1〜3あたりは、あまり面白い曲でもなく、コンセプトが見えづらくてつまらないかもしれないが、Tr4"Time"のイントロからは一気に緊張感が増してくる。特にTr4"Time"〜Tr5"The
Great Gig In The Sky"への繋ぎと、ラストのTr9"Brain
Damage"〜Tr10"Eclipse"は見事。
ちなみに英語を聞き取れない人は、少なくともTr9〜Tr10の歌詞だけは、辞書でも引いて理解しておくといいだろう。これがわからないと、アルバムタイトル"Dark
Side Of The Moon"の由縁がわからないので、本当の意味での気持ち悪さを味わえない(笑) "Eclipse"は、あの歌詞をあの音に乗せるからすごいのである。
イギリスのプログレバンド。
PINK FLOYD由来のメランコリックなサウンドをベースに、様々なジャンルの音をミックスしたサウンドとなっている。
メランコリックなプログレということでOPETHやRIVERSIDEとよく比較されるバンドだが、PORCUPINE
TREEのそれは雑多な音楽性が眩惑的な印象を与える仕掛けになっており、言われるほど似てはいない。そもそもヘヴィでアップテンポなナンバーはほとんどないので、音楽性は近いが別物と考えた方がいい。
初期の頃はまさしくPINK FLOYDのフォロワー的な雰囲気を漂わせていたのだが、回を重ねるごとに雑多さを増し、OPETHと関わった前後からはヘヴィさも加えつつある。
現代的なサウンドも混ざっているので一応「プログレメタル」としたが、メタルという語感が与えるほどエッジの鋭いサウンドではなく、かといってプログレハードと言うほど甘くもない(特に最近の作品は)。
一曲ごとに聴けばキャッチーでポップですらあるのだが、全体としてはとりとめがなく、掴み所のないサウンド。しかし、そのとりとめのなさこそがこのバンドにおける一貫した特色である、という、いろいろと屈折したバンドである。
[2009.10.1 初稿]
10thアルバム。2枚組。1枚目は全体で組曲構成となっており、2枚目はいわゆるB面扱いのよう。
国内盤はHQCD仕様となっているが、若干高めだったので私はUS盤を選択した。
今作はどちらかというと昔のテイストが強い雰囲気で、Porcupine
Treeの原点である、現代版Pink Floydサウンドが前面に出されている感じ。もっとも、雑多な音楽性を駆使してまとめ上げる手法は相変わらずで、その中である要素がやや強い、といった程度のことではある。
メタル要素は少なめでじっくり聴かせるタイプのアルバムになっているが、組曲構成ということでアルバムを通してはっきりとコンセプトが見え、"fear
of a blank planet"ほど暗くじっとりとした鬱サウンドでもないので、比較的聴きやすいように思われる。実際には迷宮のように複雑な組曲で、何トラック目のどこを聴いているのか、さっぱりわからなくなってくる楽曲群ではあるのだが、"Deadwing"のように真剣に聞き込まなければならないような感じでもなく、受け入れやすい。
最近のPorcupine Treeの作品の中ではリラックスしても聴ける方なので、プログレ好きになら広くお勧めできそうなアルバムである。
余談だが、2枚目のCDの読み取り面には、キズのように見える楕円が刻まれている。実は私のCDにだけあって、つまりは単なる不良品という可能性もあるが、もしかするとこれは、アルバムタイトルにちなんだジョークなのだろうか。
[2009.1.28 改稿]
9thアルバム。長いキャリアのあるイギリスのプログレバンドだが、国内盤が出たのは最近で、私が聞くのもこのアルバムが初めて。6曲収録で最短5分、最長17分と、いかにもプログレらしい構成。
Porcupine Treeのアルバムの中では比較的分かりやすい構成とメロディラインになっているため、聴きやすい部類ではないかと思われる(逆に言うと、ここまでコンセプトのはっきりしたアルバムは珍しい)。
憂鬱な雰囲気を湛えた叙情性重視のじっくりとした曲が多く、ヴォーカルは控えめでインストパートが大部分を占めている。
特に多彩なシンセサウンドによる音作りはいかにもプログレらしいが、音そのものは今時のサウンドで、メタルと呼ぶにはエッジが丸いが、かといってプログレハードと呼べるほど甘くもないという独特の音をしている。
技巧的な展開は少なく、曲の大半はスローテンポ。趣向を凝らした複雑な構成が破綻することなく見事に紡ぎ上げられており、完成度の高い楽曲ばかりなのだが、一般受けするような要素は少なく、なかなかぱっと聴いて良さのわかるようなアルバムではない。じっくり聞き込むタイプ。
ただ、Tr1"Fear of a Blank Planet"だけは例外で、そこそこアップテンポでストレートな構成になっており、かなりメタル寄りのわかりやすい曲になっている。
内向的な鬱系サウンドに抵抗感がなくて、叙情的なプログレが好きならおすすめ。
[2009.1.28 初稿]
8thアルバム。国内初回盤のみ2枚組となっている。2枚目は一種のベスト盤のような趣向となっていて、過去のアルバムに収録された曲にライヴ音源をいくつか混ぜたもの。
ヘヴィな曲やテンポの速めな曲、キャッチーなメロディを配した曲が多く、表面的にはポップな印象なのだが、同時に曲、もしくはアルバム全体で見た時の複雑さもかなりのもの。メランコリックな雰囲気をベースにしつつ、曲ごとに次々とカラーを変えて様々な音楽を披露している。
叙情的なメロディあり、技巧的なギミックあり、繊細な構成ありで聴き所は盛りだくさんなのだが、曲調の多様さ、複雑さに気怠いサウンドが相まって、この手のプログレを聞き慣れていないと寝てしまう可能性もある。私も最初聴いた時は寝てた(笑)
単に複雑なだけでなく、聞き込むほどに素晴らしいドラマ性溢れる構成の曲になっており、プログレ好きがちゃんと聞き込めば間違いなく名作と呼ぶだろう高い完成度を誇るのだが、このアルバムをちゃんと聴くにはそれなりに集中力が必要で、いい加減に聴いているとなんだかよくわからないまま終わっていたりする。疲労時や忙しい時には避けた方がいいだろう。
基本はPink Floyd由来のプログレメタルなのだが、かなり雑多な音楽性を詰め込んでいるため、聴き手を選ぶきらいのあるアルバムとなっている。雑食性かつメランコリックなプログレが好きなら大好物かもしれない。
ピンポイントで印象的なメロディを使っているが、全体としてはメロディアスとはとても言えない構成になっているので、メロディラインがはっきりした曲でなければダメな人には辛いだろう。どちらかというと構成そのものやアンサンブルを聞き込むタイプと言える。
[2009.9.6 初稿]
7thアルバム。Porcupine Treeの国内盤は通常版の他、HQCD仕様のバージョンも発売されているが、こちらは通常版。
メランコリックな雰囲気をベースにしながら様々なジャンルの音楽を詰め込んだ、何とも表現しがたい構成の曲となっている。シンセの遣い方など、所々にPink
Floydの影響を感じさせるが、やっていることはもっと複雑で捉えどころがない。実に偏執的で雑多で高度な技術を駆使して組み立てられている。反面、演奏技術ではテクニカルな面を見せないタイプで、そういう意味でもPink
Floydっぽいと言える。
"Deadwing"と同じ方向性なのだが、こちらの方が曲の味付けがキャッチーで聴きやすい。芸術性で言うと"Deadwing"の方が上だとは思うが、あちらはやっていることがハイレベルすぎて、なかなか曲を楽しむ段階に至るのが難しい印象のあるアルバムだった。それから考えると、本作は娯楽性と芸術性のバランスの点では良好なように思う。
基本的にはどっぷり浸るタイプの曲が多いが、珍しく(?)アップテンポな曲も収録されている(Tr9"The
Creator Has A Mastertape")。油臭いメカニカルなギターリフが印象的。
アメリカのインディーズバンド、Prototypeの2ndアルバム。ツインギターとベースの3人バンド。なぜかドラマーがクレジットされていないが、聴いた限りでは打ち込みのような感じはしない。
スラッシュメタル寄りのプログレは、テクニカル面を優先しすぎてメロディアスさが不足気味な場合が多いのだが、本作はスラッシュメタルとプログレメタルのいいとこ取りをしたような音楽性になっており、攻撃的でギスギスしたギターリフと、メロディアスな構成美を同時に楽しめる、珍しいアルバムになっている。両方兼ね備えているバンドは案外少ない。
単純に「メロディアスなスラッシュメタル」としても聴けるため、プログレやスラッシュにありがちなマニアックさが薄く、聴きやすい。と同時に、ちゃんとプログレとしてもスラッシュメタルとしても聴けるところが面白いところ。
特にTr1"The Way It Ends"のデキは素晴らしく、この一曲のためにアルバムを購入しても惜しくない。
MySpeaceに公式ページを持っており、曲の試聴ができる。
数字・記号 A〜D E〜H I〜L M〜P Q〜T U〜Z あ〜た な〜わ VA その他(自主制作盤など)